滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
187 / 437
リオン編   壊れた国の少年(以後外伝)

リオン編   壊れた国の少年3

しおりを挟む
 壁の外に不思議な気配を感じたのは、9歳の誕生日を少し過ぎた頃だった。

 この白い部屋で、いつものように目隠しをして的を落とす訓練をしていた僕は、動きを止めて耳を澄ました。

 いったい、この気配は何なのだろう?

 クロスⅦではない。
 多分王でもない。

 王はいつも手続きを踏んだ上で、クロスⅦにだけお会いになる。
 では――――――誰なのだろう……?

 天井近くに張り巡らされた白いロープから、音もなく飛び降りる。
 謎の気配が気になったからだ。

 そのとき、けっして開かないはずの扉がゆっくりとスライドを始めた。
 僕にとってそれは、天地がひっくり返るほどの出来事だった。

 この扉が開くのは11年後のはず。
 僕が20歳となり、正式にクロスⅧとなったとき初めて開かれるはずなのだ。

 だから、今開かれた扉から入ってくるのは『不法な侵入者』ということになる。

 怖い。

 どうしよう。

 いや、怖がっては……いけない。
 僕はいずれ全ての力を受け継ぎ『王の守護者』となるのだから。

 まずはきちんと落ち着こう。
 こういう時どうすればいいか、僕はクロスⅦに教わってきた。

 深呼吸を一回して、侵入者の背後に回りこめるよう気配を絶つ。
 そうして、扉のすぐ横で身構えた。

 現れたのは、思ったよりもずっと小柄な侵入者。

 僕はほとんどの時間を目隠しをして過ごしているから、見えるわけじゃないけれど、空気の抵抗が少ないし靴音も軽い。
 これは話に聞く『子供』という区分の人間なのかもしれない。

 ……なら、強敵だ。

 9歳の『子供』である僕は、週に1度、部屋に放された9匹の狼と戦う。

 狼は代々の王やクロス神官が守ってきた『エルシオン臣民』を害する邪悪な生き物だ。
 だからそれを修練の一環として殺し、魔獣への贄として使っている。

 僕が幼い頃、その役目はクロスⅦのものだった。
 けれど7歳を過ぎた頃から僕の役目となった。

 最初は手間取ったが、今では目隠しをしたままでも、ほぼ瞬殺だ。

 殺し方は様々だが、どれも苦しめるようなやり方ではない。
 狼たちは皆、自分が死んだことすらわからないままだろう。

 『子供』である僕は、そうやって育ってきた。
 色んな課題をこなしつつ、必死で自分を高めてきた。

 侵入者であるこの『子供』も、決して開くことのない扉を易々と開けるぐらいだから、僕と同等か、それ以上の修練を積んできたに違いない。

 さらに注意深く気配を探る。
 侵入者の身長は僕より少し高いようだった。
 空気の動きから細身であることもわかる。

 生まれて初めて出会う、外の世界から来た『人間』
 戦闘力は相当高いに違いない。

 クロスⅦに助けを求めたかったが、もう間に合わない。
 相手に気づかれてしまうからだ。

 僕は息をつめて侵入者を待った。

 しかし侵入者は僕が思っていたよりずっと無防備で、簡単に後ろを取ることが出来た。

 まず第1段階目は合格。
 きっと師にも褒めていただけるに違いない。

 次に魔剣エラジーを突きつけながら、所属と名前を問う。
 かつてクロスⅦに教えられた通りに。

 答えられないなら、殺してしまえばいい。

 地下神殿は国にとって『守りの要』
 なん人たりとも近づくことは許されないし、その存在を知られたなら、最後には処分しなければならないのだから、今殺したところで特に問題にはならないのだ。

 しかし侵入者の返答を聞いて、僕は取り乱した。

 この方こそが……僕が生涯をかけて守り抜き、命尽きるまで忠誠を捧げるべき『僕の王』だったのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...