滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   慟哭

リオン編   慟哭5

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 兄様の元に戻った魔獣が、死んだ兵士の体を投げ渡す。

「こいつが一番新鮮で美味そうだ。
 他に食料になりそうなものはないし、ちょっと硬いかもしれないがコレを食おうぜ。
 オマエも運動したから腹が減ったろ?」

 僕は驚愕した。

 ななな何を言っているんだっ!!!
 魔獣じゃあるまいし、いくら食べ物が無いとは言え、兄様に『人食』させる気かぁぁ!!

 ……ハッ! 今の衝撃で組みあがったいくつかの呪文が崩れてしまった。
 おのれ魔獣めッ!!

 お前だってアースラ様の教育を受けてきた身なら、知っているだろう。
『聖なる王』である兄様は、清くあらねばならない。

 人食は――――人間をやめることを意味する。
 アースラ様から最も固く禁じられた行為なのだ。

 でも兄様……お腹すいているだろうな……。
 うっかり食べちゃったらどうしよう。
 ハラハラしていると、

「人間は人間なんか食べない」

 兄様はぷいっと顔を背けておっしゃった。

 ああ、良かった……。
 僕はホッと胸をなでおろした。

 禁忌を破らないと、僕は兄様を守れない。
 でも、兄様まで堕ちるのは不本意だ。

 兄様は兄様のまま、いつまでも優しく清くあってほしい。

「……なんだ。喰わないのか?
 所詮敵兵。放っておいても腐るだけなのにもったいない。
 それに、オマエのご先祖や弟は美味そうに人間喰っていたけどなァア?」

 魔獣がクスリと哂う。

 ぅ、え……!?

 な、な、な、またしても……何を言うんだ!!!

 それは中で聞いている、僕への嫌がらせかぁぁッ!!!
 知ってる限りの罵詈雑言を叫んでみるが、もちろん外へは聞こえない。

 僕と繋がってる魔獣にだけは聞こえているはずだが、奴は取り乱しもしなかった。

 くっ……僕の語彙量が貧困なばかりにッ……!
 全くダメージを与えられなかったことが悔しくてたまらない。

 黙れ! このクソ魔獣め!!
 貧困ながらも引き続き罵ってみたが、魔獣は黙るどころかペラペラとしゃべり続けた。

「なァエル。オマエのご先祖は戦で追い詰められて食い物が無くなった時、フツーに死体を喰ってたぞ?
 それから弟の方は、祭壇に『人牲』を捧げて生き血を飲んでいた。
 クロスⅦに『あれは動物だ』と教えられてたから、あれも『人間』だったと知ったのは、オマエに連れ出された後みたいだけどなァ……」

 魔獣が眉根を寄せて、淡々と語った。

 お…………大真面目な顔して嘘こくなぁぁあ!!
 地獄に落ちろっ、この糞魔獣っ!!!!!
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