上 下
189 / 437
リオン編   壊れた国の少年(以後外伝)

リオン編   壊れた国の少年5

しおりを挟む
 絶望したそのとき、兄の腕が僕を包んだ。

 強く。強く。

 びっくりして見上げると、ぽたぽたと温かい液体が僕の顔にかかった。

 これは知っている。『涙』という液体だ。
 つらかったり、悲しかったりするときに、生体反応として目からこぼれる液体。

 それが『涙』

 ――――やっぱり馬鹿だと思われたのだ。
 どうしようもない、役立たずのクズだと思われたのだ。

 王を補佐するべきクロス神官候補生は、国民の中で『最も優秀』でなければならない。

 それが、こんな『とてつもない馬鹿』だとわかってしまったのだ。

 そりゃ涙もこぼれるよね。絶望のどん底に落ちるよね……。

 でも、兄の腕の中はとても暖かだった。
 とくんとくんと音が聞こえる。
 あれは位置から推測すると、多分心臓の音。

 心臓は命を繋ぐのにとても大切な器官で、仕留めた狼の心音を確かめることなら何度かあった。

 でも、生きている人の奏でる心音は、何と心地が良いのだろう。

 こうやって間近で聞くのは初めてのはずなのに、なぜかとても懐かしい。
 頭がぼぉっと霞んでくるような、不思議な気分になるのだ。

「あの……兄様って……とても暖かいのですね。
 僕も兄様に、……ぎゅっとしてもいいですか……?」

 気がつくと僕は、世にも厚かましいことを口走っていた。

 でも兄様は嫌だろうな。
 こんな『馬鹿な弟』の事なんか、さっさと忘れてしまいたいんじゃないだろうか?

 不安と恥ずかしさに涙を浮かべたそのとき、ゆっくりと頷く気配がした。

 うそ……。
 僕なんかが兄様のことをぎゅってしていいの?

 僕不安だったけど、僕は恐る恐る兄に腕を伸ばした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

sideBの憂鬱

るー
BL
「キスしていいですか?」「何言ってんだよ!おまえ紗希の彼氏だろ!?」幼馴染の彼氏から迫られる凛斗。逃げながらも強引な愁に流されてしまう。ノンケ同士が出逢って惹かれあい、恋人になる話。なろうさんにも投稿。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...