滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
194 / 437
リオン編   決別

リオン編   決別3

しおりを挟む
 僕は兄を守るために、師であるクロスⅦを討ってしまった。
 とても悲しいが、後悔はない。

 クロスⅦがそうだったように、僕は『僕の王』を守ることだけを教わってきたのだから。

 ううん違う。多分そうじゃなくて、王だとかそういうことに関係なく、僕はただ『兄様』を守りたかったのだ。


 しばらく座り込んだあと、僕はクロスⅦを儀式の供物……つまり血を抜き取られた狼たちの死体を一時的に貯蔵しておくための氷室に運んだ。

 周りは零下の気温。
 すぐにこの方の体は凍り付いてしまうだろう。

 その前に、クロスⅦの顔をぬぐって美しく清め、腕を祈りの形に組んだ。
 葬儀を行うためだ。
 神官である僕は、葬儀の執り行い方もすでに習っていた。

 外の世界に出ることのない僕らだけど、先代のクロス神官が亡くなった時は葬儀を執り行い、その魂を天に送る。
 参列者は次世代のクロス神官のみ。

 『外』の世界では大勢の人たちが集まり、その死を悼むと兄様からお聞きしたけれど、この地下神殿には『人』は僕と師しかいない。

 だから、僕が百人分悼むことにした。

 定められた手順に従って、力ある言葉を唱えていく。
 どうぞ師が安らかに眠れますように……そう心から願いつつ祈りを捧げる。

 この儀の執り行い方を習ったのは、ほんの半月前。
 そのときは、こんなに早くその機会が来るなんて、夢にも思っていなかった。

 目の前の師に改めて顔を向ける。
 そうしたって、僕は目隠しをしているので見えるわけではないけれど。

 クロスⅦは、とても美しい方だった。

 長い銀髪をひらめかせて姿勢正しく歩く姿は、神書に出てくる絵画のようであり、僕はクロスⅦの美しい姿を見るのが大好きだった。

 今だって、きっととても美しいままに違いない。

 でも、僕はもう二度と……この方が生きて動く姿を見ることはない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...