滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
232 / 437
リオン編   シリウスという国

リオン編   シリウスという国4

しおりを挟む
「お、おいリオン、起きろ!!」

「ん……兄様……? もう朝ですか?」

 兄様に起こされていつものように幸せに目覚めると、そこは見知らぬ場所だった。
 薄暗くて、じめじめしている。

 おばさんの宿の自分の部屋にいたはずなのに、いったいここはどこなのだろう?

 起き上がろうとして、鎖のじゃらりという音に気がついた。
 ギョッとして辺りを見渡すと、近くには数人の子供が鎖につながれたままうなだれていた。

「何だかよくわからないが、俺たち……さらわれて売られてしまったようなんだ」

「ええっ!!」

 目覚めるなり衝撃の発言を聞いて、僕は思わず叫んだ。

 以前、城の地下神殿に兄様が『すかぁと』を持ってきて下さったことがあった。
 とても綺麗な色のついたお衣装だったけど、それを着て外の世界に行ったらさらわれる……とおっしゃったので渋々あきらめて『ずぼん』にはきかえた。

 その後も兄様が『弟』であることを僕に望んでらっしゃったので、ずっと『ずぼん』で過ごし、昨日おばさんが下さったのもさらわれることを心配してか、やはり『ずぼん』だった。

 なのに何故?

「……やっぱり外の世界は怖いです……どうして売られてしまったのですかぁ……?」

 涙目になりながら兄様に問うと、

「……教えてやろうか?」

 と牢の外から男の声がした。

 長身の、見るからに下品な男だった。

「お前たちのいた宿の主人のミランダって奴はとんだ悪党でよ、身寄りの無い子供を騙してはこうやって売り飛ばすんだ。可哀想になァ」

 男は僕らをからかうかのように言った。

「嘘だ!!
 だっておばさんはいつも親切だったし、俺たちに服まで買ってくれたんだ!!
 最初から売り飛ばすつもりなら、そんな事するはずが無い!!」

 兄様は声を張り上げて叫んだ。
 僕だってそう思う。おばさんはそんな人じゃない。

「それがあるんだよ。奴隷って言っても色々ランクがあって見栄えがするほうが高く売れるんだ。
 だからやせっぽちの孤児を引き取ってはたらふく食わせ、最後の仕上げに子供に良く似合う服を買い与えて着せるんだ。
 その頃にはガキはすっかりババアを信用しているから、与えた菓子に睡眠薬がたっぷり入っているなんて思いもしない。
 事がある夜には泊り客にも睡眠薬入りの飲み物を振舞って、従業員が帰っている夜中に裏から袋詰めして運び出すんだ。
 朝になったら従業員には『子供らは新しい養い親に貰われていった』と説明してるらしいぜ?」

 男はこういうことには慣れているようで、よどみなく説明した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...