滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
179 / 437
第23章 その日

4.その日

しおりを挟む
 その瞬間、白い花束とドレスに鮮血が散った。

 アリシアが胸を押さえて、ゆっくりと倒れていく。
 俺はあわてて、アリシアを受け止めた。

 背後では、一歩進む足音がする。
 振り返ればそこに、金の瞳の少年が、俺を見つめて立っていた。

「……酷いです……兄様。
 あんなに忘れないでって言ったのに……もう……僕の事なんか、すっかり忘れてしまったのですね」

 ヴァティール……いや、『リオン』は感情のこもらぬ口調で、ささやくようにつぶやいた。
 そして、アリシアの手から落ちた小さなぬいぐるみを拾い上げた。

「これも僕のなのに……兄様は僕のなのに。僕がっ……命がけで守ったのに!!!」

 アリシアを貫いた魔剣を、リオンは再び振り上げた。

「皆、皆殺してやる!! 
 恩知らずなアルフレッド王も、ウルフも、そこの冠をかぶった知らない女も!!!
 僕にとって、元々兄様だけが『人』だったんだ!! 他は要らない!!!
 兄様以外、皆死ねばいいんだ!!!!!」

 目を吊り上げて哄笑し、血まみれの魔剣を掲げるリオンのその姿のほうこそが『魔獣』と呼べるものだった。

「リオン……やめてくれ、リオン……!!」

 どんなに叫んでも、リオンは俺の言葉に耳を貸さなかった。

「うるさい!! 兄様も僕を裏切った!!!
 誰一人、僕を想ってくれなかった!!
 使うだけ使って……覚えて……いてさえ……皆僕を忘れて……楽しく笑って……僕だけ、独り……」

 リオンの言葉からは、深い悲しみが伝わってくる。

 命がけで戦い、その果てに願ったのは……とても小さな望み、一つ。
 しかし永い眠りから覚めてみれば、皆は何事も無かったかのようにリオンを忘れ、楽しそうに笑っていた。

 そう――――――思ったに違いない。

 でも違う。
 俺は、リオンを忘れてなどいない。

 一瞬たりとも。

「そんなことは無いっ!!
 俺はお前の事を覚えていた!!
 誰よりも大切だと……ずっとずっと思っていた!!!」

 俺は、心からの気持ちを叫んだ。

「……そう…………だったのですか……?」

 リオンの瞳が、わずかに揺らぐ。

「そうだ!!
 この世で一番大切なお前を忘れるなんて、ありえるわけがないだろう?
 信じてくれっ!! リオンっ!!!」

 叫ぶ俺を見て、リオンはとても嬉しそうに微笑んだ。
 昔から知っている、あの可憐な笑顔で。

「では、ここに居る人たち全員を兄様が殺して下さい。
 アリシア以外の人間だって、いつ兄様を盗み取ろうとするか、わかったものではありません。
 兄様以外の人間なんて、生きているだけで邪魔なのです。
 『僕が一番大切』なら、僕のために……皆を殺してくれますよね?」

 そう言って可愛らしく微笑んだリオンが、俺に魔剣を差し出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...