滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
173 / 437
第22章 許し

6.許し

しおりを挟む
 リオンは一度目の死を俺の心無い言葉によって迎えた。

 二度目は俺を助けるために。
 そしてそれからは、ヴァティールによって何度も何度も殺されていた。

 奴は絶対に『リオンの体』を手放さない。
 もう、リオンが蘇る事はない。

 あの笑顔も、俺を呼ぶ甘い声も、何もかも永遠に失ったのだ。

 俺がやってきたことは、いったい何だったのだろう?
 これまで俺は、弟のためだけに頑張ってきた。

 城の地下から助けだし、外の世界に連れていき、共に喜び共に苦しみ、それでもその果てに幸せな未来があると信じてもがいてきた。

 でも俺にとっての『幸せな未来』とは『リオンが幸せに笑っている未来』の事だった。
 地下神殿に会いに行くたび見た、輝くような笑顔を永遠にしてあげたかった。
 ずっとずっと、見ていたかった。

 結局はそれこそが、俺を動かす原動力だったのだ。 

 深く考え込んだその時、ギィ……と部屋のドアが開く音がした。
 振り返ってみるとアリシアが立っていた。

「……どうしたんだ? こんな夜中に……」

「うん。ヴァティール様が部屋にいらっしゃって起こされちゃった。
 部屋を替わって欲しいって……」

 アリシアは静かに言った。

「そうか……。
 ヴァティールは他に何か言ってなかったか?」

「……婚約者なら慰めてやれって言われたわ」

 アリシアはヴァティールが使っていたベットにそっと腰を下ろした。

「なあアリシア。俺はもうどうしてよいかわからない。
 本当にわからないんだ……」

 俺は呻くように言い、アリシアに隠していた事すべてを打ち明けた。

 元『エルシオンの王子』であること。
 祖国を滅ぼしてしまったこと。
 ヴァティールのこと。

 彼女に全てを知られたなら、もう俺には破滅の道しかない。
 あんなに俺を信じてくれた友・エドガーですら、俺のしたことを許しはしなかった。

 きっとアリシアも同じだ。
 私情にとらわれて一国を滅ぼした、愚かな俺を許しはしない。

 朝になれば俺がしてきたことは皆に広まり、忌まれ、この国を追われるだろう。
 それでも構わない。

 リオンを幸せに出来なかった俺など、もうどうなっても良いのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

処理中です...