滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   慟哭

リオン編   慟哭2

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 その時『憎っくき魔獣』は、兄様と共に森に沿った街道脇の草むらの中に身を潜めていた。
 奴隷となったエルシオン臣民たちを救うためらしい。
 会話から察するに、エルシオンを滅ぼしたのは魔獣ではなく、虫のごときアレス帝国だったらしい。

 そうだったのか……。

 地下神殿に現れたあの黒くて平べったい虫のように、どこからともなく現れて、魔獣がぼやぼやしている間に『善なるエルシオン』の国土をあさりに行ってたのか。

 でもさすがは兄様。

 あんなろくでもない魔獣をうまく使って、エルシオン臣民たちを害虫どもから救おうとするお姿、本当にご立派です。

 感動していたら、魔獣ヴァティールが待ち疲れたのか立ち上がった。
 本当にろくでもない魔獣だ。

 僕であれば兄様の指示に従って、何十時間でも同じ姿勢で根気強く待つのに、奴は三十分もしないうちに根を上げた。

 だいたいお前、待つと言ってもダラダラと寝転んで待ってたろう。
 なんて緊迫感の無い不精な魔獣だろう。

 おまけにシャツはみっともなく着崩しているし、よく見ると片方の靴下は裏表逆になっている。
 ありえない。ありえないだろう、そのだらしなさ。

 普段目隠しをして育った僕でさえ、靴下の裏表は間違わない。
 くぅう……僕は情けなさに目を潤ませながら唇をかんだ。

「ちょっと行ってくる」

 魔獣が立ち上がった。

 とっとと、どこにでも行っちま……じゃなくて、行ってしまえ。
 そして、もう永遠に帰ってくるなっ!!

 僕は歯をギリギリと喰いしめながら心の中で罵った。

 でも兄様も、それに続こうとする。
 そうだよね。
 いくらうっと~~しい魔獣と言えど、無責任に放ってはおけないものね。

 けっして兄様も待ち疲れたからじゃないよね。
 さすが兄様……とまたまた感激していたら、

「何が悲しくて人間なんかと連れションしなければならないのだ。
 ついてくるな、しっしっ!!」

 と、魔獣が『僕の顔』で吐きやがった。

 おのれ魔獣め…………。
 絶対に殺す。
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