172 / 437
第22章 許し
5.許し
しおりを挟む
俺とヴァティールは同室だ。
リオンの面影を消されるようで本当は不快だったが、ヴァティールが強く望んだので仕方が無い。
昼はアリシアかウルフが張り付いているが、夜間魔獣を野放しにするのはやはりためらわれるので、どちらにせよ俺と同室にせざるをえないという理由もある。
魔獣といえども人間の体を使う以上は睡眠をとるようで、夜はベットに横になって眠る。
しかしそのうちきっと……奴は動き出す。
俺は眠ったふりをして、ヴァティールが起きだすのを待った。
それを数日繰り返す。
ある日の真夜中、ついに隣のベットで起き上がる気配がした。
ささやくような呪文に続き、何かが月明かりを小さく反射する。
魔剣エラジー。その刀身に光が反射したのだ。
俺は気づかれないよう薄く眼を開けてその様子を伺った。
ヴァティールは血止めの呪文を囁きながら刀身を自分の方に向けると、一気に自分の心臓を貫いた。
「何をしているんだ!! ヴァティール!!!」
ヴァティールはしまったという顔で振り向いた。
魔獣の胸には刀身が刺さったままだ。
「……気にするな。この体を殺しているだけだ」
ヴァティールは痛みのためか、顔をゆがめてそう言った。
「その体は俺の弟の体だ!!
おかしいと思っていた。リオンが復活しないなんて!!
お前はリオンが出てこれないように、体が修復を終える寸前に再び壊して使っていたんだ!!
そこまでしてその体を使いたいのかっ!!」
俺は激情のままにヴァティールの襟首を掴んだ。
「……当たり前だろう。
他に移る体が無いのなら、どんな痛みに耐えてもこの体にしがみつくしかない。
ワタシは何百年もの間、王家の奴隷として屈服させられてきた。
その気持ち、オマエなどにはわかるまいよ」
魔獣は俺の手を振り払い、魔剣を元通り鞘に納めた。
そうして少し寂しげな顔をして言った。
「ワタシは王家の者は嫌いだが、子供のオマエに罪があるわけじゃなし……リオンとて憎きアースラの人器といえど、哀れには思う。
リオンは死ぬ間際、オマエのことだけを考えていた。
憎しみも恨みもなく『世界で一番大事な』オマエのことだけを。
オマエがアレを覚えていてくれさえいれば、そしてオマエが幸せに生きてくれさえいれば、それでリオンは満足なのだ。
……だから、せめてワタシがあれの代わりにオマエを守ってやろうとずっと傍にいた。
ブルボア王国に手も貸してやった」
そう言ってヴァティールは目を閉じた。
「オマエと過ごすのは結構楽しかったよ。でも目障りだと言うのなら、この部屋から出て行ってやる。
それでもワタシはオマエを守ってやるし……そうだな、これからはアリシアと暮らすがいい。
エリスが結婚したと言うのに、うんと年上のアリシアがいつまでも独り身というのは可哀想だ」
そうしてヴァティールは自分の荷物をいくらか引っ張り出し始めた。
元々リオンの持ち物だった物は一つも出さなかったので、一応俺に気を使ってくれているのかもしれない。
「なぁエル……この体を殺しても、痛いのはワタシだけだ。
深く眠っているリオンに、痛みは全く無い。安心しろ」
ヴァティールは振り向きもせず、そのまま出て行った。
俺はその場から動けなかった。
リオンの面影を消されるようで本当は不快だったが、ヴァティールが強く望んだので仕方が無い。
昼はアリシアかウルフが張り付いているが、夜間魔獣を野放しにするのはやはりためらわれるので、どちらにせよ俺と同室にせざるをえないという理由もある。
魔獣といえども人間の体を使う以上は睡眠をとるようで、夜はベットに横になって眠る。
しかしそのうちきっと……奴は動き出す。
俺は眠ったふりをして、ヴァティールが起きだすのを待った。
それを数日繰り返す。
ある日の真夜中、ついに隣のベットで起き上がる気配がした。
ささやくような呪文に続き、何かが月明かりを小さく反射する。
魔剣エラジー。その刀身に光が反射したのだ。
俺は気づかれないよう薄く眼を開けてその様子を伺った。
ヴァティールは血止めの呪文を囁きながら刀身を自分の方に向けると、一気に自分の心臓を貫いた。
「何をしているんだ!! ヴァティール!!!」
ヴァティールはしまったという顔で振り向いた。
魔獣の胸には刀身が刺さったままだ。
「……気にするな。この体を殺しているだけだ」
ヴァティールは痛みのためか、顔をゆがめてそう言った。
「その体は俺の弟の体だ!!
おかしいと思っていた。リオンが復活しないなんて!!
お前はリオンが出てこれないように、体が修復を終える寸前に再び壊して使っていたんだ!!
そこまでしてその体を使いたいのかっ!!」
俺は激情のままにヴァティールの襟首を掴んだ。
「……当たり前だろう。
他に移る体が無いのなら、どんな痛みに耐えてもこの体にしがみつくしかない。
ワタシは何百年もの間、王家の奴隷として屈服させられてきた。
その気持ち、オマエなどにはわかるまいよ」
魔獣は俺の手を振り払い、魔剣を元通り鞘に納めた。
そうして少し寂しげな顔をして言った。
「ワタシは王家の者は嫌いだが、子供のオマエに罪があるわけじゃなし……リオンとて憎きアースラの人器といえど、哀れには思う。
リオンは死ぬ間際、オマエのことだけを考えていた。
憎しみも恨みもなく『世界で一番大事な』オマエのことだけを。
オマエがアレを覚えていてくれさえいれば、そしてオマエが幸せに生きてくれさえいれば、それでリオンは満足なのだ。
……だから、せめてワタシがあれの代わりにオマエを守ってやろうとずっと傍にいた。
ブルボア王国に手も貸してやった」
そう言ってヴァティールは目を閉じた。
「オマエと過ごすのは結構楽しかったよ。でも目障りだと言うのなら、この部屋から出て行ってやる。
それでもワタシはオマエを守ってやるし……そうだな、これからはアリシアと暮らすがいい。
エリスが結婚したと言うのに、うんと年上のアリシアがいつまでも独り身というのは可哀想だ」
そうしてヴァティールは自分の荷物をいくらか引っ張り出し始めた。
元々リオンの持ち物だった物は一つも出さなかったので、一応俺に気を使ってくれているのかもしれない。
「なぁエル……この体を殺しても、痛いのはワタシだけだ。
深く眠っているリオンに、痛みは全く無い。安心しろ」
ヴァティールは振り向きもせず、そのまま出て行った。
俺はその場から動けなかった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中


この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。

真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる