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リオン編 友達
リオン編 友達6★
しおりを挟む兄様を殴るエドガーさんに、音もなく近づいて行った。
彼は兄様を痛めつけることに夢中で、僕がすぐそばに来ても気づかない。
「僕の兄様に、何をなさってるんでしょうかねぇ?」
手には魔剣エラジー。
倒れた兄様に、馬乗りになって殴り続けるエドガーさんを見下ろす形で立った。
憎しみにより力を増したのか、魔剣の刀身はいつもより長くなっている。
その先はエドガーさんの心臓近くを貫いていた。
「兄様に危害を加える凶悪な害獣は、もう退治致しました。
ご安心なさってください」
僕はにっこりと兄様に微笑んだ。
そして魔剣を引き抜き、痙攣を続けるエドガーさんの襟首を掴んで傍らに投げ捨てた。
コレは人間なんかじゃない。獣だ。
与えられる幸福を当たり前のものとして受け取り、その犠牲に感謝もしない。
こんなモノが僕や兄様と同じなわけがない。
いや、兄様だけが『特別』なのかも。
人間のほとんどは、エドガーさんのような屑なのかも。
だから師は『外の世界は恐ろしい』と言っていたに違いない。
「外の世界って本当に怖いのですね。
兄様と親しそうに話していた『優しいエドガーさん』があんな方だったとは」
僕は小さく震えていた。
目には見えないヒトの偽善や悪意が、本当に怖かったのだ。
それから振り返って、エドガーさんを冷たい目で見下ろした。
「ねえ、エドガーさん?
好き放題言ってくださいましたけど、僕からもあなたに一言、言わせてくださいね」
僕は少しかがみ、横たわったままのエドガーさんに言った。
「あなたやあなたのご家族が、今まで無事に暮らせていたのは、誰のおかげかご存知でしょうか?
さっきあなたは『国民全てを犠牲にしてまで弟一人を助けるなんて間違っている』と兄様におっしゃいましたね。
でも僕は兄様に会うまで、あなたのように日の光を浴びて自由に過ごしたり、身内と笑い合って暮らすという幸せを知りませんでした。
僕は、僕を想って下さる兄様のためになら今からだって自由のない地下に戻って一生祈りを捧げ続ける事が出来ます。
でも……僕を犠牲にするのが『当然』だと考えるあなたのためになど、馬鹿馬鹿しくって出来ません。
何も知りもしないで、僕や兄様を否定するあなたを許さない」
そこまで言って、気がついた。
もうこの害獣の心臓は、音を刻んでいないってことを。
僕の言葉は、半分もエドガーさんに届かなかった。
もっと言ってやりたかったのに。
クロス神官はアースラ様の気高き教えもあって、一撃で止めを刺す方法しか習得しない。
殺すつもりまでは無かったので心臓を外したのだが、たくさんの血が流れてすぐに死んでしまった。
人間というのは、なんと脆いのだろう。
これが人間……。
僕達クロス神官が、人並みの幸せをあきらめてまで守り続けた人間。
心も体もひどく粗悪で、一皮向けば野の獣と同じだ。
もう涙も出なかった。
こんなもののために、僕らは心身をすり減らして頑張ってきたなんて。
「兄様、エドガーさんの死体は茂みにかくしておきました。
さあ行きましょう」
僕は兄様だけをいざなった。
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