滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
224 / 437
リオン編   友達

リオン編   友達4

しおりを挟む
 僕らクロス神官は『外』には出られない。
 身内と過ごす事も無く、ただ修行に明け暮れた。

 人々のために『善の結界』を張り続けてきた。

 修行で怪我をしてつらい日もあった。
 眠けと疲労でフラフラになった日もあった。

 それは僕だけでなく、クロスⅦや代々の術士も一緒だ。

 他国がわが国を侵略しようとするたび、クロス神官は王から祈りの強化を求められる。
 国内にゆるく張る程度でもキツイのに、敵兵たちの戦意を『砕く』ほどに結界レベルを上げるのは、まさしく『命を削るような作業』だった。

 それでも僕らは、王と共に人々を守ることを喜び、誇りに思っていた。

 エルシオン軍は約40万人から成っていたという。

 それなのに、僕らクロス神官がたった数人で300年間守り続けた国を、易々と陥落させてしまった。

 これを怠惰といわず何といえば良いのだ。
 兄様はただ僕の境遇を哀れんで……そして、親である王に殺されそうになりながらも僕を連れ出してくださっただけなのに。

 城にはまだ王がいて、大勢の臣も居た。
 僕らよりずっと長く生きていて、体の大きい軍人達も。

 彼らの怠惰により国が滅んだのだから、兄様が一方的にエドガーさんに批難され、殴られるなんて絶対におかしい。

 でもエドガーさんの言葉から、わかってしまった。
 『クロス神官』は師が言っていたような『全国民から感謝されるような存在』ではなかった事が。

 僕は地下神殿で暮らしていたあの頃だって、けっして不幸ではなかった。

 何の娯楽も無く、ただ毎日修行し、人々のために祈り続ける生活だったけど。
 『幸せ』という言葉すら知らなかったけど。
 それでも僕は満足していた。

 未来の王たる兄様と臣民のお役に立つために、つらい修行も喜んで受けた。
 いつかアースラ様やクロスⅦのような立派な神官魔道士となって兄様や国民に喜んでもらうことが出来れば、それで良かった。

 にもかかわらず、何故兄様が僕をあれほど哀れんだのか……。
 あの時の僕にはわからなかったけど、今ならわかる。

 多分兄様も知っていたに違いない。
 僕らクロス神官に感謝する国民なんか『一人もいない』ってことを。

 その事を兄様は、けっして言わなかったけれど。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...