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第22章 許し

3.許し

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 リオンの事は、今では話題に上がることさえもない。

 ヴァティールに上書きされた『大人しい弟』の事など、誰ひとり関心を示さない。
 まして滅んでしまった国の幼い姫・ヴィアリリスなど、誰かの記憶の片隅にさえ存在しない。

 あの愛らしい弟妹を覚えているのはもう、世界中探したって俺だけになってしまった。
 忘れられた二人の代わりにエリス姫やヴァティールが、皆の注目や愛情を一身に浴びている。

 あれほど脅えていたブラディやアッサムも今ではすっかりヴァティールに慣れ、奴の事を『救国の英雄』として崇めているし、美しく優しいエリス姫を誉めそやし、その境遇に同情を寄せている。
 他の奴等も似たようなものだ。

 ヴァティールは相変らず我侭だが、不思議と奴の行く先々には人が集まる。エリス姫の元にも。
 そうやって、あいつらが城の人々と……皆と屈託なく笑う姿が妬ましい。

 俺が見たかったのは、リオンや妹のそういう姿だったのに。


 そうこうするうち、姫は15才の誕生日を迎えた。
 本国アレスからは煌びやかな祝の品が届けられたが、エリス姫はそのすべてをブルボアの民のために差し出した。

 今年に限らず、姫はいつもそうしている。
 こういうところも敵国人ながら姫が好かれる所以なのだろう。

 ただ、今回アレス本国から持ち込まれたのは品物だけではなかった。
 驚くべき提案が密かにアルフレッド王に持ち込まれたのである。 
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