223 / 437
リオン編 友達
リオン編 友達3
しおりを挟む
夢の中での僕は幸せだった。
兄様の代わりに焚き火の番をしようと思っていたけれど、兄様が膝枕をしてくださるとおっしゃるので、ついうっかり頷いてしまった。
そして気がついたら眠りに落ちてしまっていた。
でも、兄様の膝はとても気持いい。
夢の中でも兄様は、優しく愛情を込めて僕の名を呼んで下さる。
それがとても……とても嬉しい。
ついさっきまで『この体』は僕のものではなかった。
汚き魔獣のものだった。
兄様はその間『僕』ではなく、この体に寄生する汚らわしい魔獣の名を呼んでいらした。
たとえそれが便宜上のものであったとしても、僕はそれがとても悲しかった。
火がパチパチとはぜる音がする。
ふと目が覚めると、火の番をしていたはずの兄様とエドガーさんの姿が無かった。
飛び起きて火の番をしていた女の人に、二人の行方を聞いてみる。
どうも『二人で』森の奥へ行ってしまったようだ。
いくら寝込んでいたとはいえ、僕を仲間はずれにするなんて酷いよ。
友達と遊ぶなら、僕も誘って欲しかった。
女の人が教えてくれた方向に歩きながら耳を澄ますと、二人の声が聞こえた。
地下神殿に居た頃は外の音は『修行の妨げ』になるとかで一切聞けないようにしてあったけど、今は結界が無いので『魔獣の力』を使って広範囲の物音を聞き取る事が出来る。
兄様たちがどんな遊びをしているのか、ワクワクしながら耳を澄ませた。
しかし聞こえてきたのは、僕が考えていたような、楽しげな声ではなかった。
「…………じゃあ、この事態はお前のせいじゃないか!!
お前が結界を壊しさえしなかったら、アレス帝国はうちの領土にまではきっと攻め込めなかった。
父さんも母さんも死ななかった!!
町の人たちだって弟だって……」
突然エドガーさんが叫びだした。僕の耳が痛くなるほどの声で。
「……すまない……」
次に続くのは、兄様の細い声。その声にまたエドガーさんは激高する
「すまないだと!!
俺たち国民は次の王であるお前を信じていた!!
次代もきっと立派に国を治めて更に豊かなすばらしい国にしてくれるって!!
確かにお前の弟は可愛いさ。お人形か天使みたいだもんな。
でも王族のくせに、たった一人の子供と国のみんなを秤にかけて、こんな風に裏切るなんて!!
……畜生!! 畜生!! 畜生ーッ!!!!」
エドガーさんが兄様を殴る音がする。
それは一発や二発ではなく、ずっと続いた。
どうして?
エドガーさんは兄様の友達でしょ?
友達と言うのは友情を分かち合って、共に困難を乗り越えるものなのでしょ?
どうして無抵抗の兄様を殴るのですか?
確かに国の崩壊の一因は兄にある。
でもアレス兵を撃退出来なかったのは、兄様のせいではない。
結界に甘えて鍛錬を怠った『国軍』のせいだ。
だって僕はもう、兄様に聞いて知っている。
神官魔道士が国を守護してるのなんて『ウチの国』ぐらいのものだ。
普通は神官魔道士にだけ押し付けたりはぜず、大勢の人からなる『軍隊』が国を守るのだ。
そして形ばかりとはいえ、国軍はエルシオンにもあった。
兄様の代わりに焚き火の番をしようと思っていたけれど、兄様が膝枕をしてくださるとおっしゃるので、ついうっかり頷いてしまった。
そして気がついたら眠りに落ちてしまっていた。
でも、兄様の膝はとても気持いい。
夢の中でも兄様は、優しく愛情を込めて僕の名を呼んで下さる。
それがとても……とても嬉しい。
ついさっきまで『この体』は僕のものではなかった。
汚き魔獣のものだった。
兄様はその間『僕』ではなく、この体に寄生する汚らわしい魔獣の名を呼んでいらした。
たとえそれが便宜上のものであったとしても、僕はそれがとても悲しかった。
火がパチパチとはぜる音がする。
ふと目が覚めると、火の番をしていたはずの兄様とエドガーさんの姿が無かった。
飛び起きて火の番をしていた女の人に、二人の行方を聞いてみる。
どうも『二人で』森の奥へ行ってしまったようだ。
いくら寝込んでいたとはいえ、僕を仲間はずれにするなんて酷いよ。
友達と遊ぶなら、僕も誘って欲しかった。
女の人が教えてくれた方向に歩きながら耳を澄ますと、二人の声が聞こえた。
地下神殿に居た頃は外の音は『修行の妨げ』になるとかで一切聞けないようにしてあったけど、今は結界が無いので『魔獣の力』を使って広範囲の物音を聞き取る事が出来る。
兄様たちがどんな遊びをしているのか、ワクワクしながら耳を澄ませた。
しかし聞こえてきたのは、僕が考えていたような、楽しげな声ではなかった。
「…………じゃあ、この事態はお前のせいじゃないか!!
お前が結界を壊しさえしなかったら、アレス帝国はうちの領土にまではきっと攻め込めなかった。
父さんも母さんも死ななかった!!
町の人たちだって弟だって……」
突然エドガーさんが叫びだした。僕の耳が痛くなるほどの声で。
「……すまない……」
次に続くのは、兄様の細い声。その声にまたエドガーさんは激高する
「すまないだと!!
俺たち国民は次の王であるお前を信じていた!!
次代もきっと立派に国を治めて更に豊かなすばらしい国にしてくれるって!!
確かにお前の弟は可愛いさ。お人形か天使みたいだもんな。
でも王族のくせに、たった一人の子供と国のみんなを秤にかけて、こんな風に裏切るなんて!!
……畜生!! 畜生!! 畜生ーッ!!!!」
エドガーさんが兄様を殴る音がする。
それは一発や二発ではなく、ずっと続いた。
どうして?
エドガーさんは兄様の友達でしょ?
友達と言うのは友情を分かち合って、共に困難を乗り越えるものなのでしょ?
どうして無抵抗の兄様を殴るのですか?
確かに国の崩壊の一因は兄にある。
でもアレス兵を撃退出来なかったのは、兄様のせいではない。
結界に甘えて鍛錬を怠った『国軍』のせいだ。
だって僕はもう、兄様に聞いて知っている。
神官魔道士が国を守護してるのなんて『ウチの国』ぐらいのものだ。
普通は神官魔道士にだけ押し付けたりはぜず、大勢の人からなる『軍隊』が国を守るのだ。
そして形ばかりとはいえ、国軍はエルシオンにもあった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

侯爵夫人の手紙
桃井すもも
恋愛
侯爵夫人ルイーザは、王都の邸を離れて湖畔の別荘にいた。
別荘は夫の祖父が終の棲家にしていた邸宅で、森と湖畔があるだけの静かな場所だった。
ルイーザは庭のブランコを揺らしながら、これといって考えることが何もないことに気が付いた。
今まで只管忙しなく暮らしてきた。家の為に領地の為に、夫の為に。
ついつい自分の事は後回しになって、鏡を見る暇も無かった。
それが今は森と湖畔以外は何もないこの場所で、なんにもしない暮らしをしている。
何故ならルイーザは、家政も執務も社交も投げ出して、王都の暮らしから飛び出して来た。
そうして夫からも、逃げ出して来たのであった。
❇後半部分に出産に関わるセンシティブな内容がございます。関連話冒頭に注意書きにて表記をさせて頂きます。苦手な方は読み飛ばして下さいませ。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後に激しい修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。妄想なので史実とは異なっております。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない
望月 或
恋愛
「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」
ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。
まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。
彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。
そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。
仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。
そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。
神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。
そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった――
※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。
※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
【R18/完結】強面騎士団長の慰め係〜こんなに絶倫なんて聞いてません!!〜
河津ミネ
恋愛
第三騎士団のリスはクマより強い――最近王城ではそんな笑い話がよく聞かれる。
子リスこと事務官のクラリスが、強面クマ男のジークベルトと毎日のように言い合いをしているからだ。
「うるせえぞ、チビ!」
「私が小さいんじゃなくて団長がデカいんですよ! もう、このデカブツ!!」
そんな子どもじみた言い合いをしていたある日、クラリスが罠にはまったところをジークベルトに助けられる。一見怪我はないように見えたが、その夜からジークベルトの身体に異変が起こり――!?
★R18なシーンには※を付けます。

木曜日生まれの子供達
十河
BL
毒を喰らわば皿まで。番外編第四弾。
五十四歳の誕生日を迎えたアンドリムは、ヨルガと共に残された日々を穏やかに過ごしていた。
年齢を重ねたヨルガの緩やかな老いも愛おしく、アンドリムはこの世界に自らが招かれた真の理由を、朧げながらも理解しつつある。
しかし運命の歯車は【主人公】である彼の晩年であっても、休むことなく廻り続けていた。
或る日。
宰相モリノから王城に招かれたアンドリムとヨルガは、驚きの報告を受けることになる。
「キコエドの高等学院に、アンドリム様の庶子が在籍しているとの噂が広まっています」
「なんと。俺にはもう一人、子供がいたのか」
「……面白がっている場合か?」
状況を楽しんでいるアンドリムと彼の番であるヨルガは、最後の旅に出ることになった。
賢妃ベネロペの故郷でもある連合国家キコエドで、二人を待つ新たな運命とはーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる