滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第22章 許し

1.許し

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 リオンが眠りについてから約5年の月日がたった。
 けれど弟は、まだ戻らない。

 俺は21才となり、今は国の要職に就いている。

 染めていた髪も『リオンが好きだった』元の金色に戻している。
 祖国は滅び、アレス帝国はもはや驚異でも何でもない。
 もう、染めている理由も無くなった。

 リオンが目覚めたなら『初めて俺たちが会った時のあの色』を見せてやりたい。
 きっと、喜ぶだろうから。

 ブルボア王国は現在、52ヶ国同盟のリーダーとして隆盛を誇っている。
 一方アレス帝国は、順調に凋落していった。

 エリス姫をよこすことで我が国とアレス帝国は和平条約を結んではいるが、あの国がどのように落ちていこうと、我が国の知ったことではない。
 むしろ、今のうちにどこまでアレス帝国を堕としておけるかで、我が国の今後が決まる。

 王はヴァティールに『国の守護神』としてずっと留まってもらいたいようだが、俺はそうは望んでいない。
 いつの日かリオンは帰ってくると、まだ信じている。

 リオンが戻ってきたとき素晴らしい国であるよう、リオンがそれを喜んでくれるであろうことを思うだけが『今の俺を動かす力』だ。

 幸い王は、ヴァティールの力だけに頼るような国づくりは危険だと見抜いているのか、魔獣に過度の期待は寄せていない。
 今後『魔獣』と『リオン』が再び入れ替わっても、大きな支障は出ないだろう。

 ヴァティールは普段は城で遊んでいるだけだし、王は着々と人の手だけで政策を進めていっている。

 アレス帝国の植民地内で猛威を振るう反乱軍に、裏から物資を流している者がいることについては、アレス王も流石に気がついているようだ。
 しかし我が国にヴァティールが居るため、我が国やその同盟国には手を出してこない。

 魔獣の使いどころは、抑止力。アレス帝国を牽制するために存在するだけで良い。

 アレス帝国には、300年前の対エルシオン戦の記録が詳細に残っているはず。
 あの時の惨状を思い出せば、魔獣を従えている(ように見える)我が国に逆らえるはずもない。

 どのような大軍を出そうと、アレス軍は『ヴァティール』という『個』に敗れる。
 それも、一矢すら報いることの出来ぬ屈辱的な形で。

 そうなれば噂は前回のように国々を駆け巡り、いっそう他の国々や植民地に侮られ、窮地に追い込まれるのは明らかだ。

 魔獣の出番はあれ以降ないまま、時が矢のように過ぎていく。

 弟の遺した小さなヌイグルミだけが、相変わらず棚の上から俺を見ていた。 

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