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リオン編 壊れた国の少年(以後外伝)
リオン編 壊れた国の少年3
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壁の外に不思議な気配を感じたのは、9歳の誕生日を少し過ぎた頃だった。
この白い部屋で、いつものように目隠しをして的を落とす訓練をしていた僕は、動きを止めて耳を澄ました。
いったい、この気配は何なのだろう?
クロスⅦではない。
多分王でもない。
王はいつも手続きを踏んだ上で、クロスⅦにだけお会いになる。
では――――――誰なのだろう……?
天井近くに張り巡らされた白いロープから、音もなく飛び降りる。
謎の気配が気になったからだ。
そのとき、けっして開かないはずの扉がゆっくりとスライドを始めた。
僕にとってそれは、天地がひっくり返るほどの出来事だった。
この扉が開くのは11年後のはず。
僕が20歳となり、正式にクロスⅧとなったとき初めて開かれるはずなのだ。
だから、今開かれた扉から入ってくるのは『不法な侵入者』ということになる。
怖い。
どうしよう。
いや、怖がっては……いけない。
僕はいずれ全ての力を受け継ぎ『王の守護者』となるのだから。
まずはきちんと落ち着こう。
こういう時どうすればいいか、僕はクロスⅦに教わってきた。
深呼吸を一回して、侵入者の背後に回りこめるよう気配を絶つ。
そうして、扉のすぐ横で身構えた。
現れたのは、思ったよりもずっと小柄な侵入者。
僕はほとんどの時間を目隠しをして過ごしているから、見えるわけじゃないけれど、空気の抵抗が少ないし靴音も軽い。
これは話に聞く『子供』という区分の人間なのかもしれない。
……なら、強敵だ。
9歳の『子供』である僕は、週に1度、部屋に放された9匹の狼と戦う。
狼は代々の王やクロス神官が守ってきた『エルシオン臣民』を害する邪悪な生き物だ。
だからそれを修練の一環として殺し、魔獣への贄として使っている。
僕が幼い頃、その役目はクロスⅦのものだった。
けれど7歳を過ぎた頃から僕の役目となった。
最初は手間取ったが、今では目隠しをしたままでも、ほぼ瞬殺だ。
殺し方は様々だが、どれも苦しめるようなやり方ではない。
狼たちは皆、自分が死んだことすらわからないままだろう。
『子供』である僕は、そうやって育ってきた。
色んな課題をこなしつつ、必死で自分を高めてきた。
侵入者であるこの『子供』も、決して開くことのない扉を易々と開けるぐらいだから、僕と同等か、それ以上の修練を積んできたに違いない。
さらに注意深く気配を探る。
侵入者の身長は僕より少し高いようだった。
空気の動きから細身であることもわかる。
生まれて初めて出会う、外の世界から来た『人間』
戦闘力は相当高いに違いない。
クロスⅦに助けを求めたかったが、もう間に合わない。
相手に気づかれてしまうからだ。
僕は息をつめて侵入者を待った。
しかし侵入者は僕が思っていたよりずっと無防備で、簡単に後ろを取ることが出来た。
まず第1段階目は合格。
きっと師にも褒めていただけるに違いない。
次に魔剣エラジーを突きつけながら、所属と名前を問う。
かつてクロスⅦに教えられた通りに。
答えられないなら、殺してしまえばいい。
地下神殿は国にとって『守りの要』
なん人たりとも近づくことは許されないし、その存在を知られたなら、最後には処分しなければならないのだから、今殺したところで特に問題にはならないのだ。
しかし侵入者の返答を聞いて、僕は取り乱した。
この方こそが……僕が生涯をかけて守り抜き、命尽きるまで忠誠を捧げるべき『僕の王』だったのだ。
この白い部屋で、いつものように目隠しをして的を落とす訓練をしていた僕は、動きを止めて耳を澄ました。
いったい、この気配は何なのだろう?
クロスⅦではない。
多分王でもない。
王はいつも手続きを踏んだ上で、クロスⅦにだけお会いになる。
では――――――誰なのだろう……?
天井近くに張り巡らされた白いロープから、音もなく飛び降りる。
謎の気配が気になったからだ。
そのとき、けっして開かないはずの扉がゆっくりとスライドを始めた。
僕にとってそれは、天地がひっくり返るほどの出来事だった。
この扉が開くのは11年後のはず。
僕が20歳となり、正式にクロスⅧとなったとき初めて開かれるはずなのだ。
だから、今開かれた扉から入ってくるのは『不法な侵入者』ということになる。
怖い。
どうしよう。
いや、怖がっては……いけない。
僕はいずれ全ての力を受け継ぎ『王の守護者』となるのだから。
まずはきちんと落ち着こう。
こういう時どうすればいいか、僕はクロスⅦに教わってきた。
深呼吸を一回して、侵入者の背後に回りこめるよう気配を絶つ。
そうして、扉のすぐ横で身構えた。
現れたのは、思ったよりもずっと小柄な侵入者。
僕はほとんどの時間を目隠しをして過ごしているから、見えるわけじゃないけれど、空気の抵抗が少ないし靴音も軽い。
これは話に聞く『子供』という区分の人間なのかもしれない。
……なら、強敵だ。
9歳の『子供』である僕は、週に1度、部屋に放された9匹の狼と戦う。
狼は代々の王やクロス神官が守ってきた『エルシオン臣民』を害する邪悪な生き物だ。
だからそれを修練の一環として殺し、魔獣への贄として使っている。
僕が幼い頃、その役目はクロスⅦのものだった。
けれど7歳を過ぎた頃から僕の役目となった。
最初は手間取ったが、今では目隠しをしたままでも、ほぼ瞬殺だ。
殺し方は様々だが、どれも苦しめるようなやり方ではない。
狼たちは皆、自分が死んだことすらわからないままだろう。
『子供』である僕は、そうやって育ってきた。
色んな課題をこなしつつ、必死で自分を高めてきた。
侵入者であるこの『子供』も、決して開くことのない扉を易々と開けるぐらいだから、僕と同等か、それ以上の修練を積んできたに違いない。
さらに注意深く気配を探る。
侵入者の身長は僕より少し高いようだった。
空気の動きから細身であることもわかる。
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戦闘力は相当高いに違いない。
クロスⅦに助けを求めたかったが、もう間に合わない。
相手に気づかれてしまうからだ。
僕は息をつめて侵入者を待った。
しかし侵入者は僕が思っていたよりずっと無防備で、簡単に後ろを取ることが出来た。
まず第1段階目は合格。
きっと師にも褒めていただけるに違いない。
次に魔剣エラジーを突きつけながら、所属と名前を問う。
かつてクロスⅦに教えられた通りに。
答えられないなら、殺してしまえばいい。
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なん人たりとも近づくことは許されないし、その存在を知られたなら、最後には処分しなければならないのだから、今殺したところで特に問題にはならないのだ。
しかし侵入者の返答を聞いて、僕は取り乱した。
この方こそが……僕が生涯をかけて守り抜き、命尽きるまで忠誠を捧げるべき『僕の王』だったのだ。
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