滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
208 / 437
リオン編   救い

リオン編   救い2

しおりを挟む
 僕は頭が真っ白になった。
 偉大なるシヴァ様やアースラ様がおつくりになった『善なる王国』が滅んだ?

 まさか……。

 もしや僕が闇に堕ちている間に、この魔獣が滅ぼしたのだろうか?
 奴には、それだけの力がある。

 だとすると、師が生涯をかけて守った現王も、可愛い僕の妹姫も、きっと死んでしまったに違いない。

 敬愛する父様……そしてたった一度だけこの腕に抱いた、小さく温かだったあの妹もクロスⅦのような硬く冷たい骸となってしまったのだ。

 遠い地にいるとはいえ、あの二人の幸せを、善良なる王国臣民たちの幸せを僕はずっと祈り続けていた。
 とても大切だと思っていた。

 でも、僕の想いは届かなかった。

 これもきっと、僕がしたことの報いなのだろう。

『クロス神官は一切の私欲を捨て、王と国のために、ただ心からの祈りを捧げなければならない』

 そう、厳しく戒められていたのに、僕は自分自身の幸せを求めてしまった。
 禁を犯してまで兄と会って話す、楽しいひと時を選んでしまった。

 そのために兄は師に殺されそうになり――――結果として僕が師を殺してしまった。

 今、魔獣は僕の未熟さに付け込んできている。

 僕があのまま分不相応な望みを抱かず、規則通り神殿内でクロスⅦと暮らしていたなら……たとえ僕の身に何かあったとしても、クロスⅦが魔獣を魔縛して下さったに違いない。

 やはり僕は、何も望んではいけなかったのだ。
 あの地を離れるべきではなかったのだ。

 魔獣は僕をあざ笑うかのように、主 あるじたる僕の体を意のままに使うと宣言した。

 でも、僕の体は僕のものだ。
 たとえ国が滅びたとしても、僕は『僕の王』である兄様に仕えるためにだけに存在する。

 たとえ死すとも、汚き魔獣などに体を渡してたまるものか。

 必死で体を動かそうと試みた。
 魔獣の縛を解こうと、力の限りあがいた。

 しかし、どんなにあがこうと指一本動くことは無い。

 これが魔獣の力……。
 かつてアレス帝国を焦土と化し、今またエルシオン王国を滅ぼした魔獣の力なのか。

「待て!
 ……その体を持っていかないでくれ!! お願いだ!!」

 兄様の悲痛な声が響いた。

 え……。

 魔縛された体はまったく動かなかったが、そのかわり、魔獣の目を通してぼんやりと兄様の姿が見えるようになった。
 去ろうとする魔獣の体に、兄様は必死で取りすがっている。

 ああ、兄様はちゃんとわかって下さっている。
 僕と魔獣が『まったく違う存在』なのだということに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

処理中です...