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第21章 人質
4.人質★
しおりを挟む程なくして届けられたのはアレス帝国第2皇女のエリス姫だった。
年は10歳。
母は名家の出。
同腹の兄が皇太子という恵まれた少女だが、高慢さを感じさせるようなところは少しも無い。
むしろ気弱そうで、蜂蜜色のふわふわの髪と湖水色の瞳を持つ、目の覚めるような美少女だった。
彼女は非武装の供50人に豪奢な馬車で送られて来たが城外で引き渡され、そこからはたった一人である。
供は間者となりうるし、その昔、幼い姫の侍女として入り込んだ女暗殺者が王族すべてを殺し、更に城の井戸に毒を投げ込んで自決したという事件も他国ではあった。
そこまではいかなくとも似た話があちらこちらにゴロゴロあるため、この時代の人質はよほどの事情が無くては本国から供がつけられることは無い。
「わ……わたくしがエリス・ラ・アレスで……ございます……。どうぞ両国の友好のお役に立てますよう……何なりと……お、お申し付けくださいませ」
10歳の小柄なエリス姫が瞳に涙をため、がたがたと震えながらもドレスのすそをつまんで王に向かってお辞儀した。
その様子を複雑そうにヴァティールは見ていたが、突然王の前に歩み寄った。
「もういいだろう、こんな見世物まがいの受け渡し式は。おいでエリス」
そう言うとエリス姫の手を引いて、あっけに取られる皆を残して行ってしまった。
エリス姫はアレス帝国軍の大軍勢と魔道士団を一瞬にして破ったヴァティールの事を相当恐れていたようだ。
しかしヴァティールはアリシアと共に姫の部屋に通いつめた。
小さな姫が感じた『恐怖』は大変なものであったであろうが、助けてやる気にはなれなかった。
俺の全てを奪った憎いアレス帝国の姫。
そんな姫のために時間を割いてやるほど俺はお人好しではない。
ヴァティールが姫をどうしようと、俺が関与するべき事柄ではないのだ。
そう思っていたら、案外姫は上機嫌で過ごしているらしいとの情報が耳に入ってきた。
どうも見かけが(リオンの体なので)幼く愛らしいうえ、子供には優しい(らしい)あやつに簡単に懐いたようなのだ。
また、エリス姫はとても美しいだけではなく、性格の優しい子だったらしい。
そのため益々ヴァティールに可愛がられた。
今では朝からあの魔獣がエリス姫の部屋に押しかけ、嬉しそうに彼女の髪を結い上げてやっているらしい。
*イラスト背景はPixivにて無料公開中の背景素材集を利用させていただきました。
ありがとうございます。
元素材集はこちら→http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=31515067
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