171 / 437
第22章 許し
4.許し
しおりを挟む
姫が15才の誕生日を迎えたその日、うちの国ともっと強い同盟を結びたいアレス王の意向もあって21歳年上のアルフレッド王との婚約が確定した。
最初は本国からの要請に驚いたエリス姫だったが、姫にとっても母国とこの国との『末永い友好』は願ってもないことであったらしい。
二つ返事で了承の運びとなった。
アルフレッド王は元々とっくに妃を娶っておらねばならぬ年齢だったが、あまりに忙しすぎたせいか浮いた噂の一つも聞いたことがない。
でも待てよ……エリス姫を可愛がって『お兄様』と呼ばせていたっけな?
下心からではないと信じたいが、姫の意向を聞くなり王も即断したという話しだから、まさかのロリコ……いや、年下好きなのかもしれない。
二人の年は相当離れていたが、この婚儀は『良縁』として城の皆にも喜ばれた。アレス帝国は憎いが、それでも平和が恒久的なものになるのであればそちらを選びたいのが人の情というものなのだろう。
ただ、エリス姫を娘のように可愛がっていたヴァティールだけは婚約が決まって以来一週間、ショックのためか食事も取らずに部屋に閉じこもった。
部屋の外から王みずから呼びかけても、アリシアやエリス姫が奴の大好きな苺ケーキを持って行っても、頑として扉を開けなかった。
もちろん、部屋主である俺まで追い出されたままだった。
本当に大人気無い魔獣である。
それでも一週間たって、やっと部屋から出てきたあいつは、
「エリスを泣かせたら八つ裂きにして殺す」
……というドスの効いた祝いの(?)言葉を王に贈り渋々了承した。
その後もヴァティールはリオンの姿のまま婚儀に参加し、魔獣に似合わぬ涙を盛大に流していたが……花嫁からのキスを頬に受けボソボソと、でも今度こそは、まともな祝福の言葉を述べていた。
その姿を城の者たちは微笑ましく見ていたが、俺には違和感があった。
花嫁より年上のはずのヴァティールの方が、姫よりずっと幼いのだ。
リオンの体はあれから全く年をとっていない。
呪いを受けた11才当時の、小さな姿のままだ。
俺たちは不死を与えられたが、不老ではない。
これまでも、俺やリオンは成長してきた。
弟が亡くなってからは中身が魔獣と入れ替わってはいるが、それでも体だけは成長していくはずなのに、リオンの体は一切の成長を止めたのだ。
他の者たちは『大魔道士』というのはそういう神秘的存在なのだろう、と気にも留めていないようだが、俺にはそれが不思議でたまらない。
ヴァティールの魔力がリオンの体に何か悪い作用をもたらしているのではあるまいか?
俺は魔術に疎いので方法まではわからないが、リオンの体を乗取ったとき魔獣は言った。
「絶対にリオンの体は返さない。
リオンにアースラ仕込みの魔縛術があろうと、いくらでもやりようはある」
と。
弟の身を案じながらも王の警護をしていた時、ふとした会話が耳に入った。
アリシアとエリス王妃の会話だ。
エリス姫達が言うには、ヴァティールの手はとても冷たいのだそうだ。
俺がヴァティールに触れることは無いが、娘のように可愛がられているエリス王妃やアリシアはそうじゃない。
あの魔獣はもしや……。
俺は一つの仮説を立てた。
それは、確かめることすらためらわれるような恐ろしい説だったが、俺は弟のために真実を突き止めねばならない。
最初は本国からの要請に驚いたエリス姫だったが、姫にとっても母国とこの国との『末永い友好』は願ってもないことであったらしい。
二つ返事で了承の運びとなった。
アルフレッド王は元々とっくに妃を娶っておらねばならぬ年齢だったが、あまりに忙しすぎたせいか浮いた噂の一つも聞いたことがない。
でも待てよ……エリス姫を可愛がって『お兄様』と呼ばせていたっけな?
下心からではないと信じたいが、姫の意向を聞くなり王も即断したという話しだから、まさかのロリコ……いや、年下好きなのかもしれない。
二人の年は相当離れていたが、この婚儀は『良縁』として城の皆にも喜ばれた。アレス帝国は憎いが、それでも平和が恒久的なものになるのであればそちらを選びたいのが人の情というものなのだろう。
ただ、エリス姫を娘のように可愛がっていたヴァティールだけは婚約が決まって以来一週間、ショックのためか食事も取らずに部屋に閉じこもった。
部屋の外から王みずから呼びかけても、アリシアやエリス姫が奴の大好きな苺ケーキを持って行っても、頑として扉を開けなかった。
もちろん、部屋主である俺まで追い出されたままだった。
本当に大人気無い魔獣である。
それでも一週間たって、やっと部屋から出てきたあいつは、
「エリスを泣かせたら八つ裂きにして殺す」
……というドスの効いた祝いの(?)言葉を王に贈り渋々了承した。
その後もヴァティールはリオンの姿のまま婚儀に参加し、魔獣に似合わぬ涙を盛大に流していたが……花嫁からのキスを頬に受けボソボソと、でも今度こそは、まともな祝福の言葉を述べていた。
その姿を城の者たちは微笑ましく見ていたが、俺には違和感があった。
花嫁より年上のはずのヴァティールの方が、姫よりずっと幼いのだ。
リオンの体はあれから全く年をとっていない。
呪いを受けた11才当時の、小さな姿のままだ。
俺たちは不死を与えられたが、不老ではない。
これまでも、俺やリオンは成長してきた。
弟が亡くなってからは中身が魔獣と入れ替わってはいるが、それでも体だけは成長していくはずなのに、リオンの体は一切の成長を止めたのだ。
他の者たちは『大魔道士』というのはそういう神秘的存在なのだろう、と気にも留めていないようだが、俺にはそれが不思議でたまらない。
ヴァティールの魔力がリオンの体に何か悪い作用をもたらしているのではあるまいか?
俺は魔術に疎いので方法まではわからないが、リオンの体を乗取ったとき魔獣は言った。
「絶対にリオンの体は返さない。
リオンにアースラ仕込みの魔縛術があろうと、いくらでもやりようはある」
と。
弟の身を案じながらも王の警護をしていた時、ふとした会話が耳に入った。
アリシアとエリス王妃の会話だ。
エリス姫達が言うには、ヴァティールの手はとても冷たいのだそうだ。
俺がヴァティールに触れることは無いが、娘のように可愛がられているエリス王妃やアリシアはそうじゃない。
あの魔獣はもしや……。
俺は一つの仮説を立てた。
それは、確かめることすらためらわれるような恐ろしい説だったが、俺は弟のために真実を突き止めねばならない。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる