210 / 437
リオン編 救い
リオン編 救い4
しおりを挟む
目の前に、まばゆい光と共に一人の銀髪の神官が現れた。
神書に絵描かれたよりずっと年老いた……けれどクロスⅦとも少し面差しの似た、威厳にあふれたそのお姿。
僕にはすぐにわかった。
この方は僕らの祖。
ずっと憧れ、いつかはこのようになりたいと目指してきたクロス神官の祖、アースラ様が現れたのだ。
「……守れ」
少ししわがれた、でも荘厳な声が響く。
「何と引換えてでもお前の王を守る覚悟があるのなら……お前とエルシドに不死の体を与える。お前の王を守れ。
その先にお前が幸せを感じるような国を造れたなら、お前の罪は許されるだろう」
凛としたものでありながら、どこか哀しげな瞳が僕を見た。
そういえばクロスⅦから聞いたことがある。
クロス神官は魔獣だけでなく、アースラ様が魔道保管した記憶体と力の一部を受け継ぐという事だった。
普段それは表に出ることはなく、国家の大事の時のみ表層に出て道を示して下さるという。
クロスⅦも、その前のクロスⅥもお姿を見たことは無かったらしい。
でも不死化の魔道研究を進めながらも自身の不死化が叶わなかったアースラ様は、こういう形で死後も国や僕らを守って下さっているのだ。
アースラ様のお姿を拝せたのは、ほんのわずかの時間でしかなかったが、僕に湧き出るような勇気を与えた。
心を落ち着け、呪文を組み立てる。
基本の呪文だけでもその数は膨大。
でも僕はすでに、全部習得している。
——————あとは応用だけ。
本当は正式なクロス神官になるまでに時間をかけて覚えていくべきものだったが、教えて下さっていた師はもういない。
なら、自分で考えるのだ。
アースラ様はその尊きお姿を僕にお見せ下さった。
そしてクロス神官の座を投げ出した僕に、再び使命と命を与えてくださった。
出来る……きっと出来る!!!
体がぎしぎしと悲鳴を上げたが、どうせ今の僕は精神体だ。
かまわず祈りの精度を高めていく。
魔獣の言いなりになって命を差し出そうとしている兄を助けられるのは、この僕しかいない。
魂が砕けてもいい。
兄様を助けられるなら、僕はどうなっても良い。
体がバラバラになりそうな痛みをこらえて魔縛を引きちぎった。
「……駄目!! 兄様ッ!!」
魔獣の手のひらにある青い炎に唇を寄せる兄様に、力の限り叫ぶ。
そして兄の代わりに魔獣の魂を再び取り込んで、祈りの力で魔獣と僕の魂を融合させる。
未熟な僕が今打てる手は、これぐらいしかない。
前回は僕ごと魔獣を討とうとしたが、果たせなかった。
結果、クロスⅦが施して下さった魔縛は『僕が命を落とすこと』で解け、魔獣に自由を与えてしまった。
でも、今度は絶対に逃がさない。
自身の力だけでもう一度魔縛を再構築し、必ず魔獣を捉えてみせる。
僕は何と引き換えようと……兄様を守ると誓ったのだから。
神書に絵描かれたよりずっと年老いた……けれどクロスⅦとも少し面差しの似た、威厳にあふれたそのお姿。
僕にはすぐにわかった。
この方は僕らの祖。
ずっと憧れ、いつかはこのようになりたいと目指してきたクロス神官の祖、アースラ様が現れたのだ。
「……守れ」
少ししわがれた、でも荘厳な声が響く。
「何と引換えてでもお前の王を守る覚悟があるのなら……お前とエルシドに不死の体を与える。お前の王を守れ。
その先にお前が幸せを感じるような国を造れたなら、お前の罪は許されるだろう」
凛としたものでありながら、どこか哀しげな瞳が僕を見た。
そういえばクロスⅦから聞いたことがある。
クロス神官は魔獣だけでなく、アースラ様が魔道保管した記憶体と力の一部を受け継ぐという事だった。
普段それは表に出ることはなく、国家の大事の時のみ表層に出て道を示して下さるという。
クロスⅦも、その前のクロスⅥもお姿を見たことは無かったらしい。
でも不死化の魔道研究を進めながらも自身の不死化が叶わなかったアースラ様は、こういう形で死後も国や僕らを守って下さっているのだ。
アースラ様のお姿を拝せたのは、ほんのわずかの時間でしかなかったが、僕に湧き出るような勇気を与えた。
心を落ち着け、呪文を組み立てる。
基本の呪文だけでもその数は膨大。
でも僕はすでに、全部習得している。
——————あとは応用だけ。
本当は正式なクロス神官になるまでに時間をかけて覚えていくべきものだったが、教えて下さっていた師はもういない。
なら、自分で考えるのだ。
アースラ様はその尊きお姿を僕にお見せ下さった。
そしてクロス神官の座を投げ出した僕に、再び使命と命を与えてくださった。
出来る……きっと出来る!!!
体がぎしぎしと悲鳴を上げたが、どうせ今の僕は精神体だ。
かまわず祈りの精度を高めていく。
魔獣の言いなりになって命を差し出そうとしている兄を助けられるのは、この僕しかいない。
魂が砕けてもいい。
兄様を助けられるなら、僕はどうなっても良い。
体がバラバラになりそうな痛みをこらえて魔縛を引きちぎった。
「……駄目!! 兄様ッ!!」
魔獣の手のひらにある青い炎に唇を寄せる兄様に、力の限り叫ぶ。
そして兄の代わりに魔獣の魂を再び取り込んで、祈りの力で魔獣と僕の魂を融合させる。
未熟な僕が今打てる手は、これぐらいしかない。
前回は僕ごと魔獣を討とうとしたが、果たせなかった。
結果、クロスⅦが施して下さった魔縛は『僕が命を落とすこと』で解け、魔獣に自由を与えてしまった。
でも、今度は絶対に逃がさない。
自身の力だけでもう一度魔縛を再構築し、必ず魔獣を捉えてみせる。
僕は何と引き換えようと……兄様を守ると誓ったのだから。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる