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リオン編 シリウスという国
リオン編 シリウスという国2
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「ああ、あたしゃこの宿の主人だよ。
この宿はね、お金さえ払えば誰でも食べたり泊まったり出来るけど、子供だけっていうのはさすがに珍しくてね。ちょっと気になったんだよ。
隣の国で大きな戦があったろ。
坊やたち、もしかしたらそこから来たのかい?」
おばさんは年長者である兄様に、まず話しかけた。
兄様は一瞬、戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに言葉を返した。
「戦で家族を失って逃げてきたんです。
そうだ、おばさん。俺、働口を探しているんです。ここの宿で雇ってもらえないでしょうか?
一生懸命働きます!!」
兄様がそう聞くと、おばさんは難しい顔をした。
息を詰めて返答を待っていたけれど、おばさんは兄様の頼みをあっさりと断り、すぐに仕事に戻ってしまった。
ほらね。
やはり人間は自分にとって利が無くては、何もしてくれないんだよ。
でも『お金』を『稼ぐ』ことが出来ないと僕らは生活していけないらしい。
少なくとも兄様には食料と温かいベッドが必要だ。
……と言っても、子供が仕事を探すと言うのは相当に難しいようだった。
今まで僕は、食事は与えられるのが当然と思って過ごしてきた。
温かい寝床も同様。
でも、外の世界はそうではない。
いったいどうしたらいいのだろう?
僕らはすっかり途方に暮れてしまった。
夜になり、宿のベッドに入った。
でもこれからの事を思うと眠れない。
そんなとき、誰かが部屋のドアをノックした。
音に気づいた兄様もムクリと起き上がり、警戒の色を浮かべる。
「あたしだよ。開けておくれ……」
聞き覚えのあるその声は、昼間少ししゃべったこの宿の人のものだった。
ドアをあけると、例のおばさんがすまなさそうに立っていた。
「昼間は冷たい事言ってごめんよ。
でもあたしも、あれから色々考えたんだ。
この国は15才以下の子供の労働は認められてない。
けれど、親や親族の店を手伝うことだけは許されているんだ。
だからもし、本当に身寄りがないのだったらおばさんの子供になって働かないかい?
私には娘が一人いたんだけど、なくしちまってね。あんたたちみたいな可愛い子供ができたら、あたしも寂しくなくなるような気がするよ。
まぁウチは見てのとおり貧乏宿屋だから、贅沢はさせてあげられないけど、あんたたちを食べさせていくことぐらいなら出来ると思うよ?」
僕と兄様は、いきなりのことにびっくりしてすぐには口も利けなかった。
「まあ、すぐに返事なんて出来ないだろうからゆっくり考えといておくれ。
そうそう、ウチみたいな安宿に来るぐらだからお金、あんまりないんだろ?
屋根裏部屋でよかったらタダで泊めてあげるから、とりあえず明日からあっちに移りな。
それから養子の件はともかく、ウチの仕事をこっそり手伝ってくれたらご飯は3食つけてあげる。
あんたたちは子供だし、外聞が悪いから人目につかない裏方仕事しかさせてやれない。多分それなりにきついけど……どうするかい?」
兄様は考え込んだ。
でも僕は少し心が動いた。
あの人間は、自分に利が無くとも僕達を精一杯助けようとしてくれている。
過去に酷い目に合ったにもかかわらず。
エドガーさんとは違う。
僕たちからなんの恩恵も受けていないし、ここには『善の結界』もない。
なのにあの人は、手を差し伸べようとしてくれているように見えた。
だからあの人の優しさは、兄様同様『本物』に違いない。
僕は父母というものを知らない。
でも兄様が読んでくださった御本に出て来た『母親』は『友』よりも更に温かく素晴らしかった。
僕にも『お母さん』が欲しかったな……。
兄様一人でも僕には十分すぎるぐらいだけれど、僕を深く想って下さる人がもうひとり増えたら、今より更に楽しくなるに違いない。
そう思って、心が動いたのだ。
でも兄様は、首を縦には振らなかった。
おばさんはあんなに優しそうなのに、何が不満なのだろう?
僕には全然わからない。
とても残念だったけど、僕は兄様に従った。
この宿はね、お金さえ払えば誰でも食べたり泊まったり出来るけど、子供だけっていうのはさすがに珍しくてね。ちょっと気になったんだよ。
隣の国で大きな戦があったろ。
坊やたち、もしかしたらそこから来たのかい?」
おばさんは年長者である兄様に、まず話しかけた。
兄様は一瞬、戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに言葉を返した。
「戦で家族を失って逃げてきたんです。
そうだ、おばさん。俺、働口を探しているんです。ここの宿で雇ってもらえないでしょうか?
一生懸命働きます!!」
兄様がそう聞くと、おばさんは難しい顔をした。
息を詰めて返答を待っていたけれど、おばさんは兄様の頼みをあっさりと断り、すぐに仕事に戻ってしまった。
ほらね。
やはり人間は自分にとって利が無くては、何もしてくれないんだよ。
でも『お金』を『稼ぐ』ことが出来ないと僕らは生活していけないらしい。
少なくとも兄様には食料と温かいベッドが必要だ。
……と言っても、子供が仕事を探すと言うのは相当に難しいようだった。
今まで僕は、食事は与えられるのが当然と思って過ごしてきた。
温かい寝床も同様。
でも、外の世界はそうではない。
いったいどうしたらいいのだろう?
僕らはすっかり途方に暮れてしまった。
夜になり、宿のベッドに入った。
でもこれからの事を思うと眠れない。
そんなとき、誰かが部屋のドアをノックした。
音に気づいた兄様もムクリと起き上がり、警戒の色を浮かべる。
「あたしだよ。開けておくれ……」
聞き覚えのあるその声は、昼間少ししゃべったこの宿の人のものだった。
ドアをあけると、例のおばさんがすまなさそうに立っていた。
「昼間は冷たい事言ってごめんよ。
でもあたしも、あれから色々考えたんだ。
この国は15才以下の子供の労働は認められてない。
けれど、親や親族の店を手伝うことだけは許されているんだ。
だからもし、本当に身寄りがないのだったらおばさんの子供になって働かないかい?
私には娘が一人いたんだけど、なくしちまってね。あんたたちみたいな可愛い子供ができたら、あたしも寂しくなくなるような気がするよ。
まぁウチは見てのとおり貧乏宿屋だから、贅沢はさせてあげられないけど、あんたたちを食べさせていくことぐらいなら出来ると思うよ?」
僕と兄様は、いきなりのことにびっくりしてすぐには口も利けなかった。
「まあ、すぐに返事なんて出来ないだろうからゆっくり考えといておくれ。
そうそう、ウチみたいな安宿に来るぐらだからお金、あんまりないんだろ?
屋根裏部屋でよかったらタダで泊めてあげるから、とりあえず明日からあっちに移りな。
それから養子の件はともかく、ウチの仕事をこっそり手伝ってくれたらご飯は3食つけてあげる。
あんたたちは子供だし、外聞が悪いから人目につかない裏方仕事しかさせてやれない。多分それなりにきついけど……どうするかい?」
兄様は考え込んだ。
でも僕は少し心が動いた。
あの人間は、自分に利が無くとも僕達を精一杯助けようとしてくれている。
過去に酷い目に合ったにもかかわらず。
エドガーさんとは違う。
僕たちからなんの恩恵も受けていないし、ここには『善の結界』もない。
なのにあの人は、手を差し伸べようとしてくれているように見えた。
だからあの人の優しさは、兄様同様『本物』に違いない。
僕は父母というものを知らない。
でも兄様が読んでくださった御本に出て来た『母親』は『友』よりも更に温かく素晴らしかった。
僕にも『お母さん』が欲しかったな……。
兄様一人でも僕には十分すぎるぐらいだけれど、僕を深く想って下さる人がもうひとり増えたら、今より更に楽しくなるに違いない。
そう思って、心が動いたのだ。
でも兄様は、首を縦には振らなかった。
おばさんはあんなに優しそうなのに、何が不満なのだろう?
僕には全然わからない。
とても残念だったけど、僕は兄様に従った。
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