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第22章 許し

2.許し

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 クーデターにより次々と領土を奪い返されたアレス帝国は、木ノ葉が剥がれ落ちるように小さくなっていった。

 もし今アレス帝国と我が国、もしくは同盟国のうちのどこかと戦争が始まったとしても、敗れるのはアレス帝国であり、ヴァティールが参戦しなかったとしてもそれは覆らないだろう。

 エリス姫は人知れず祖国の凋落に心を痛めていたかもしれないが、それでも祖国を弁護するようなことは無く、我が国にひたすら尽くしてくれていた。

 この国に人質として来たとき、姫は故国が『どのように非道な事を行なってきたか』という現実を知った。
 当時十才の姫自身に非があるわけではないが、それでもアレス帝国の暴虐さを考えれば城内の者たちが姫を快く思わないのは当然である。

 冷たい視線を背に浴び、親の仇、友の仇と影から睨まれ、考えうる限りの罵詈雑言を囁かれながら姫は城内で過ごしてきた。
 囁かれる内容の酷さでいったら、リオンの時の比ではないだろう。

 それでもエリス姫は、素直で心優しい姫として成長した。
 いつもヴァティールが張り付いて父親のように守り、アリシアや王もそれをよくフォローしたせいなのだろうと思う。

 エリス姫はどんなにつらくとも皆に優しく振る舞い、愛されるよう努力した。

 そんなエリス姫はいっそう美しく成長し、いつの間にか城の皆にも愛されるようになった。

 でも俺は、そんなエリス姫を愛らしいとは思えない。
 姫と同じ色の瞳と髪を持っていた亡き妹ヴィアリリスや、無残に腹を割かれて死んでいったリオンの事を思い出し、苦々しく思うのみだ。

 エリス姫やヴァティールがつかんでいる幸せは、本来なら俺の可愛い弟妹のものだった。
 抑えようとしても抑えきれない憎悪が募る。

 国を救ってくれたヴァティールや、祖国から売られた薄幸な姫をここまで憎悪する俺は、多分まともではないのだろう。

 いっそこの背から黒い翼が生えて魔物にでもなってしまえば、この苦しさから逃れられるのだろうか。 

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