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リオン編   異変

リオン編   異変7

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 アレス兵もクロスⅦも、兄様を害そうとした。
 だから殺した。どちらも同じことだ。

 違いがあるとすれば、アレス兵には臣民を虐殺したと言う決定的な落ち度があり、クロスⅦには無かった。

 師は体に膨大な負担のかかる祈りを王と臣民のためにずっと捧げ続けてきた『真の忠臣』だ。
 だからたとえ兄様を守るためであったとしても、それを殺したなら罵られ排除されるのもわかる。

 でもアレス兵たちは、僕や兄様に優しくしてくれた里人たちを大勢殺した。

 王と共に臣民を守るのは、代々のクロス神官の重要な役目。
 その任を降りたとしても僕にはその義務がある。

 僕は間違っていない。

 なら……兄様が怯えているのは、僕の中に住んでいる化け物。
 あの汚き魔獣だろうか?

 確かに僕は、体内に眠る『化け物』の力をほんの少し使った。
 あれだけの人数を短時間で倒すなら、どうしても必要な事だった。

 でも僕自身は『化け物』じゃない。

 世継ぎ王子である兄様なら、そのことだって知っているはずなのに……。
 どうしてわかって下さらないのだろう?

 祈るような思いで兄を見つめた。
 でも兄の瞳はやはり恐怖に引き攣ったままで、僕が大好きだったあの温かい気配を感じることはできない。

 もう……何を言っても兄様に通じることはないのだ。
 僕の言葉も想いも、届くことはないのだ。

 僕はエラジーを引き抜いた。

 魔力に呼応するこの魔剣は、こんな時も変わらずに冴え渡っている。
 腕がわずかに震えるが、もう僕にはこの道しか残されていない。

『クロス神官は、王の敵を排除しなければならない』

 では今、僕が兄様にしてあげられることは……兄様が怯える対象である僕自身、そして魔獣を殺す事だけ。

 ……どうか見て。僕の兄様に対する忠誠心と真心を。

 音も無く、刀身が僕の心臓に突き刺さる。
 幼い頃から何度も神の祝福を受けたこの身は普通より頑強に出来ているけれど、それでもアースラ様から伝えられたこの魔剣でなら死ねるだろう。

 これでいい。これで。

 死んでしまえばもう、兄様にあんな目で見られることもなくなる。
 兄様に必要とされない僕に、もう価値はない。

 帰る場所だって師を殺したことで失った。
 きっとこれは罰。

 私欲に囚われた僕への罰。

 最後に見たのは、それでも美しい兄様の顔。
 そして僕の意識は、暗闇に溶けていった

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