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リオン編   慟哭

リオン編   慟哭1

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 何百、何千の基本呪文を組み合わせて新しい作用を見つけ出す。
 それは容易なことではない。

 まして仮継承の儀式しか受けてない僕には、途方も無い作業に思われた。

 でもアースラ様が『善の結界』を作られたのは、22歳の時だったと聞いている。

 世界でただ一人、魔獣を魔縛することに成功したのが20歳の時。

 すべて自分で考え、自分で組み立てられたのだ。
 少しでも魔道をかじったことのある者なら、その才能がいかに凄まじいかわかることだろう。

 しかし僕だって、アースラ様の力を継承するクロス神官。
 物心ついたときから、厳しい修練を重ねてきた。

 やれるやれないじゃない。やらねばならないのだ。

 魔獣はイヤミのつもりなのか、僕を外界から遮断することはなかった。
 瞳を共有し、魔獣が見ることのできるものは僕も見ることができた。

 しかし瞑想の間に伺い見る魔獣は、極めて凶悪だった。
 もう一刻の猶予も無い。

 奴は事あるごとに、尊き兄様やアースラ様を貶める言葉を吐き出した。
 おまけになんだ!!
 あの下品な言葉使いはッ!!!

 地下神殿育ちの僕だが、兄様と村里に長く通ったので『何が』上品か下品かぐらいの判別はつく。

 兄様は里の子供たちが下品なことをしたり喋ったりするのは温かく見守っていらしたが、僕がわけもわからず『それ』を真似ると物凄く嫌がった。

「可愛いリオンが、そんなことをしてはいけないよ……」

 そう言って悲しそうにお諌め下さったものだ。

 それなのに、僕の体を奪った魔獣は『この野郎』だの『糞野郎』だの『ゲロ野郎』だの――――僕の顔で喋りまくった。

 そのたびに、僕は血の涙を流した。

 僕の清廉なイメージが!! イメージがぁぁぁあっ!!!!

 酷い……。
 酷すぎる……。

 アースラ様が『決してこの世に出してはいけない』と仰ったのもわかるような気がする。

 なるべく耳をふさいで聞かないようにしていたが、とうとう僕はぶちぎれ…………じゃなくて堪忍袋の緒を切らしてしまった。




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