滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
154 / 437
第20章 人の心

2.人の心

しおりを挟む
 城壁から身を躍らせ、たった一人でアレス軍に挑んでいったのはリオンだった。

 この国を作り上げるときだって、暗殺隊を率いて汚れ仕事を引き受けたのはリオンだった。

 なのに、ヴァティールの活躍の前にはそれすら霞んでしまう。
 大人しかった俺の弟のことなんて、もう誰も思い出さない。

 俺はふと思い立ってリオンの机の引き出しを探った。
 人の机をあさるなんて良くないことだが、どうしても探したい物があったのだ。

 綺麗な細工で編まれた小さなカゴの中にそれはあった。

 リオンが幼い頃、いつも持っていた小さな小さな熊のヌイグルミ。
 実際は俺があげたものではなかったが、リオンは俺からのプレゼントと信じていつも持っていた。

 この国に来て落ち着いてからはそんなことも段々無くなっていたが、それにまだリオンの温もりが残っているような気がして軽く撫でてみる。

 リオンはいつも、どのような気持ちでこのぬいぐるみに心を寄せていたのだろうか……?

 俺はリオンの身代わりとしてヌイグルミを棚の上の方に飾った。
 急にヴァティールがこの部屋に来たとしても、背の低いあいつからは死角となり、気づかれにくいはずだ。
 あいつにはアレを触られたくない。

 いや、弟に関するもの全てを触られたくない。

 弟の魂は深い眠りについてしまったけれどせめて……せめてこの部屋だけはいつリオンが戻ってきてもいいようにこのままにしておくのだ。

 確かにリオンが存在したという証のために。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...