滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
149 / 437
第19章 魔獣ヴァティール

5.魔獣ヴァティール

しおりを挟む
「飽きたッ!!」

 部屋を開けるなり、ヴァティールがわめいた。

 あれから更に1ヶ月。
 夜はリオン同様俺と部屋を共にしているものの、日中は相変わらず最高貴賓室で奴をもてなしている。

 ヴァティールの気に入りそうな服、食べ物、遊び、あらゆるものを用意し『救国の労』をねぎらい続けた。

 ……というのはもちろん建前だ。

 ヴァティールとリオンの人格が入れ替わった事は、城のほとんどの者には伏せてある。
 それを綻ばせないためだ。

 リオンの名誉にかかわる事だから、元々体内に魔獣を宿し、今は魔獣の人格と入れ替わっていることは、一般人に知られるわけにはいかない。

 地下神殿にこもっていたせいか、変な噂もやっと落ち着いてきたところだったのに、国のためにあんな姿になってまで戦ったリオンがこれ以上人々に忌まれるなんて、俺には我慢できない。

 幸い……と言うわけではないが、リオンは人付き合いが悪い。
 親しい人間は俺しかいない。

 王とはわりと喋っていたようだが、それでも親しいと言うほどではなかったし、会議で毎日顔を合わせざるをえないアリシア・ウルフにも特に懐いたりはしなかった。

 そんなありさまだったので、一番長く時間を共にしていたのは暗殺隊のメンバーと言うことになるのだが、リオンが隊長を勤めるそのメンバーは魔術を使って戦うリオンを恐れており、深い交流は無い。

 というか、先の大戦のせいで生き残っているリオン以外の暗殺者はたった一人になってしまった。
 その一人も城壁からリオンの……というかヴァティールの戦いぶりを見てショックから高熱を出し、以来臥せって姿を見せない。

 ええい暗殺者のくせに、なんという脆い神経の持ち主だ。
 リオンは十数万の敵に囲まれても、一歩も引かなかったというのに。

 それはともかく、そういうわけでリオン(ヴァティール)が一室に篭っていたところで気にする者などほとんど居ない。

 しかし……問題はヴァティールだ。

 最初の頃、俺は奴に「大人しく俺の部屋にいるように」と命じて……いや、『お願い』しておいた。
 しかし全く聞きやしなかった。

 奴は『人間嫌い』の癖に俺の自室から勝手に出て……見ず知らずの者にも気軽に話しかけていやがった。

 おそらく、魔縛で永く閉じ込められていた時の反動なのだろう。
 そういえば奴は、昔からお喋りだった。

 相手が怖がって逃げようとしても、引っ捕まえて喋りかけていたという報告を聞いて、俺は仰天して迎えに行った。

 それからは俺の手が空く夜間以外は、事情を知っているアリシアに任せている。

 王は城内の混乱を慮り、ヴァティールを隔離するという俺の案に可を出した。
 そうしてアリシアをヴァティールの侍女に任命し、貴賓室の常時使用も認めた。

 結果として奴が『国を救った形』になったとはいえ、その時の機嫌しだいで何をしでかすかわからない魔獣に城中ウロウロされては、王としても非常に困るのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

処理中です...