滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第22章 許し

6.許し

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 リオンは一度目の死を俺の心無い言葉によって迎えた。

 二度目は俺を助けるために。
 そしてそれからは、ヴァティールによって何度も何度も殺されていた。

 奴は絶対に『リオンの体』を手放さない。
 もう、リオンが蘇る事はない。

 あの笑顔も、俺を呼ぶ甘い声も、何もかも永遠に失ったのだ。

 俺がやってきたことは、いったい何だったのだろう?
 これまで俺は、弟のためだけに頑張ってきた。

 城の地下から助けだし、外の世界に連れていき、共に喜び共に苦しみ、それでもその果てに幸せな未来があると信じてもがいてきた。

 でも俺にとっての『幸せな未来』とは『リオンが幸せに笑っている未来』の事だった。
 地下神殿に会いに行くたび見た、輝くような笑顔を永遠にしてあげたかった。
 ずっとずっと、見ていたかった。

 結局はそれこそが、俺を動かす原動力だったのだ。 

 深く考え込んだその時、ギィ……と部屋のドアが開く音がした。
 振り返ってみるとアリシアが立っていた。

「……どうしたんだ? こんな夜中に……」

「うん。ヴァティール様が部屋にいらっしゃって起こされちゃった。
 部屋を替わって欲しいって……」

 アリシアは静かに言った。

「そうか……。
 ヴァティールは他に何か言ってなかったか?」

「……婚約者なら慰めてやれって言われたわ」

 アリシアはヴァティールが使っていたベットにそっと腰を下ろした。

「なあアリシア。俺はもうどうしてよいかわからない。
 本当にわからないんだ……」

 俺は呻くように言い、アリシアに隠していた事すべてを打ち明けた。

 元『エルシオンの王子』であること。
 祖国を滅ぼしてしまったこと。
 ヴァティールのこと。

 彼女に全てを知られたなら、もう俺には破滅の道しかない。
 あんなに俺を信じてくれた友・エドガーですら、俺のしたことを許しはしなかった。

 きっとアリシアも同じだ。
 私情にとらわれて一国を滅ぼした、愚かな俺を許しはしない。

 朝になれば俺がしてきたことは皆に広まり、忌まれ、この国を追われるだろう。
 それでも構わない。

 リオンを幸せに出来なかった俺など、もうどうなっても良いのだ。

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