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第19章 魔獣ヴァティール
5.魔獣ヴァティール
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「飽きたッ!!」
部屋を開けるなり、ヴァティールがわめいた。
あれから更に1ヶ月。
夜はリオン同様俺と部屋を共にしているものの、日中は相変わらず最高貴賓室で奴をもてなしている。
ヴァティールの気に入りそうな服、食べ物、遊び、あらゆるものを用意し『救国の労』をねぎらい続けた。
……というのはもちろん建前だ。
ヴァティールとリオンの人格が入れ替わった事は、城のほとんどの者には伏せてある。
それを綻ばせないためだ。
リオンの名誉にかかわる事だから、元々体内に魔獣を宿し、今は魔獣の人格と入れ替わっていることは、一般人に知られるわけにはいかない。
地下神殿にこもっていたせいか、変な噂もやっと落ち着いてきたところだったのに、国のためにあんな姿になってまで戦ったリオンがこれ以上人々に忌まれるなんて、俺には我慢できない。
幸い……と言うわけではないが、リオンは人付き合いが悪い。
親しい人間は俺しかいない。
王とはわりと喋っていたようだが、それでも親しいと言うほどではなかったし、会議で毎日顔を合わせざるをえないアリシア・ウルフにも特に懐いたりはしなかった。
そんなありさまだったので、一番長く時間を共にしていたのは暗殺隊のメンバーと言うことになるのだが、リオンが隊長を勤めるそのメンバーは魔術を使って戦うリオンを恐れており、深い交流は無い。
というか、先の大戦のせいで生き残っているリオン以外の暗殺者はたった一人になってしまった。
その一人も城壁からリオンの……というかヴァティールの戦いぶりを見てショックから高熱を出し、以来臥せって姿を見せない。
ええい暗殺者のくせに、なんという脆い神経の持ち主だ。
リオンは十数万の敵に囲まれても、一歩も引かなかったというのに。
それはともかく、そういうわけでリオン(ヴァティール)が一室に篭っていたところで気にする者などほとんど居ない。
しかし……問題はヴァティールだ。
最初の頃、俺は奴に「大人しく俺の部屋にいるように」と命じて……いや、『お願い』しておいた。
しかし全く聞きやしなかった。
奴は『人間嫌い』の癖に俺の自室から勝手に出て……見ず知らずの者にも気軽に話しかけていやがった。
おそらく、魔縛で永く閉じ込められていた時の反動なのだろう。
そういえば奴は、昔からお喋りだった。
相手が怖がって逃げようとしても、引っ捕まえて喋りかけていたという報告を聞いて、俺は仰天して迎えに行った。
それからは俺の手が空く夜間以外は、事情を知っているアリシアに任せている。
王は城内の混乱を慮り、ヴァティールを隔離するという俺の案に可を出した。
そうしてアリシアをヴァティールの侍女に任命し、貴賓室の常時使用も認めた。
結果として奴が『国を救った形』になったとはいえ、その時の機嫌しだいで何をしでかすかわからない魔獣に城中ウロウロされては、王としても非常に困るのだ。
部屋を開けるなり、ヴァティールがわめいた。
あれから更に1ヶ月。
夜はリオン同様俺と部屋を共にしているものの、日中は相変わらず最高貴賓室で奴をもてなしている。
ヴァティールの気に入りそうな服、食べ物、遊び、あらゆるものを用意し『救国の労』をねぎらい続けた。
……というのはもちろん建前だ。
ヴァティールとリオンの人格が入れ替わった事は、城のほとんどの者には伏せてある。
それを綻ばせないためだ。
リオンの名誉にかかわる事だから、元々体内に魔獣を宿し、今は魔獣の人格と入れ替わっていることは、一般人に知られるわけにはいかない。
地下神殿にこもっていたせいか、変な噂もやっと落ち着いてきたところだったのに、国のためにあんな姿になってまで戦ったリオンがこれ以上人々に忌まれるなんて、俺には我慢できない。
幸い……と言うわけではないが、リオンは人付き合いが悪い。
親しい人間は俺しかいない。
王とはわりと喋っていたようだが、それでも親しいと言うほどではなかったし、会議で毎日顔を合わせざるをえないアリシア・ウルフにも特に懐いたりはしなかった。
そんなありさまだったので、一番長く時間を共にしていたのは暗殺隊のメンバーと言うことになるのだが、リオンが隊長を勤めるそのメンバーは魔術を使って戦うリオンを恐れており、深い交流は無い。
というか、先の大戦のせいで生き残っているリオン以外の暗殺者はたった一人になってしまった。
その一人も城壁からリオンの……というかヴァティールの戦いぶりを見てショックから高熱を出し、以来臥せって姿を見せない。
ええい暗殺者のくせに、なんという脆い神経の持ち主だ。
リオンは十数万の敵に囲まれても、一歩も引かなかったというのに。
それはともかく、そういうわけでリオン(ヴァティール)が一室に篭っていたところで気にする者などほとんど居ない。
しかし……問題はヴァティールだ。
最初の頃、俺は奴に「大人しく俺の部屋にいるように」と命じて……いや、『お願い』しておいた。
しかし全く聞きやしなかった。
奴は『人間嫌い』の癖に俺の自室から勝手に出て……見ず知らずの者にも気軽に話しかけていやがった。
おそらく、魔縛で永く閉じ込められていた時の反動なのだろう。
そういえば奴は、昔からお喋りだった。
相手が怖がって逃げようとしても、引っ捕まえて喋りかけていたという報告を聞いて、俺は仰天して迎えに行った。
それからは俺の手が空く夜間以外は、事情を知っているアリシアに任せている。
王は城内の混乱を慮り、ヴァティールを隔離するという俺の案に可を出した。
そうしてアリシアをヴァティールの侍女に任命し、貴賓室の常時使用も認めた。
結果として奴が『国を救った形』になったとはいえ、その時の機嫌しだいで何をしでかすかわからない魔獣に城中ウロウロされては、王としても非常に困るのだ。
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