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第20章 人の心

5.人の心

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「それ、ナイスアイデアですわ!! ヴァティール様!!」

 魔獣の失礼な提案にアリシアが目を輝かせる。

「わたくし、最初はヴァティール様の事『とても怖い方』なのではと思っておりましたが、とんでもないことでした。
 ヴァティール様は聡明でお優しくていらっしゃるから、きっと別人格を打ち出したほうが城の皆にも慕われますわ!!」

 アリシアの言葉に、王も頷いた。

「……確かにそれは言えるかもしれない。
 何度も話してみたが、ヴァティール殿は中々の人物だ。
 それにエルよ……とにかくヴァティール殿には城にいていただかねばならない。
 王命だ。
 ヴァティール殿を城に連れ帰るのだ」

 逆らうことは不可なその一言に、俺は渋々頷いた。


 帰城したヴァティールはもちろん、皆に畏怖の目で見られた。

 親衛隊員であるブラディやアッサムはヴァティールとなったリオンを見たとたん腰を抜かしたし、やっと床上できた暗殺隊員も恐怖のあまり再び寝込んだ。

 よくそれで親衛隊や暗殺者が務まったなオイ……あまりにも情けないぞ。

 あの時城壁の上で一緒に戦っていた兵士たちには王たちと適当に捏造した事情の方を話しておいた。

 それでもリオンの時同様忌まれてしまうのは仕方ない。

 遠巻きに恐る恐る見る者、ひそひそと囁く者、色々だ。
 しかしそんな城の者たちの視線など意にも介さぬ風に、魔獣は堂々と城の中を歩き回った。

 ……と言っても傍らには必ずアリシアとウルフが付き従っている。
 何かしでかしたら大変だからだ。

 ただ、そのアリシアとウルフはとても楽しそうだ。

 ヴァティールの方も、貴賓室でイライラしていた頃とは違い彼らにもそれなりの気遣いを見せ、楽しそうに笑いかけていた。

 その様を見るうちに城の人々もだんだんと変わってきた。

「何か、今のリオン様……いや、ヴァティール様の方がとっつきやすいよな?
 それに最初は『怖い』と思ったけど、よく考えたら国を救ってくれた『大英雄様』だ」

 人々はこのように囁き始めたのだ。
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