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第21章 人質
8.人質
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「……っ……ぃ」
「はぁ?」
「使えるわけ……ないだろう!! そんな大勢の罪なき人間を!!」
「なるほど。数が多いことが問題か。では、アリシアを使うか?
たった一人の犠牲で済むぞ?」
魔獣がニタリと嗤う。
「アリシアの何代か前に、それなりの魔道士がいたのだろう。多少の耐魔性がある。
存分に魔力を振るえるほど使い勝手が良いわけではないが、体を壊さぬように魔力を抑えれば、十分使用に耐える。
オマエの想い人では使うわけにはいかぬから、以前は諦めたが……」
そういえばヴァティールは昔、アリシアを欲しがったことがあった。
彼女は魔道士ではないが、空を見て天気を当てる。雲の流れを読むのだと言っていたが、それにしても予想が外れたことはない。
気性の荒い、前の主人の元でもたった一人、五体満足で生き残っている。
それが彼女の耐魔性と関係があるのかないのか俺にはわからないが、ヴァティールが言うのなら、その通りなのだろう。
「アリシアは……駄目だ」
俺は声を搾り出した。
色々と性格に問題のある彼女だが、それでも他の奴らと違って、彼女はリオンにもずっと気を配ってくれていた。
弟が『死神』と言われるようになっても、城内の奴らのように態度を変えることはなかったし、今はヴァティールと意気投合しているとはいえ、リオンの誕生日にはいつもプレゼントを持ってきてくれていた。
売り子の時を除けば、他人にはニコリともしないリオンのために、そこまでしてくれたのは、アリシアと王しかいない。
そのアリシアを犠牲になんて出来ない。
「……そうかァ。それを聞いて安心した。
オマエはやはり、アースラとは違う。
人間なんて、寿命の短い虫みたいなモノだが……それでも美しい蝶を愛でるのは昔から好きだった。
害虫を駆除したり、足元の虫を知らずに踏むことは確かにあったが、ワタシだって、害のない虫や美しい蝶の羽を自ら好んで引きちぎりたいわけではない」
魔獣の紅い瞳が、切なげに細められていた。
「ワタシはアースラに捕らえられ、大好きだった蝶すら一時は嫌いになった。
しかし今は違う。
娘と同じ名を持つアリシアは、今や私の娘同様だ。
出会ったばかりの頃ならともかく、今更使うなど……オマエに頼まれたとしても命を賭して拒否する。
あの娘は、本当に苦労してきている。
死んでしまったワタシの娘の分まで、幸せになって欲しいのだ」
言葉を紡ぐ魔獣の瞳は、潤んでいるように見えた。
魔獣といえど、娘の死はとても悲しいものであったのだろう。
そして、その名が『アリシア』と同じであったとは……。
何故、人間であるアリシアやエリスを魔族であるヴァティールがあそこまで可愛がるのか不思議だったが、彼は彼女たちに亡き娘の面影を重ねていたのだろう。
「お前の娘……亡くなっていたのか……」
「ああ、とっくにな。
私は愛娘アッシャを誰より愛していたのに、あの糞アースラの奴がァ……」
ヴァティールの顔色が変わっていく。
それとともに温度が上昇していく。
「うえっ!! 溶けてる、床が溶けるから止めろ!!」
「あ? ……ああ、すまない。悪いがこの件は思い出したくも無いんだ。
今後一切、触れないでくれるか?」
そう言うと、ヴァティールは去っていった。
「はぁ?」
「使えるわけ……ないだろう!! そんな大勢の罪なき人間を!!」
「なるほど。数が多いことが問題か。では、アリシアを使うか?
たった一人の犠牲で済むぞ?」
魔獣がニタリと嗤う。
「アリシアの何代か前に、それなりの魔道士がいたのだろう。多少の耐魔性がある。
存分に魔力を振るえるほど使い勝手が良いわけではないが、体を壊さぬように魔力を抑えれば、十分使用に耐える。
オマエの想い人では使うわけにはいかぬから、以前は諦めたが……」
そういえばヴァティールは昔、アリシアを欲しがったことがあった。
彼女は魔道士ではないが、空を見て天気を当てる。雲の流れを読むのだと言っていたが、それにしても予想が外れたことはない。
気性の荒い、前の主人の元でもたった一人、五体満足で生き残っている。
それが彼女の耐魔性と関係があるのかないのか俺にはわからないが、ヴァティールが言うのなら、その通りなのだろう。
「アリシアは……駄目だ」
俺は声を搾り出した。
色々と性格に問題のある彼女だが、それでも他の奴らと違って、彼女はリオンにもずっと気を配ってくれていた。
弟が『死神』と言われるようになっても、城内の奴らのように態度を変えることはなかったし、今はヴァティールと意気投合しているとはいえ、リオンの誕生日にはいつもプレゼントを持ってきてくれていた。
売り子の時を除けば、他人にはニコリともしないリオンのために、そこまでしてくれたのは、アリシアと王しかいない。
そのアリシアを犠牲になんて出来ない。
「……そうかァ。それを聞いて安心した。
オマエはやはり、アースラとは違う。
人間なんて、寿命の短い虫みたいなモノだが……それでも美しい蝶を愛でるのは昔から好きだった。
害虫を駆除したり、足元の虫を知らずに踏むことは確かにあったが、ワタシだって、害のない虫や美しい蝶の羽を自ら好んで引きちぎりたいわけではない」
魔獣の紅い瞳が、切なげに細められていた。
「ワタシはアースラに捕らえられ、大好きだった蝶すら一時は嫌いになった。
しかし今は違う。
娘と同じ名を持つアリシアは、今や私の娘同様だ。
出会ったばかりの頃ならともかく、今更使うなど……オマエに頼まれたとしても命を賭して拒否する。
あの娘は、本当に苦労してきている。
死んでしまったワタシの娘の分まで、幸せになって欲しいのだ」
言葉を紡ぐ魔獣の瞳は、潤んでいるように見えた。
魔獣といえど、娘の死はとても悲しいものであったのだろう。
そして、その名が『アリシア』と同じであったとは……。
何故、人間であるアリシアやエリスを魔族であるヴァティールがあそこまで可愛がるのか不思議だったが、彼は彼女たちに亡き娘の面影を重ねていたのだろう。
「お前の娘……亡くなっていたのか……」
「ああ、とっくにな。
私は愛娘アッシャを誰より愛していたのに、あの糞アースラの奴がァ……」
ヴァティールの顔色が変わっていく。
それとともに温度が上昇していく。
「うえっ!! 溶けてる、床が溶けるから止めろ!!」
「あ? ……ああ、すまない。悪いがこの件は思い出したくも無いんだ。
今後一切、触れないでくれるか?」
そう言うと、ヴァティールは去っていった。
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