152 / 437
第19章 魔獣ヴァティール
8.魔獣ヴァティール
しおりを挟む「やり過ぎだと?」
魔獣はいぶかしむように首をかしげた。
でも、リオンのときのような楚々とした可愛らしさなどは全然ない。
「リオンがやろうとしていたのは、ワタシのあの技だぞ?
しかも、ワタシはちゃんと加減はした」
「あれでかっ!?」
叫ぶ俺を魔獣はフフンと見下した。
「あの魔炎を使って『何故あの規模の破壊』なのか、全然分かってないのだなァ?
熱気が城や他の地域に及ばぬよう、ワタシはちゃんと細工をしてやった。
そもそもアースラは、そうやってワタシを使っていたからなァ。
しかし、未熟なオマエの弟が術を成功させたとて、アースラのようにはいくものか。
奴の潜在能力は多分糞アースラ以上。今の時点でも、やりようによっては術を発動させられたかもしれない。
でも、ろくに修行をしていなかったのか、制御する力はあまりにも未熟。
成功していたとしても……まあ、オマエ一人ぐらいは守れたかもしれないが、他は到底無理だなァ。
術を上手く扱えず、国の半分ぐらいはアレス兵ごと吹き飛ばしていたことだろうよ。もちろん、ここにいる他の奴らも巻き込んでなッ!」
魔獣は意地悪く笑うと再び食事をかき込んだ。
俺は魔獣の言葉に呆然としていた。
リオンは『そのこと』を知っていて、あの術を放っていたのだろうか?
そんなはずはないと思いながらも『あるいは』と思ってしまう自分がいる。
いや、違う。
皆が助かるには『あの方法』しかなかった。
だからリオンは危険を承知で挑んだのだ。
そして『技』は魔獣の放ったものに比べれば、小規模にしか発動していなかった。
リオンなりにコントロールしようとしていたからだったに違いない。
国の大半を吹き飛ばすつもりなど…………あるわけがない。
しかし、他の皆は魔獣の言葉を真に受けたのか、黙り込んだ。
「ち……違う。リオンはそんなつもりではやっていない……!!
弟は大人でさえ逃げ出すような荒事も、進んで引受ていた。
国民を守るために頑張っていた!!
そして……アレス帝国が攻めて来るまでは、自分の部下を誰一人死なせず、体を張って戦っていたんだ!!」
言いながら、涙が落ちた。
そうだ。リオンは暗殺隊の皆を逃がし、自分は盾となって炎の中に残ったことすらあったではないか。
一瞬でもリオンを疑って揺らいだ自分が情けない。
そして、あんなにも頑張ったリオンを悪く言う、この魔獣が憎くてたまらない。
「お前がっ……リオンの『何』を知っているというのだっ……!!
この、クソ魔獣ッ!!!」
激昂して立ち上がった俺を、王が手で制した。
「申し訳ありません、ヴァティール殿。
この者は今、身内を失って気が動転しているのです。
アリシア、エルを別室に」
「俺は……!!」
なおも言い募ろうとした俺に、アリシアが首を振った。
とても悲しげに。
そうだった……。
この国の危機は、まだ終わったわけではない。
魔獣と契約したのは『俺』なので、まだ『魔縛』の術はいくらかかかったままのようではある。しかし契約を補助したリオンの死で、かなりの部分が解けてしまっている。
課せられた制約は『主を傷つけないこと』『主から遠く離れないこと』それのみ。
以前と違って『俺の許可無く魔の力を振るうこと』は可能。そう魔獣は言っていた。
アレス兵十数万を焼き溶かすほどの力を持つヴァティール。
奴の機嫌を損なえば、この国は瞬時に滅ぶ。
俺の身さえ傷つけなければ、魔獣は他の人間を『生かすも殺すも』自由なのだから。
魔獣はいぶかしむように首をかしげた。
でも、リオンのときのような楚々とした可愛らしさなどは全然ない。
「リオンがやろうとしていたのは、ワタシのあの技だぞ?
しかも、ワタシはちゃんと加減はした」
「あれでかっ!?」
叫ぶ俺を魔獣はフフンと見下した。
「あの魔炎を使って『何故あの規模の破壊』なのか、全然分かってないのだなァ?
熱気が城や他の地域に及ばぬよう、ワタシはちゃんと細工をしてやった。
そもそもアースラは、そうやってワタシを使っていたからなァ。
しかし、未熟なオマエの弟が術を成功させたとて、アースラのようにはいくものか。
奴の潜在能力は多分糞アースラ以上。今の時点でも、やりようによっては術を発動させられたかもしれない。
でも、ろくに修行をしていなかったのか、制御する力はあまりにも未熟。
成功していたとしても……まあ、オマエ一人ぐらいは守れたかもしれないが、他は到底無理だなァ。
術を上手く扱えず、国の半分ぐらいはアレス兵ごと吹き飛ばしていたことだろうよ。もちろん、ここにいる他の奴らも巻き込んでなッ!」
魔獣は意地悪く笑うと再び食事をかき込んだ。
俺は魔獣の言葉に呆然としていた。
リオンは『そのこと』を知っていて、あの術を放っていたのだろうか?
そんなはずはないと思いながらも『あるいは』と思ってしまう自分がいる。
いや、違う。
皆が助かるには『あの方法』しかなかった。
だからリオンは危険を承知で挑んだのだ。
そして『技』は魔獣の放ったものに比べれば、小規模にしか発動していなかった。
リオンなりにコントロールしようとしていたからだったに違いない。
国の大半を吹き飛ばすつもりなど…………あるわけがない。
しかし、他の皆は魔獣の言葉を真に受けたのか、黙り込んだ。
「ち……違う。リオンはそんなつもりではやっていない……!!
弟は大人でさえ逃げ出すような荒事も、進んで引受ていた。
国民を守るために頑張っていた!!
そして……アレス帝国が攻めて来るまでは、自分の部下を誰一人死なせず、体を張って戦っていたんだ!!」
言いながら、涙が落ちた。
そうだ。リオンは暗殺隊の皆を逃がし、自分は盾となって炎の中に残ったことすらあったではないか。
一瞬でもリオンを疑って揺らいだ自分が情けない。
そして、あんなにも頑張ったリオンを悪く言う、この魔獣が憎くてたまらない。
「お前がっ……リオンの『何』を知っているというのだっ……!!
この、クソ魔獣ッ!!!」
激昂して立ち上がった俺を、王が手で制した。
「申し訳ありません、ヴァティール殿。
この者は今、身内を失って気が動転しているのです。
アリシア、エルを別室に」
「俺は……!!」
なおも言い募ろうとした俺に、アリシアが首を振った。
とても悲しげに。
そうだった……。
この国の危機は、まだ終わったわけではない。
魔獣と契約したのは『俺』なので、まだ『魔縛』の術はいくらかかかったままのようではある。しかし契約を補助したリオンの死で、かなりの部分が解けてしまっている。
課せられた制約は『主を傷つけないこと』『主から遠く離れないこと』それのみ。
以前と違って『俺の許可無く魔の力を振るうこと』は可能。そう魔獣は言っていた。
アレス兵十数万を焼き溶かすほどの力を持つヴァティール。
奴の機嫌を損なえば、この国は瞬時に滅ぶ。
俺の身さえ傷つけなければ、魔獣は他の人間を『生かすも殺すも』自由なのだから。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します
バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。
しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。
しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生───しかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく……?
少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。
(後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。
文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。
また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる