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第19章 魔獣ヴァティール
6.魔獣ヴァティール
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俺の思いとは裏腹に、今日も貴賓室に下品な怒鳴り声が響きわたる。
「飽きたって言ってるだろうッ!! そろそろワタシを外に連れて行け!!
森に行きたい!! 町に行って買い物でもいい。
制約のせいで、オマエが外に行かないとワタシまで巻き添えなんだよッ!!」
声質はリオンのままなのに『中の人』が変わっただけでここまで粗野に聞こえるのはある意味驚異だな……と思いながら目の前の小さな姿に目を遣る。
最初は下にも置かない扱いに満足していたヴァティールだが、長期に渡る部屋暮らしはさすがに飽きてきたようで、色々趣向を凝らしてもすぐ飽きるようになっていた。
ああ……リオンは、こうじゃなかった。
一人で俺を待っている時はいつも大人しく本を読んだり、部屋を隅々まで美しく磨きあげていたりしてくれていたものだった。
本当に、俺にはもったいないぐらい良く出来た弟だったのだ。
しかし何百年も生きてきたはずのこの魔獣は、たかが数十日でさえ大人しくしていられなかった。
部屋は散らかすし、ワガママは言い放題。行動は粗野。
少しは年下のリオンを見習って欲しいものだ。
「あら、ヴァティール様、昨日お持ちしましたこのゲームはもう飽きられましたか?」
ヴァティールと一緒にゲームをしていたアリシアが、美しい笑みを浮かべた。
初日こそ腰が抜けた状態の彼女だったが、腹が決まると見事な立ち直りを見せた。
今はヴァティール付きの侍女として、あれやこれやと気を引いてくれている。
ついでにアリシアの奴隷・ウルフも巻き添えで一緒にカードゲームをさせられているが、こっちはいまだに顔色が悪い。
「飽きるに決まっているだろう。もう何日外に出てないと思っているのだッ!!
連れて行けないならせめて命じろ!
エルよ。オマエの命令さえあれば、ワタシは30キロル程度なら自由に動けると言っているだろうッ!!」
ヴァティールは持っていたカードの束をバラバラと床に投げ捨てた。
俺は粗野な魔獣にこっそりとため息をつきつつも、奴を宥めるために優しく穏やかに話しかけた。
「気持ちは分かるが落ち着いてくれ。その姿で部屋の外に出られると城内が混乱する。
まして町などとんでもない。
本当にすまないのだが、もうしばらく大人しくしてくれないか?」
内心イライラしながらも優しくなだめる俺に、ヴァティールは語気を荒げた。
「ふん。何が混乱だっ。とりあえずオマエの弟のフリをしておけばよいのだろう?
任せておけ!!!!
な、何だ、その信頼の欠片もない眼差しは!!
ワタシだってアースラの糞野郎に出会う前は、それはそれは上品で麗しく……」
「お前の冗談はさておき、この城近くの湖畔に素晴らしい別荘を見つけておいた。今、お前が気に入るよう大急ぎで内装を美しく仕上げさせている。そこなら自由だ。だから機嫌を直してくれないか?」
俺はにっこりと笑いながら穏やかに言った。
「……エル……本当にそう思っているなら、ワタシの機嫌が直るような言い方をしろよ。ワタシは300年前は本当に上品で」
「それはともかくどうだ? 別荘の方は? 行ってみたくはないか?」
せっかく俺が優しく微笑んでるというのに、魔獣はハァ、とため息を吐いた。
「……ったく。前はけっこう可愛いところもあったのに、しばらく見ないうちに性格が悪くなったなァ。
まあいい。ここから解放されるならどこへだって行ってやる。
それに、湖が見える別荘かァ。昔、シヴァもそういう所を用意してくれたっけな。アイツは糞アースラと違ってとても優しい奴だった」
魔獣がうんうんと頷く。
ひとまず機嫌が直ったようだ。
このまま俺の部屋に『リオンとして』居座られるなんて冗談じゃない。
いくら外見が同じといっても奴は俺の弟ではない。
弟の体を奪い……人間を虫けらと呼ぶ魔獣なのだ
「飽きたって言ってるだろうッ!! そろそろワタシを外に連れて行け!!
森に行きたい!! 町に行って買い物でもいい。
制約のせいで、オマエが外に行かないとワタシまで巻き添えなんだよッ!!」
声質はリオンのままなのに『中の人』が変わっただけでここまで粗野に聞こえるのはある意味驚異だな……と思いながら目の前の小さな姿に目を遣る。
最初は下にも置かない扱いに満足していたヴァティールだが、長期に渡る部屋暮らしはさすがに飽きてきたようで、色々趣向を凝らしてもすぐ飽きるようになっていた。
ああ……リオンは、こうじゃなかった。
一人で俺を待っている時はいつも大人しく本を読んだり、部屋を隅々まで美しく磨きあげていたりしてくれていたものだった。
本当に、俺にはもったいないぐらい良く出来た弟だったのだ。
しかし何百年も生きてきたはずのこの魔獣は、たかが数十日でさえ大人しくしていられなかった。
部屋は散らかすし、ワガママは言い放題。行動は粗野。
少しは年下のリオンを見習って欲しいものだ。
「あら、ヴァティール様、昨日お持ちしましたこのゲームはもう飽きられましたか?」
ヴァティールと一緒にゲームをしていたアリシアが、美しい笑みを浮かべた。
初日こそ腰が抜けた状態の彼女だったが、腹が決まると見事な立ち直りを見せた。
今はヴァティール付きの侍女として、あれやこれやと気を引いてくれている。
ついでにアリシアの奴隷・ウルフも巻き添えで一緒にカードゲームをさせられているが、こっちはいまだに顔色が悪い。
「飽きるに決まっているだろう。もう何日外に出てないと思っているのだッ!!
連れて行けないならせめて命じろ!
エルよ。オマエの命令さえあれば、ワタシは30キロル程度なら自由に動けると言っているだろうッ!!」
ヴァティールは持っていたカードの束をバラバラと床に投げ捨てた。
俺は粗野な魔獣にこっそりとため息をつきつつも、奴を宥めるために優しく穏やかに話しかけた。
「気持ちは分かるが落ち着いてくれ。その姿で部屋の外に出られると城内が混乱する。
まして町などとんでもない。
本当にすまないのだが、もうしばらく大人しくしてくれないか?」
内心イライラしながらも優しくなだめる俺に、ヴァティールは語気を荒げた。
「ふん。何が混乱だっ。とりあえずオマエの弟のフリをしておけばよいのだろう?
任せておけ!!!!
な、何だ、その信頼の欠片もない眼差しは!!
ワタシだってアースラの糞野郎に出会う前は、それはそれは上品で麗しく……」
「お前の冗談はさておき、この城近くの湖畔に素晴らしい別荘を見つけておいた。今、お前が気に入るよう大急ぎで内装を美しく仕上げさせている。そこなら自由だ。だから機嫌を直してくれないか?」
俺はにっこりと笑いながら穏やかに言った。
「……エル……本当にそう思っているなら、ワタシの機嫌が直るような言い方をしろよ。ワタシは300年前は本当に上品で」
「それはともかくどうだ? 別荘の方は? 行ってみたくはないか?」
せっかく俺が優しく微笑んでるというのに、魔獣はハァ、とため息を吐いた。
「……ったく。前はけっこう可愛いところもあったのに、しばらく見ないうちに性格が悪くなったなァ。
まあいい。ここから解放されるならどこへだって行ってやる。
それに、湖が見える別荘かァ。昔、シヴァもそういう所を用意してくれたっけな。アイツは糞アースラと違ってとても優しい奴だった」
魔獣がうんうんと頷く。
ひとまず機嫌が直ったようだ。
このまま俺の部屋に『リオンとして』居座られるなんて冗談じゃない。
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