206 / 437
リオン編 異変
リオン編 異変7
しおりを挟む
アレス兵もクロスⅦも、兄様を害そうとした。
だから殺した。どちらも同じことだ。
違いがあるとすれば、アレス兵には臣民を虐殺したと言う決定的な落ち度があり、クロスⅦには無かった。
師は体に膨大な負担のかかる祈りを王と臣民のためにずっと捧げ続けてきた『真の忠臣』だ。
だからたとえ兄様を守るためであったとしても、それを殺したなら罵られ排除されるのもわかる。
でもアレス兵たちは、僕や兄様に優しくしてくれた里人たちを大勢殺した。
王と共に臣民を守るのは、代々のクロス神官の重要な役目。
その任を降りたとしても僕にはその義務がある。
僕は間違っていない。
なら……兄様が怯えているのは、僕の中に住んでいる化け物。
あの汚き魔獣だろうか?
確かに僕は、体内に眠る『化け物』の力をほんの少し使った。
あれだけの人数を短時間で倒すなら、どうしても必要な事だった。
でも僕自身は『化け物』じゃない。
世継ぎ王子である兄様なら、そのことだって知っているはずなのに……。
どうしてわかって下さらないのだろう?
祈るような思いで兄を見つめた。
でも兄の瞳はやはり恐怖に引き攣ったままで、僕が大好きだったあの温かい気配を感じることはできない。
もう……何を言っても兄様に通じることはないのだ。
僕の言葉も想いも、届くことはないのだ。
僕はエラジーを引き抜いた。
魔力に呼応するこの魔剣は、こんな時も変わらずに冴え渡っている。
腕がわずかに震えるが、もう僕にはこの道しか残されていない。
『クロス神官は、王の敵を排除しなければならない』
では今、僕が兄様にしてあげられることは……兄様が怯える対象である僕自身、そして魔獣を殺す事だけ。
……どうか見て。僕の兄様に対する忠誠心と真心を。
音も無く、刀身が僕の心臓に突き刺さる。
幼い頃から何度も神の祝福を受けたこの身は普通より頑強に出来ているけれど、それでもアースラ様から伝えられたこの魔剣でなら死ねるだろう。
これでいい。これで。
死んでしまえばもう、兄様にあんな目で見られることもなくなる。
兄様に必要とされない僕に、もう価値はない。
帰る場所だって師を殺したことで失った。
きっとこれは罰。
私欲に囚われた僕への罰。
最後に見たのは、それでも美しい兄様の顔。
そして僕の意識は、暗闇に溶けていった
だから殺した。どちらも同じことだ。
違いがあるとすれば、アレス兵には臣民を虐殺したと言う決定的な落ち度があり、クロスⅦには無かった。
師は体に膨大な負担のかかる祈りを王と臣民のためにずっと捧げ続けてきた『真の忠臣』だ。
だからたとえ兄様を守るためであったとしても、それを殺したなら罵られ排除されるのもわかる。
でもアレス兵たちは、僕や兄様に優しくしてくれた里人たちを大勢殺した。
王と共に臣民を守るのは、代々のクロス神官の重要な役目。
その任を降りたとしても僕にはその義務がある。
僕は間違っていない。
なら……兄様が怯えているのは、僕の中に住んでいる化け物。
あの汚き魔獣だろうか?
確かに僕は、体内に眠る『化け物』の力をほんの少し使った。
あれだけの人数を短時間で倒すなら、どうしても必要な事だった。
でも僕自身は『化け物』じゃない。
世継ぎ王子である兄様なら、そのことだって知っているはずなのに……。
どうしてわかって下さらないのだろう?
祈るような思いで兄を見つめた。
でも兄の瞳はやはり恐怖に引き攣ったままで、僕が大好きだったあの温かい気配を感じることはできない。
もう……何を言っても兄様に通じることはないのだ。
僕の言葉も想いも、届くことはないのだ。
僕はエラジーを引き抜いた。
魔力に呼応するこの魔剣は、こんな時も変わらずに冴え渡っている。
腕がわずかに震えるが、もう僕にはこの道しか残されていない。
『クロス神官は、王の敵を排除しなければならない』
では今、僕が兄様にしてあげられることは……兄様が怯える対象である僕自身、そして魔獣を殺す事だけ。
……どうか見て。僕の兄様に対する忠誠心と真心を。
音も無く、刀身が僕の心臓に突き刺さる。
幼い頃から何度も神の祝福を受けたこの身は普通より頑強に出来ているけれど、それでもアースラ様から伝えられたこの魔剣でなら死ねるだろう。
これでいい。これで。
死んでしまえばもう、兄様にあんな目で見られることもなくなる。
兄様に必要とされない僕に、もう価値はない。
帰る場所だって師を殺したことで失った。
きっとこれは罰。
私欲に囚われた僕への罰。
最後に見たのは、それでも美しい兄様の顔。
そして僕の意識は、暗闇に溶けていった
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる