滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
235 / 437
リオン編   シリウスという国

リオン編   シリウスという国7

しおりを挟む
 兄様に従い、注意深く身を潜めながら通路を行った。
 すると、次の曲がり角で談笑する二人の人間の姿が見えた。

「リオン。エラジーを持っているか?」

「……はい。あります」

 魔剣エラジーは、普段とても小さいし軽い。
 アースラ様が初代クロス神官に授けたというこの魔剣は、僕の命より大事なもの。常に携帯している。

 他の奴には触れさせることすらとんでもないが、兄様だけは特別だ。
 僕は迷うことなく魔剣を兄様に差し出した。

「リオン。施設の奴らを皆殺しにするぞ。でないと奴隷たちは解放されない」

 兄様は、僕の手を強く握ってそうおっしゃった。

 普段はこのように、兄様に頼りにされることはほとんどない。
 頼ろうにも、僕が馬鹿すぎて頼れないのだと思う。

 悲しい。

 しかし兄様は、とうとう僕を頼りにしてくださったのだッ!!
 思わず「僕もアースラ様のようにお役に立てる機会が来たぞ~」と高笑いしそうになったが、それはあまりに下品というもの。

「わかりました。兄様の仰せのとおりに致します!」

 満面の笑みを浮かべて、可愛らしくそう言った。
 でも次の瞬間、我に返る。

 そんなことしたって、あの子供たちはきっと兄様に感謝なんかしない。
 むしろ逆恨みするかもしれない。

 今までだってそうだった。

 でも僕は兄様の望みなら、なんでもかなえて差し上げたい。
 だからその言葉に従った。

 出会う人間を次々と殺し、奴隷たちを解放してゆく。
 建物には火を放った。

 このやり方はアースラ様の教えと酷似している。

『国民を救ったら、すぐに敵施設は焼払え』

 教本にはそうあった。
 兄様が習ってきた戦術も、クロス神官が教わったものとそう変わらないのかもしれない。

 それを知って少し安心する。

 ただ今回助けたのは『善の結界下にいる自国民』ではない。

 兄様は子供たちの売買契約書を燃やすことも出来て満足そうだったけど、僕にはあの子たちを助けたことが良かったのか悪かったのか、全くわからない。

 ほとんどの子供は成長するに従って、虫や獣のようになるだろう。
 でも出来るなら、アースラ様のように善なる道を求めて欲しい。

 心からそう思った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

消えたいと願ったら、猫になってました。

15
BL
親友に恋をした。 告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。 消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。 …え? 消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません! 「大丈夫、戻る方法はあるから」 「それって?」 「それはーーー」 猫ライフ、満喫します。 こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。 するっと終わる(かもしれない)予定です。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...