220 / 437
リオン編 慟哭
リオン編 慟哭8
しおりを挟む
僕は全力を尽くして『にっこりと』『可愛らしく』『善良に』微笑んだ。
「魔獣を制した以上、もう僕は一人前の神官魔道士です。
正式継承を受ける20才の時点の力よりはかなり劣るでしょうが、兄様一人を守るぐらいの力は十分にあります。
これからは僕が兄様のお役に立ちます。何でもお申し付けくださいね」
言いつつもちろん、血塗られた両手は後ろに隠した。
それでもまだ兄様は、微妙な表情を浮かべたままだ。
どうやら里の子供たちがやっていた『笑ってごまかす』という高等戦術は僕には難しかったらしい。
でも、ここで諦めてはいけない。
「もう一度言いますけど、ヴァティールが言ったのは嘘ですから。
確かに祭壇に動物の生き血を捧げたり、聖布に撒いたりはしましたが、あれは確かに動物でした。
クロスⅦは国の民に危害を加える狼を供物に使っていました。
害獣も始末できるし一石二鳥です。
ヴァティールは血を好む魔獣ですので、魔力を枯渇させないためにも週に一度は生き血を捧げないといけないのです。
そうしないと魔力が足りなくなって、結界を維持できないから……」
そう!!
悪いのはアホでクソな、あの魔獣!!
魔獣が血なんて欲しがるからいけないのだ。
確かに、狼の生き血を使った儀式はしていた。
これは本当だし、害獣を贄に捧げることに問題があろうはずは無いからごまかす必要は無い。
ただ、狼ととてもよく似た外見の『犬』たちを里の人や兄様は可愛がっていたから、心証は悪いかもしれない。
でも兄様、『国を守るため』には仕方が無かったんです~!!
『お仕事』だからやっていたんです~っ!!!
もちろん『人間の血』なんか絶対使ってないです~っ!!!
そういう僕ですので、今回手につけてた血も人間のものなんかじゃないです~!!
……と、僕は言葉の端々で何げに強調しておいた。
今回だけは本当に人間の血を使ったけれど、そんなの言わなきゃわかるわけがない。
人間も狼も『血の色』は同じ赤だ。
「そ、そうか、動物……だった……んだよ……な。そうだよな、いくらなんでも……」
よしっ!! 勝った!!
僕はついに、誤魔化しきったのだ!!
心の中で万歳三唱をする。
糞魔獣のおかげでハラハラさせられたが、これで僕と兄様は元通りの仲良し兄弟に戻れるはずだ。
「……会いたかった、ずっとずっと会いたかったのです、兄様……。
ヴァティールの中で僕は……僕を心配してくださる兄様の声を聞きました!!」
そう言って――――僕はかわゆく兄様に抱きついた。
「魔獣を制した以上、もう僕は一人前の神官魔道士です。
正式継承を受ける20才の時点の力よりはかなり劣るでしょうが、兄様一人を守るぐらいの力は十分にあります。
これからは僕が兄様のお役に立ちます。何でもお申し付けくださいね」
言いつつもちろん、血塗られた両手は後ろに隠した。
それでもまだ兄様は、微妙な表情を浮かべたままだ。
どうやら里の子供たちがやっていた『笑ってごまかす』という高等戦術は僕には難しかったらしい。
でも、ここで諦めてはいけない。
「もう一度言いますけど、ヴァティールが言ったのは嘘ですから。
確かに祭壇に動物の生き血を捧げたり、聖布に撒いたりはしましたが、あれは確かに動物でした。
クロスⅦは国の民に危害を加える狼を供物に使っていました。
害獣も始末できるし一石二鳥です。
ヴァティールは血を好む魔獣ですので、魔力を枯渇させないためにも週に一度は生き血を捧げないといけないのです。
そうしないと魔力が足りなくなって、結界を維持できないから……」
そう!!
悪いのはアホでクソな、あの魔獣!!
魔獣が血なんて欲しがるからいけないのだ。
確かに、狼の生き血を使った儀式はしていた。
これは本当だし、害獣を贄に捧げることに問題があろうはずは無いからごまかす必要は無い。
ただ、狼ととてもよく似た外見の『犬』たちを里の人や兄様は可愛がっていたから、心証は悪いかもしれない。
でも兄様、『国を守るため』には仕方が無かったんです~!!
『お仕事』だからやっていたんです~っ!!!
もちろん『人間の血』なんか絶対使ってないです~っ!!!
そういう僕ですので、今回手につけてた血も人間のものなんかじゃないです~!!
……と、僕は言葉の端々で何げに強調しておいた。
今回だけは本当に人間の血を使ったけれど、そんなの言わなきゃわかるわけがない。
人間も狼も『血の色』は同じ赤だ。
「そ、そうか、動物……だった……んだよ……な。そうだよな、いくらなんでも……」
よしっ!! 勝った!!
僕はついに、誤魔化しきったのだ!!
心の中で万歳三唱をする。
糞魔獣のおかげでハラハラさせられたが、これで僕と兄様は元通りの仲良し兄弟に戻れるはずだ。
「……会いたかった、ずっとずっと会いたかったのです、兄様……。
ヴァティールの中で僕は……僕を心配してくださる兄様の声を聞きました!!」
そう言って――――僕はかわゆく兄様に抱きついた。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。


思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる