滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第19章 魔獣ヴァティール

3.魔獣ヴァティール

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 それでも、皆が危惧したようなことは起こらなかった。
 今のところヴァティールはご機嫌だ。
 色んなご馳走をたらふく食べ、現代の説明を王から受け、興味深そうに聞いている。

 俺もあれから頭を冷やし、ヴァティールの我が儘には根気よくつきあった。
 全ては『この国』と『弟』のためである。

 今俺にできることは、ヴァティールの興味を引いて一室に閉じ込めておくこと。
 そして、リオンが復活するまでにこの魔獣を利用してアレス帝国を潰しておくこと。それだけだ。


 数日後、ヴァティールの機嫌が良さそうなところを見計らって、俺は行動に出ることにした。
 上手く頼めば、この魔獣は俺たちに協力してくれるかもしれない。

「ヴァティール。この間は俺が悪かった。
 アレス帝国は悪魔の国。そして弟はまだ未熟。
 弟に国を焼くつもりは無かったと思うが、結果としてそうなったかもしれないところをお前が救ってくれたこと……そしてアレス兵を撃退してくれたこと……とても感謝している」

 俺がそう言って頭を下げると、魔獣はちょっと怪訝な顔をした。
 こんなにも下手に出てやっているのに失礼な奴だ。

「別にワタシに国を救おうという意図はなかった。
 それは前にも言ったはずだ。
 ワタシは自分の『器』を守っただけだ。
 ただまぁ………………さすがに少々可哀相だったからなァ。
 アイツの使いたかった技をサービスしてやっただけなんだよ」

 サービス……。
 あれは魔獣なりのサービスだったのか……。

 ついでに俺にもサービスして、とっととアレス帝国を滅ぼした上で弟の体から出て行ってくれればいいのに。

 内心不愉快だが、顔には出さない。
 まだ、我が国にはコイツの力が必要なのだ。

「お前がリオンを可哀想に思ってくれたのなら、アレス帝国を滅ぼすのを手伝ってくれないか?
 リオンはまだ子供だったのに……アレス帝国が存在する限り、あんな悲劇はまだまだ続く」

 一生懸命訴えかけてみたが、魔獣の反応は今ひとつだ。

「……なァ、エルよ。少年でも戦士なら、戦闘で死ぬのは仕方ないんだ。
 そこは諦めろ」

 いきなりそう返されてムッとする。
 しかし、怒鳴りつけて言うことを聞かせられる相手ではない。

 ムカムカしながらも、俺はその表情を見られないよう、ただうつむく事しか出来なかった。

「でもまァ、あんな風に子供を嬲るのはやりすぎだなァ。
 憎っったらしい糞餓鬼だったが、あいつは最後まで兄であるオマエの無事だけを考えていた。
 ワタシにとっては最悪のクソガキだが、オマエにとっては『良い弟』だったのだろうよ」

 ヴァティールらしくないしんみりとした口調で言われると、さっきまでの怒りも吹き飛んで、今度は涙が滲んでくる。
 やはり弟は死の間際、俺のことを……俺の無事だけを考えて逝ったのだ。

「全く……馬鹿な子供だよなァ。
 さっさとアホ兄貴も国も見捨てて、自分だけ逃げるか死んだふりでもしてればいいのに。
 でも、子供なんていうのはそういうものなのかもなァ。
 ワタシの子供も自分の身より、私の身を案じてくれていたものだった……」

「「「「ぅええぇえ!!!!!」」」」

 魔獣の思わぬセリフに、同じ部屋にいた王やアリシア――――皆の声が一斉にはもった。

「……お前……子供いたんだ……」

 ヴァティールは何百年も生きている魔獣だが、いつもリオンの体を借りているので見かけは幼い。
 それに彼の性格は、我侭な子供を思わせる。

 だから子供がいるなんて……考えてもみなかった。

「いちゃ悪いのか? なんだ、その驚愕しきった目は」

「あ、……いやすまない。別に悪くはないんだが、何か意外で……」

「ワタシは元々子供は好きなんだ。
 人間の子供であろうと、動物の子供であろうともなァ。
 リオンは糞アースラを思い出させる存在だから嫌いだが、まあ、最後の願いぐらい聞いてやっても良いさ。
 もう二度と出て来れないんだからなァ」

 ヴァティールがニッと笑う。

「それはおかしいだろう。体の傷さえ癒えれば、リオンはまた復活するはずだ」

「ははッ! 甘いな。
 確かに魔縛を完全に無効化する返し技については、前にこいつの頭を探ってみたが見つからなかった。
 リオンは前より幾分パワーが上がっているし、魂が復活したらこのワタシですら押さえつけるのに苦労するだろう。
 ……でもそんなに難しく考えなくとも、実はもっと簡単な抜け道があるんだよ。
 前回は糞ガキの力量を見誤ってしてやられたが、もうワタシに油断はない。
 この餓鬼、チビのくせに恐ろしく魔的センスがありやがるから一瞬でも返したが最後、また何百年も眠り続ける事になってしまう。
 人間にそこまでしてやる義理は無い」

 魔獣はそう言い切った。

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