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第25章 最後の永遠(本編最終章)
2.最後の永遠
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どれほどの時がたっただろう。
俺は棺の中で目を覚ました。
体がとても軽かった。
棺の蓋を押して、上半身を起こす。
大聖堂の地下はとても暗いが、地上近くに設けた明り取りの小窓がわずかな光を差し込ませていた。
ああ、目が良く見える。
そして服が、大きすぎてだぶだぶだ。
俺は棺から抜け出すと、以前隠しておいた服と鍵を探した。
身にぴったりの服を見つけ出して着替えた後、今まで着ていた服は棺に放り込んで蓋を閉めなおした。
鍵を手に、人に見つからないよう、地下から大聖堂に出る。
誰も居ない大聖堂では、ただ聖像だけが優しく俺を見ていた。
俺はそこも後にして隠し通路を通り、弟の眠る墓所にと向かった。
廟の中では昔と変わらない『幼い姿のリオン』が、ガラスの棺の中で微笑みながら眠っていた。
「……明日は会いに来ると言ったのに、随分待たせてしまったな」
俺は棺の蓋を開けて囁いた。
もうあれから86年が経つ。
結局俺は、今日と言う日まで、ここを訪れる事は一度も無かった。
次にリオンに会うのは、人間としての生が終わったとき。人が作りうる最高の国を作った後。そう決めていたからだ。
アースラの望むような国は造らなかったので、やはり呪いは解けることがなかったが、俺は俺に課せられた役目をすべてやり終えた。
これからは『弟だけの優しい兄』でいてやれる。
俺は、リオンの隣にそっと身を横たえた。
体がどんどん冷えていくが、不思議と心は温かかった。
俺はリオンの横で考えた。
あのシステムを考えたアースラは、意外と優しい人だったのかもしれない。
人々を幸せにするためには、犠牲はどうしても必要。
それは、俺の前の生で身に染みた。
でも、多くの犠牲を出すことを悲しんだアースラは、多分考え抜いてあの結界のシステムを造り出したに違いない。
もたらされる『一世代の平和の犠牲』が、たった一人の人間と一体の魔獣だけで済むように。
でも、そのたった一人と『魔獣』がどうしたら奈落の底に落ちないで済むかも、彼はきっと考た。
自由を知っている魔獣は、その身の不自由を嘆かないで済むように深く魔縛し、意識も奪った。
人と異なる定めを持ち、一生祈りを捧げて過ごす代々のクロス神官たちには、外の自由を知らせず、生まれた時から閉じ込めた。
せめて彼らがほんの少しでも幸せであるよう……自分たちが『外の人々』に比べて不幸である事を気づかせないよう、人との交わりを絶たせたのだ。
それでもきっと、代々のクロス神官たちは幸せだったに違いない。
たとえそれが偽りであったとしても、誕生日にプレゼントをくれる優しい王を愛し、自分が決して目にする事の出来ぬ外の世界のために、惜しむことなく『心からの祈り』を捧げる事が彼らの誇りであり、幸せだった。
もちろんそれが『本当の幸せ』なのかと問われれば、今でも首を傾げざるを得ない。
でも幸せには様々な形があり、それを否定することだけは誰にも出来ない。
その是非がどうであろうと、アースラはアースラなりに、きっと必死で『最善の世界』を求めたのだろう。
なあ、リオン。
お前の夢の中に、まだ俺はいるか?
お前を外に連れ出し、奈落の底に落とした俺だけど……今でもやっぱりお前が愛しいんだ。
もし許されるなら、俺をまたあの笑顔で温かく迎えて欲しい。
今度こそ『お前だけの兄』として一緒にいるから。
あんなにも俺を求め続けたお前のそばに、ずっと居るから。
ずっと。
ずっと。今度こそずっと。
俺のために生きて死んだお前と、この身が朽ちるまで永遠に。
fin
まずは読んでくださった皆様ありがとうございました!!
お陰様で何とか完結まで書き続ける事が出来ましたよ~♪
私としてはこのお話はある意味ハッピーエンドで、
・リオン ⇒ 幸せな夢を見つつ、最後には兄を完全に手に入れる。
・エル ⇒ 自分が壊した以上の規模で世界を平和に再構築。
苦労もあったけど幸せも多かった人生を全うして、
愛するリオンと共に就寝。
・アリシア⇒ ヴァティールパパの愛に感謝しつつ、3児のママ。
仕事上もエルと助け合い、夫婦仲良く暮らした。
・ヴァティール⇒今度こそ娘を守れて大満足。
自分の意思で眠りについたので、それについても満足。
・王 ⇒ 終生『王』と言うより『商売人』として充実して過ごす。
妻は美人で優しく若い! 一人娘はエルの長男と結婚。
・エリス ⇒ 王に大切にされつつ、本人も奮闘。
優しく気高い王妃として後の世にも知られる。
・ウルフ ⇒ 書かれてないけど、普通に結婚して平和な世界で地味に暮らす。
なんか……ハッピーエンドだった気がしてきませんか?
でもこの続きは意外にも、もっとハッピーエンドなのですよ。
エルたちはこのあと100年ほど眠ります。
完璧にしがらみがなくなったあと起きられるよう兄ちゃんが細工してるので、少年の体で目覚めた兄弟は今度こそ幸せに穏やかに暮らします♥
元々、厳しい環境下に追い込まれなければ幸せに暮らせたはずの二人ですし。
生活に困らないよう、あちらこちらに財産も隠してあるし、教会には子供の保護も義務づけています。
大人のあざとさで徹底的に練り上げたエルの幸せ来世計画を仕込んでから眠っていますので10や20失敗しても幸せになることは間違いなし!!
最初から『普通のハッピーエンド』にすることも考えたのですが、結構イロイロ仕出かしてるのでただ幸せに……というわけにはいきませんでした。
でも来世では普通の幸せを手に入れても良いですよね?
一日お休みしたあと、リオン視点の外伝がスタートします。その時はまたお付き合いいただければ嬉しいです。
外伝は、独立させてシリーズものとしてまとめることも考えましたが、読んで欲しい順番があるのと、外伝が新着に載っても新規の方にはわからない作りとなっているので、このお話の後ろに連載します。
このままお気に入りに入れておいて下されば、更新情報が届きます。
リオンの後にはメインキャラそれぞれの話……その後は、柩から目覚めて二人が仲良く暮らすお話も書く予定です。
お付き合いいただけると嬉しいです♥
読んで下さった方、本当にありがとうございました!!
ではまた~(#^.^#)
あと、この作品はBL大賞参加中です。もし気に入っていただけたら投票をお願いいたします!
俺は棺の中で目を覚ました。
体がとても軽かった。
棺の蓋を押して、上半身を起こす。
大聖堂の地下はとても暗いが、地上近くに設けた明り取りの小窓がわずかな光を差し込ませていた。
ああ、目が良く見える。
そして服が、大きすぎてだぶだぶだ。
俺は棺から抜け出すと、以前隠しておいた服と鍵を探した。
身にぴったりの服を見つけ出して着替えた後、今まで着ていた服は棺に放り込んで蓋を閉めなおした。
鍵を手に、人に見つからないよう、地下から大聖堂に出る。
誰も居ない大聖堂では、ただ聖像だけが優しく俺を見ていた。
俺はそこも後にして隠し通路を通り、弟の眠る墓所にと向かった。
廟の中では昔と変わらない『幼い姿のリオン』が、ガラスの棺の中で微笑みながら眠っていた。
「……明日は会いに来ると言ったのに、随分待たせてしまったな」
俺は棺の蓋を開けて囁いた。
もうあれから86年が経つ。
結局俺は、今日と言う日まで、ここを訪れる事は一度も無かった。
次にリオンに会うのは、人間としての生が終わったとき。人が作りうる最高の国を作った後。そう決めていたからだ。
アースラの望むような国は造らなかったので、やはり呪いは解けることがなかったが、俺は俺に課せられた役目をすべてやり終えた。
これからは『弟だけの優しい兄』でいてやれる。
俺は、リオンの隣にそっと身を横たえた。
体がどんどん冷えていくが、不思議と心は温かかった。
俺はリオンの横で考えた。
あのシステムを考えたアースラは、意外と優しい人だったのかもしれない。
人々を幸せにするためには、犠牲はどうしても必要。
それは、俺の前の生で身に染みた。
でも、多くの犠牲を出すことを悲しんだアースラは、多分考え抜いてあの結界のシステムを造り出したに違いない。
もたらされる『一世代の平和の犠牲』が、たった一人の人間と一体の魔獣だけで済むように。
でも、そのたった一人と『魔獣』がどうしたら奈落の底に落ちないで済むかも、彼はきっと考た。
自由を知っている魔獣は、その身の不自由を嘆かないで済むように深く魔縛し、意識も奪った。
人と異なる定めを持ち、一生祈りを捧げて過ごす代々のクロス神官たちには、外の自由を知らせず、生まれた時から閉じ込めた。
せめて彼らがほんの少しでも幸せであるよう……自分たちが『外の人々』に比べて不幸である事を気づかせないよう、人との交わりを絶たせたのだ。
それでもきっと、代々のクロス神官たちは幸せだったに違いない。
たとえそれが偽りであったとしても、誕生日にプレゼントをくれる優しい王を愛し、自分が決して目にする事の出来ぬ外の世界のために、惜しむことなく『心からの祈り』を捧げる事が彼らの誇りであり、幸せだった。
もちろんそれが『本当の幸せ』なのかと問われれば、今でも首を傾げざるを得ない。
でも幸せには様々な形があり、それを否定することだけは誰にも出来ない。
その是非がどうであろうと、アースラはアースラなりに、きっと必死で『最善の世界』を求めたのだろう。
なあ、リオン。
お前の夢の中に、まだ俺はいるか?
お前を外に連れ出し、奈落の底に落とした俺だけど……今でもやっぱりお前が愛しいんだ。
もし許されるなら、俺をまたあの笑顔で温かく迎えて欲しい。
今度こそ『お前だけの兄』として一緒にいるから。
あんなにも俺を求め続けたお前のそばに、ずっと居るから。
ずっと。
ずっと。今度こそずっと。
俺のために生きて死んだお前と、この身が朽ちるまで永遠に。
fin
まずは読んでくださった皆様ありがとうございました!!
お陰様で何とか完結まで書き続ける事が出来ましたよ~♪
私としてはこのお話はある意味ハッピーエンドで、
・リオン ⇒ 幸せな夢を見つつ、最後には兄を完全に手に入れる。
・エル ⇒ 自分が壊した以上の規模で世界を平和に再構築。
苦労もあったけど幸せも多かった人生を全うして、
愛するリオンと共に就寝。
・アリシア⇒ ヴァティールパパの愛に感謝しつつ、3児のママ。
仕事上もエルと助け合い、夫婦仲良く暮らした。
・ヴァティール⇒今度こそ娘を守れて大満足。
自分の意思で眠りについたので、それについても満足。
・王 ⇒ 終生『王』と言うより『商売人』として充実して過ごす。
妻は美人で優しく若い! 一人娘はエルの長男と結婚。
・エリス ⇒ 王に大切にされつつ、本人も奮闘。
優しく気高い王妃として後の世にも知られる。
・ウルフ ⇒ 書かれてないけど、普通に結婚して平和な世界で地味に暮らす。
なんか……ハッピーエンドだった気がしてきませんか?
でもこの続きは意外にも、もっとハッピーエンドなのですよ。
エルたちはこのあと100年ほど眠ります。
完璧にしがらみがなくなったあと起きられるよう兄ちゃんが細工してるので、少年の体で目覚めた兄弟は今度こそ幸せに穏やかに暮らします♥
元々、厳しい環境下に追い込まれなければ幸せに暮らせたはずの二人ですし。
生活に困らないよう、あちらこちらに財産も隠してあるし、教会には子供の保護も義務づけています。
大人のあざとさで徹底的に練り上げたエルの幸せ来世計画を仕込んでから眠っていますので10や20失敗しても幸せになることは間違いなし!!
最初から『普通のハッピーエンド』にすることも考えたのですが、結構イロイロ仕出かしてるのでただ幸せに……というわけにはいきませんでした。
でも来世では普通の幸せを手に入れても良いですよね?
一日お休みしたあと、リオン視点の外伝がスタートします。その時はまたお付き合いいただければ嬉しいです。
外伝は、独立させてシリーズものとしてまとめることも考えましたが、読んで欲しい順番があるのと、外伝が新着に載っても新規の方にはわからない作りとなっているので、このお話の後ろに連載します。
このままお気に入りに入れておいて下されば、更新情報が届きます。
リオンの後にはメインキャラそれぞれの話……その後は、柩から目覚めて二人が仲良く暮らすお話も書く予定です。
お付き合いいただけると嬉しいです♥
読んで下さった方、本当にありがとうございました!!
ではまた~(#^.^#)
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