滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
197 / 437
リオン編   鳥籠の外

リオン編   鳥籠の外2

しおりを挟む
 それから数日後、僕らはいよいよ城を脱出することになった。

 夜中なのに「ちゅうぼう」に女の人が残っていたり、兵士に見つかったり、色々と想定外の出来事はあったけど、兄様は賢いのでどうとでもなるみたい。
 すごいなぁ。

 兄様が「ちゅうぼう」の女の人に僕を『他人』として紹介したのだけは涙が出そうなほど悲しかったけど、非常事態なのだから、もちろん耐えた。
 そうして見事ピンチを逃れた僕らは『バシャ』という不思議な物体に乗り、無事『カクレガ』へと到着したのだった。

 そこは、お城とはずいぶん違っていた。
 とても小さくて、外から見ると、大きな三角をポンと乗せたような形だった。

 建造するための材料だって違う。
 僕は石造りの地下神殿にずっと住んでいたし、兄様の部屋も石造りだった。
 けれど、この家は木で出来ている。

 そのことを兄様に言うと、

「お前、この壁が木で出来ているなんて、よくわかったなぁ」

 なんて失礼なことをさらりとおっしゃった。

 けど、僕だって木ぐらいは知っている。

 たしか生贄にする狼を押し込めておく箱や……訓練に使う模造刀の材料になったりする物体だよね?

 え~っとそれから……あとは残念ながら思い浮かばない。

 アルティナ山の中腹にあるというカクレガは、城からかなり離れているけれど高台にある。
 なのでそこから、豆粒のようにだが城が見えた。

 僕らはよく外に出て、懐かしい元居た場所を眺めた。
 晴れた空は澄んでいて、風が気持ちよく吹き渡る。

 あの城にいた頃、僕は城の外観を知らなかった。
 地下にある、あの神殿内だけが僕の世界のすべて。

 でも外に出てみれば、巨大であったはずのお城がとても小さなものに思われる。

 兄様とこういう風に出会わなければ、僕は今でもあの『小さなお城の地下』で何も知らず暮らしていたことだろう。

 あの世界は嫌いじゃなかったし、それなりに幸せもあった。
 けれど……こうして眺めながら風を感じていると、やはり今の幸せに感謝せずにはいられない。

 ここでの生活は、本当に楽しいものだった。

 クロスⅦは『外の世界は恐ろしい』とおっしゃっていたけれど、僕は『外』で恐ろしい目に合ったことなど一度もない。
 きっとこれが、代々の『王』と『クロス神官』が頑張ってきた成果なのだろう。

 とても誇らしい。

 ただ、他国はこのようではないと兄様が言ってらしたから、クロスⅦの言う『外の世界』というのは『外国』の事を指していたのかもしれない。
 きっとそうだ。

 僕らの隠れ家の近くには、小さな『サト』があった。
 初めてその『サト』に兄様と行ったときは、すごく驚いた。

 人をこんなにたくさん見たのは、初めてだったから。

 僕が知っているのは兄様とクロスⅦと妹姫。
 それに、城から脱出するときに思いがけなく会ってしまったほんの数人だけ。

 あとは、ずっと馬車の中に隠れていたからよくわからない。

 兄様は小さいサトだとおっしゃっていたけれど、僕にはすごく大きく見えた。

 子供も居たし、大人もいた。
『すかぁと』をはいた人も『ずぼん』をはいた人も。

 それから、なぜかしわしわで腰の曲がった人も。

 あれは年をとった人で、僕らもいつかそうなるのだと聞いてビックリした。

 僕は神書に描かれたアースラ様や、背が高く美しかったクロスⅦのようになるつもりだったからだ。

 でも、しわしわの人たちは皆僕に優しかったので、年を取ったら僕もしわしわになってもいいや、と思った。

 僕は外の世界の事をよく知らない。
 だから、あれやこれやとすぐに聞いた。

 こんな無知な弟を連れてサトに行くのは、兄様は本当は恥ずかしかったのじゃないかと思う。
 だって僕は……サトの小さな子供ですら知っているような事も、何も知らなかったのだから。

 でも兄様は、いつも優しかった。

 サトの人たちも優しかった。
 決して冷笑したりはせず、皆ニコニコしながら教えてくれた。

 だから僕は、安心してなんでも聞いた。

 色々な思い込みや勘違いもあったけど、僕は段々と普通に暮らす外の人々になじんでいった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...