滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第21章 人質

9.人質

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 リオンを復活させるなら、誰かを犠牲にしなければならない。

 死んでも惜しくないのはエリス姫だが、いくら憎い敵国の姫と言えどそんな事は出来ない。
 第一、ヴァティールが了承するわけがない。

 アリシアも無理だ。
 彼女は信頼している俺の仲間だ。

 アレス王のエリス以外の血族にも調査を入れたが、すべて条件には当てはまらない。

 耐魔性の最も強いであろうアレス国王はすでに初老のうえ、心労のせいか微妙な感じに禿げていた。

 皇太子はわりと美形ではあるが、ヴァティールの好みとは程遠い筋骨隆々のゴツイあご割れ青年。

 10年前には絶世の美女と評判の高かった第一皇女も、すでに中年にさしかかり激太りしていたため除外。

 その他の親族も密かに調査を入れてみたが、使えそうな奴は一人もいない。

 もちろん我が国の罪人、そして国外の罪人までも調べて回ったが耐魔性があり、かつヴァティールが気にいるほど美しい体を持つ者は一人もいなかった。

 いったい俺はどうすれば良いのだ。
 リオンの最後の言葉が、頭の中をぐるぐると回る。

 あんな風に殺されて、さぞ怖かったろう。苦しかったろう。
 なのに俺はあの時、何一つ助けてやることが出来なかった。リオンが死にゆくのをただ見ているしかなかった。

 弟は最後まで悲鳴一つ上げなかった。
 悲鳴をあげたら俺が苦しむと……あの優しい弟は、そう思ったに違いない。

 忘れない。
 俺は絶対に弟を忘れない。

 城の皆がリオンを忘れようとしていることは、もはや止めようもない。

 しかし、俺だけは忘れない。

 俺までがリオンを忘れて現状を良しとしてしまったら、弟は居なかったことになってしまう。
 あんなに国のために尽くした弟の全てが消えてしまう。

 いったいどうしたら……。

 俺は何日も考え込んだ。
 それでも答えは出ない。

 闇の中を歩いているような気持ちでいた俺に、ふとある考えが浮かんだ。

 そうだ……俺は誰も選ばなくていい。

 あの体は元々弟のもの。ならばあの魔獣が弟に体を返して眠りにつけば、それですむ話なのだ。
 俺は今まで通り、リオンを信じて待てばいい。

 あの賢い弟はきっといつか魔獣を出し抜いて蘇る。

 しかし俺の甘い考えをあざ笑うかのように、リオンの魂はいつまで待っても復活の兆しを見せなかった。
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