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第23章 その日
3.その日☆
しおりを挟む約一ヶ月後の霧雨月16日。
丁度『リオンの誕生日』に、俺たちはヴァティールが元居た湖畔の別荘の庭園で、ひっそりと結婚式を執り行った。
生きていれば20歳になったリオンが見れるはずだったが、その夢はもう叶わない。
アリシアは「神様が怖い」と言って、神官からの祝福を欲しなかった。
だから、儀式を執り行う神官さえここにはいない。
参列者はアルフレッド王とウルフ、それにエリス王妃、ヴァティールだけだ。
別にそれに不満は無い。仰々しい式より、かえって気が楽だ。
祝ってくれるのは、皆俺の身内のような存在。
それで十分過ぎるぐらいだ。
霧雨月の庭園は色とりどりのハイドレンジアが見事に咲き誇っていて、俺達の新しい門出を祝福しているかのようだった。
そういえば、弟は真っ白な地下神殿で暮らしていたために、外に出てからは色鮮やかな物が大好きで、ハイドレンジアも大好きな花のひとつだった。
幼い仕草で花を摘む、在りし日の弟の姿と笑顔が、今も鮮やかに思い出される。
なのに、リオンが今ここに居ないことに、また胸が深く痛む。
「……ほら、やっぱり晴れたでしょ?」
横から話しかけられて、ハッとする。
シンプルな白いドレスを着たアリシアが、俺に微笑みかけていた。
昨日まで降っていた雨も早朝には止み、今は青空がどこまでも高く広がっている。
彼女の言う通り雨は止んだ。俺たちはこれから幸せな夫婦となるだろう。
リオンの事を生涯忘れないという……俺の気持ちを大切にしてくれるアリシア。
彼女となら、共に並んで歩んでいける。
俺はドレス姿のアリシアの手を取って、庭園の真ん中に引かれた赤い絨毯の上を歩いた。
その先には、アルフレッド王とエリス王妃が立っている。
二人はこの結婚の立会人となり、牧師の真似事をして下さっているのだ。
アリシアの手には、小さなぬいぐるみがそっと握られていた。
部屋にずっと飾ってあったそれを、『リオンの代わりに』と一緒に連れてきたのだ。
女性って、いくつになってもロマンチストなんだな……と微笑ましく思いながら、俺はそれを見た。
「汝病めるときも、健やかなる時も……」
アルフレッド王の、低く厳かな声が朗々と湖畔に響く。
俺がかつて、そう誓いたい相手はリオンだった。そのことを思い出して苦笑する。
幼いながらに、真剣な恋だったように思う。
いや、恋だったのかどうか……それはもう、俺自身にもよくわからない。
なにせリオンは『弟』だったのだ。
今でも『最愛の人』であることだけは間違いないが、そのリオンは……もういない。
これから人生を共に歩むのは、隣にいる強く優しいこの女性。
俺とアリシアは、愛を誓い合った。
皆が口々に祝辞を述べる。幸せだった。本当に幸せだった。
祖国を滅ぼし、多くの人々を殺してしまった俺に、こんな幸せな日がこようとは、想像も出来なかった。
ヴァティールが、白いバラの花束を持って近づいてくる。
この後に及んでもアリシアを俺に奪われるのはショックなのか、顔は伏せられたままだ。
そんなに心配しなくても、アリシアの最愛はヴァティールのものなのに。
教えてはやらないけど。
そう思って笑んだその時―――――――。
「おめでとう………………兄様」
淡々としたその冷たい声に、皆がギョッとしてヴァティールを見た。
*イラストは以前に蒼様よりいただきました♥
ありがとうございます!
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