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リオン編   友達

リオン編   友達3

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 夢の中での僕は幸せだった。

 兄様の代わりに焚き火の番をしようと思っていたけれど、兄様が膝枕をしてくださるとおっしゃるので、ついうっかり頷いてしまった。

 そして気がついたら眠りに落ちてしまっていた。

 でも、兄様の膝はとても気持いい。

 夢の中でも兄様は、優しく愛情を込めて僕の名を呼んで下さる。
 それがとても……とても嬉しい。

 ついさっきまで『この体』は僕のものではなかった。
 汚き魔獣のものだった。

 兄様はその間『僕』ではなく、この体に寄生する汚らわしい魔獣の名を呼んでいらした。
 たとえそれが便宜上のものであったとしても、僕はそれがとても悲しかった。


 火がパチパチとはぜる音がする。
 ふと目が覚めると、火の番をしていたはずの兄様とエドガーさんの姿が無かった。

 飛び起きて火の番をしていた女の人に、二人の行方を聞いてみる。
 どうも『二人で』森の奥へ行ってしまったようだ。

 いくら寝込んでいたとはいえ、僕を仲間はずれにするなんて酷いよ。
 友達と遊ぶなら、僕も誘って欲しかった。

 女の人が教えてくれた方向に歩きながら耳を澄ますと、二人の声が聞こえた。

 地下神殿に居た頃は外の音は『修行の妨げ』になるとかで一切聞けないようにしてあったけど、今は結界が無いので『魔獣の力』を使って広範囲の物音を聞き取る事が出来る。

 兄様たちがどんな遊びをしているのか、ワクワクしながら耳を澄ませた。
 しかし聞こえてきたのは、僕が考えていたような、楽しげな声ではなかった。

「…………じゃあ、この事態はお前のせいじゃないか!!
 お前が結界を壊しさえしなかったら、アレス帝国はうちの領土にまではきっと攻め込めなかった。
 父さんも母さんも死ななかった!!
 町の人たちだって弟だって……」

 突然エドガーさんが叫びだした。僕の耳が痛くなるほどの声で。

「……すまない……」

 次に続くのは、兄様の細い声。その声にまたエドガーさんは激高する

「すまないだと!!
 俺たち国民は次の王であるお前を信じていた!!
 次代もきっと立派に国を治めて更に豊かなすばらしい国にしてくれるって!!
 確かにお前の弟は可愛いさ。お人形か天使みたいだもんな。
 でも王族のくせに、たった一人の子供と国のみんなを秤にかけて、こんな風に裏切るなんて!!
 ……畜生!! 畜生!! 畜生ーッ!!!!」

 エドガーさんが兄様を殴る音がする。
 それは一発や二発ではなく、ずっと続いた。

 どうして?

 エドガーさんは兄様の友達でしょ?

 友達と言うのは友情を分かち合って、共に困難を乗り越えるものなのでしょ?
 どうして無抵抗の兄様を殴るのですか?

 確かに国の崩壊の一因は兄にある。

 でもアレス兵を撃退出来なかったのは、兄様のせいではない。
 結界に甘えて鍛錬を怠った『国軍』のせいだ。

 だって僕はもう、兄様に聞いて知っている。

 神官魔道士が国を守護してるのなんて『ウチの国』ぐらいのものだ。
 普通は神官魔道士にだけ押し付けたりはぜず、大勢の人からなる『軍隊』が国を守るのだ。

 そして形ばかりとはいえ、国軍はエルシオンにもあった。

 
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