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リオン編 友達
リオン編 友達8
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渡された『さきん』を持って、僕は元来た夜道を駆けていった。
そして兄様のお言いつけどおり、ご婦人に手渡した。
ご婦人は喜んで受け取った。
それが無くては『エルシオンの王子』が暮らすのにも困るようになるのでは……と想像さえせずに、ありがたく手を出した。
人間というものは、自分にとって都合の良い贈り物を受け取る時だけは『善人の笑顔』を見せる。
なんて浅ましい。
僕はああはならない。
お金はいらない。守護もいらない。人並みの暮らしも幸せも。
ただ、優しい兄様が傍に居て下さればいい。
程なくして戻った僕は、兄様と共に深い闇に向かって歩き始めた。
手ひどく殴られた兄様がお可哀相で休ませてあげたかったけれど、ここから少しでも離れる必要がある。
あのご婦人はニコニコとした顔で『さきん』を受け取ったけれど、朝になったら気が変わるかもしれない。
そして僕らを『贄』にするために、民たちと共に追いかけて来るかもしれない。
今の兄様の状態ではゆっくりしか進めず、すぐに追いつかれてしまうだろう。
皆を殺して追い払うのはとても簡単なことだけど、お優しい兄様はエドガーさん一人を殺しただけで、ものすごく悲しんだ。
兄様の前で、これ以上国民を殺すことは避けたい。
僕は細心の注意を払いながら兄様と歩き続けた。
空に薄明かりが差してきた頃、ふと足を止め目を閉じた。
あの場所に残された民たちの大声が、僕の耳にはっきりと聞こえたのだ。
起きだしたあの者達は、ご婦人から見せられた『さきん』を奪い合い、殺しあっていた。
理由は様々だ。
ある者は、「私の家族を買い戻すためにそれがもっと必要だ」と叫び、ある者は、「見知らぬ国外でやり直すには、これだけでは足りない!」と叫ぶ。
よこせ……もっと……もっと……もっと……!!
ご婦人の持ち物を奪った者が、あらかじめ取り分け隠していたと思われる多量の『さきん』を見つけたようだ。ご婦人の卑怯さを大声で罵っている。
自分だって、勝手に他人の荷を……おそらくは奪い取るつもりで暴いたに違いないのに。
『善の結界』を失った民たちは、何と汚く見苦しいのだろう。
さらに離れたところから、アレス兵の軍馬のいななきが聞こえた。
彼らはまもなく民達の元に到着する。
「どうした、リオン?」
その質問に、僕はただ微笑んだ。
あの時、ご婦人が『王子の身の上』を思い、手を出さなかったら。
せめて目覚めた民たちが、兄様に感謝して仲良く『さきん』を分けたなら。
僕は引き返して彼らを助けただろう。
だって僕は、民を守護するために育てられた『クロス神官』なのだから。
でも、もう――――あの人たちは僕や兄様とは関係ない。
アレは愛する国民ではなく、ただのケダモノ。
勝手に争い、勝手に死ねばいい。
それが、天に唾した罰なのだから。
そして兄様のお言いつけどおり、ご婦人に手渡した。
ご婦人は喜んで受け取った。
それが無くては『エルシオンの王子』が暮らすのにも困るようになるのでは……と想像さえせずに、ありがたく手を出した。
人間というものは、自分にとって都合の良い贈り物を受け取る時だけは『善人の笑顔』を見せる。
なんて浅ましい。
僕はああはならない。
お金はいらない。守護もいらない。人並みの暮らしも幸せも。
ただ、優しい兄様が傍に居て下さればいい。
程なくして戻った僕は、兄様と共に深い闇に向かって歩き始めた。
手ひどく殴られた兄様がお可哀相で休ませてあげたかったけれど、ここから少しでも離れる必要がある。
あのご婦人はニコニコとした顔で『さきん』を受け取ったけれど、朝になったら気が変わるかもしれない。
そして僕らを『贄』にするために、民たちと共に追いかけて来るかもしれない。
今の兄様の状態ではゆっくりしか進めず、すぐに追いつかれてしまうだろう。
皆を殺して追い払うのはとても簡単なことだけど、お優しい兄様はエドガーさん一人を殺しただけで、ものすごく悲しんだ。
兄様の前で、これ以上国民を殺すことは避けたい。
僕は細心の注意を払いながら兄様と歩き続けた。
空に薄明かりが差してきた頃、ふと足を止め目を閉じた。
あの場所に残された民たちの大声が、僕の耳にはっきりと聞こえたのだ。
起きだしたあの者達は、ご婦人から見せられた『さきん』を奪い合い、殺しあっていた。
理由は様々だ。
ある者は、「私の家族を買い戻すためにそれがもっと必要だ」と叫び、ある者は、「見知らぬ国外でやり直すには、これだけでは足りない!」と叫ぶ。
よこせ……もっと……もっと……もっと……!!
ご婦人の持ち物を奪った者が、あらかじめ取り分け隠していたと思われる多量の『さきん』を見つけたようだ。ご婦人の卑怯さを大声で罵っている。
自分だって、勝手に他人の荷を……おそらくは奪い取るつもりで暴いたに違いないのに。
『善の結界』を失った民たちは、何と汚く見苦しいのだろう。
さらに離れたところから、アレス兵の軍馬のいななきが聞こえた。
彼らはまもなく民達の元に到着する。
「どうした、リオン?」
その質問に、僕はただ微笑んだ。
あの時、ご婦人が『王子の身の上』を思い、手を出さなかったら。
せめて目覚めた民たちが、兄様に感謝して仲良く『さきん』を分けたなら。
僕は引き返して彼らを助けただろう。
だって僕は、民を守護するために育てられた『クロス神官』なのだから。
でも、もう――――あの人たちは僕や兄様とは関係ない。
アレは愛する国民ではなく、ただのケダモノ。
勝手に争い、勝手に死ねばいい。
それが、天に唾した罰なのだから。
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