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第23章 その日
4.その日
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その瞬間、白い花束とドレスに鮮血が散った。
アリシアが胸を押さえて、ゆっくりと倒れていく。
俺はあわてて、アリシアを受け止めた。
背後では、一歩進む足音がする。
振り返ればそこに、金の瞳の少年が、俺を見つめて立っていた。
「……酷いです……兄様。
あんなに忘れないでって言ったのに……もう……僕の事なんか、すっかり忘れてしまったのですね」
ヴァティール……いや、『リオン』は感情のこもらぬ口調で、ささやくようにつぶやいた。
そして、アリシアの手から落ちた小さなぬいぐるみを拾い上げた。
「これも僕のなのに……兄様は僕のなのに。僕がっ……命がけで守ったのに!!!」
アリシアを貫いた魔剣を、リオンは再び振り上げた。
「皆、皆殺してやる!!
恩知らずなアルフレッド王も、ウルフも、そこの冠をかぶった知らない女も!!!
僕にとって、元々兄様だけが『人』だったんだ!! 他は要らない!!!
兄様以外、皆死ねばいいんだ!!!!!」
目を吊り上げて哄笑し、血まみれの魔剣を掲げるリオンのその姿のほうこそが『魔獣』と呼べるものだった。
「リオン……やめてくれ、リオン……!!」
どんなに叫んでも、リオンは俺の言葉に耳を貸さなかった。
「うるさい!! 兄様も僕を裏切った!!!
誰一人、僕を想ってくれなかった!!
使うだけ使って……覚えて……いてさえ……皆僕を忘れて……楽しく笑って……僕だけ、独り……」
リオンの言葉からは、深い悲しみが伝わってくる。
命がけで戦い、その果てに願ったのは……とても小さな望み、一つ。
しかし永い眠りから覚めてみれば、皆は何事も無かったかのようにリオンを忘れ、楽しそうに笑っていた。
そう――――――思ったに違いない。
でも違う。
俺は、リオンを忘れてなどいない。
一瞬たりとも。
「そんなことは無いっ!!
俺はお前の事を覚えていた!!
誰よりも大切だと……ずっとずっと思っていた!!!」
俺は、心からの気持ちを叫んだ。
「……そう…………だったのですか……?」
リオンの瞳が、わずかに揺らぐ。
「そうだ!!
この世で一番大切なお前を忘れるなんて、ありえるわけがないだろう?
信じてくれっ!! リオンっ!!!」
叫ぶ俺を見て、リオンはとても嬉しそうに微笑んだ。
昔から知っている、あの可憐な笑顔で。
「では、ここに居る人たち全員を兄様が殺して下さい。
アリシア以外の人間だって、いつ兄様を盗み取ろうとするか、わかったものではありません。
兄様以外の人間なんて、生きているだけで邪魔なのです。
『僕が一番大切』なら、僕のために……皆を殺してくれますよね?」
そう言って可愛らしく微笑んだリオンが、俺に魔剣を差し出した。
アリシアが胸を押さえて、ゆっくりと倒れていく。
俺はあわてて、アリシアを受け止めた。
背後では、一歩進む足音がする。
振り返ればそこに、金の瞳の少年が、俺を見つめて立っていた。
「……酷いです……兄様。
あんなに忘れないでって言ったのに……もう……僕の事なんか、すっかり忘れてしまったのですね」
ヴァティール……いや、『リオン』は感情のこもらぬ口調で、ささやくようにつぶやいた。
そして、アリシアの手から落ちた小さなぬいぐるみを拾い上げた。
「これも僕のなのに……兄様は僕のなのに。僕がっ……命がけで守ったのに!!!」
アリシアを貫いた魔剣を、リオンは再び振り上げた。
「皆、皆殺してやる!!
恩知らずなアルフレッド王も、ウルフも、そこの冠をかぶった知らない女も!!!
僕にとって、元々兄様だけが『人』だったんだ!! 他は要らない!!!
兄様以外、皆死ねばいいんだ!!!!!」
目を吊り上げて哄笑し、血まみれの魔剣を掲げるリオンのその姿のほうこそが『魔獣』と呼べるものだった。
「リオン……やめてくれ、リオン……!!」
どんなに叫んでも、リオンは俺の言葉に耳を貸さなかった。
「うるさい!! 兄様も僕を裏切った!!!
誰一人、僕を想ってくれなかった!!
使うだけ使って……覚えて……いてさえ……皆僕を忘れて……楽しく笑って……僕だけ、独り……」
リオンの言葉からは、深い悲しみが伝わってくる。
命がけで戦い、その果てに願ったのは……とても小さな望み、一つ。
しかし永い眠りから覚めてみれば、皆は何事も無かったかのようにリオンを忘れ、楽しそうに笑っていた。
そう――――――思ったに違いない。
でも違う。
俺は、リオンを忘れてなどいない。
一瞬たりとも。
「そんなことは無いっ!!
俺はお前の事を覚えていた!!
誰よりも大切だと……ずっとずっと思っていた!!!」
俺は、心からの気持ちを叫んだ。
「……そう…………だったのですか……?」
リオンの瞳が、わずかに揺らぐ。
「そうだ!!
この世で一番大切なお前を忘れるなんて、ありえるわけがないだろう?
信じてくれっ!! リオンっ!!!」
叫ぶ俺を見て、リオンはとても嬉しそうに微笑んだ。
昔から知っている、あの可憐な笑顔で。
「では、ここに居る人たち全員を兄様が殺して下さい。
アリシア以外の人間だって、いつ兄様を盗み取ろうとするか、わかったものではありません。
兄様以外の人間なんて、生きているだけで邪魔なのです。
『僕が一番大切』なら、僕のために……皆を殺してくれますよね?」
そう言って可愛らしく微笑んだリオンが、俺に魔剣を差し出した。
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