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第19章 魔獣ヴァティール
1.魔獣ヴァティール
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魔獣ヴァティール。
弟の姿をしたそいつは今、俺の前で飯を食っていた。
「うまい!!
人間の体なんぞに依らねばならぬのは最悪だが、飯だけは人間の体で食った方が絶対美味いよなァ。
あと、風呂!!
ココの王宮の風呂は中々気に入ったッ!!」
言いながら豪快に食事をかき込む魔獣の下品な姿を、俺は怒りを抑えつけながら見つめていた。
城門に大穴を明けてずかずかと城内に入り込んできたヴァティールは、勝手に風呂に入り、勝手にリオンの服をあさって着込んだ。
今着ているのはリオンが親衛隊員候補生だった頃の、儀式用の軍服だ。
この服は主に撮影時に使っていたため、それなりに装飾が施されていてリオンの持ち服の中で一番上等であるのは間違いない。
しかし弟にはとても似合っていたその服を魔獣が着ると、何ともだらしなくサマにならない。
魔獣にとって弟の服はサイズが大きすぎるのだ。
遠目ではよくわからなかったが、魔獣に主人格を取られた状態で戻ってきたリオンの体は幾分縮んでいた。
ヴァティールはリオンの服をだぶだぶのまま平気で着ていたが、あまりにみっともないので俺がさっき袖とズボンの裾を折ってやった。
それでもまだ妙に違和感があるのは『気品の程』が弟とは格段に違うせいだろう。
まぁ、それもしばらくの間の我慢だ。
今はヴァティールが体を使っているが、リオンには大魔道士アースラから受け継いだ『魔縛術』がある。
多分前のように数日、もしくは数週間以内に戻ってくるだろう。
あのような『粗野な魔獣』に『可愛い弟の体』を使われるのは嫌でたまらないが、目の前で弟が何度も殺され続けるのを見るよりは……遥かにマシだ。
ここはぐっと我慢するしかない。
リオンが戻るまで『粗野な魔獣』がリオンの『可憐で高貴なイメージ』を破壊してしまわないよう、体を張って阻止するのが兄である俺の大切な役目。
現在も魔獣に城内をウロウロされ、城内の者たちに変な目で見られないよう上手く騙して貴賓室に連れてきて、一緒に食事を取っている。
「ふーん。前の時は変化が少なすぎて気付かなかったけど、糞アースラの『不死の術』ってこうなってるのかァ……」
伸びをするように腕を伸ばした魔獣は、誰に言うともなく呟いた。
「ワタシとしてはもう少し大きい体のほうが使いやすいのだが、一度死ぬと『術がかかった当時の状態』にリセットされて、また不自由な子供時代からやり直しか。
赤子に返らないだけマシだが、糞アースラらしい陰険な術だよなァ……
魔的制約がかかってるので直ちに成長させることも出来ないし、案外厄介な体だ」
魔獣は人間のようにグチグチとぼやいた。
まったく、……うっとうしい魔獣だ。
しかし、それでわかったこともある。
何故リオンの体が縮んだのかとても不思議だったが、呪いにより11歳当時の姿に戻ってしまったらしい。
弟は14歳にしては女の子のように可愛らしいままで、背も高い方ではなかった。
縮んだのは推定15セインチ程だ。
うん、まぁ、それはいいかな?
これはこれで素晴らしく可愛いし。
弟が大人になったなら俺から離れていってしまうかもしれないと、ずっと恐れていた。
でも3年分、子供時代に戻ったのなら……その分一緒に過ごせる時が長くなるのではという期待も持てる。
俺はちょっと嬉しくなってニンマリ笑った。
あとは『リオンの心』が、あの可愛らしい体に帰ってくるのを待つだけだ。
魔物の周りでは俺の他にも王、アリシア、ウルフが巻き添えとなって食事を取っていた。
何故かと言うと、ヴァティールが、
「飯は皆で食った方が美味いッ!! そう思うだろぉおおお!!」
と赤い瞳で凄んだからだ。
アリシアはともかく、忙しい王まで巻き添えになっているのはちょっと気の毒ではあるが、魔獣は約300年間地下神殿に閉じ込められていた。
外の世界に興味津々で、王にもアレコレ聞きたいようだ。
しかしリラックスしているのは魔獣だけで、王もアリシアも一口も料理に手をつけていない。
むしゃむしゃ食べているのはヴァティールだけだ。
「……その、ヴァティール殿、わが国の危機を救って下さってありがとうございました」
王が意を決したように、魔獣に声をかけた。
一見普通で平凡そうな外見のアルフレッド王だが、物心ついた頃から何度も暗殺されそうになってきたうえ、一国の再興を成し遂げたぐらいだから肝は据わっている。
また、俺達の素性までは明かしていないが、弟に取り付いた魔獣の事はあれからここにいる皆には話した。
ヴァティールの方にも俺たちの素性にかかわることについては高待遇と引き換えに口止めをしている。
王に礼を言われたヴァティールは、小さな胸を益々反らした。
「いや何、礼には及ばん。別にオマエラのためにやったわけではないからなァ。
ワタシの『美しい器』を壊すなど、非道にも程がある。
それにこの器は子供だぞ?
大人は子供にはやさしくするものだ。
まったく……信じられない悪魔どもだよ……」
ヴァティールはそう言って盛大にため息をついた。
もちろん奴以外の者が一斉に、
「オマエが言うかっ!?」
と視線で語ったが、口に出せる奴はいない。
「そう言えばエル、あれから何がどうなったんだァ?
あのクソ餓鬼、前にワタシに記憶を読まれたのがよほど悔しかったのか、がっちりシールドしたまま死にやがった。
事前に準備してないと『こう』まで入念には出来ない。
元々ワタシに体を獲られる覚悟はあったんだろうなァ。
魔縛が緩んでこの体の『瞳』と『表層意識』を共有出来たのは糞餓鬼が死ぬほんの2、3分前だから、何が何だかさっぱりわからんよ」
ヴァティールは相変わらずガツガツと料理を頬張りながら聞いた。
「……お前、さっぱり事情がわからないのに、アレス軍十数万を焼き殺したのか?
いくらなんでもあれはやりすぎだ!!!
あそこまでしなくても、勝利を上げることはお前の能力ならできたはずだ!!」
そう言うとは奴はきょとんとした。
弟の姿をしたそいつは今、俺の前で飯を食っていた。
「うまい!!
人間の体なんぞに依らねばならぬのは最悪だが、飯だけは人間の体で食った方が絶対美味いよなァ。
あと、風呂!!
ココの王宮の風呂は中々気に入ったッ!!」
言いながら豪快に食事をかき込む魔獣の下品な姿を、俺は怒りを抑えつけながら見つめていた。
城門に大穴を明けてずかずかと城内に入り込んできたヴァティールは、勝手に風呂に入り、勝手にリオンの服をあさって着込んだ。
今着ているのはリオンが親衛隊員候補生だった頃の、儀式用の軍服だ。
この服は主に撮影時に使っていたため、それなりに装飾が施されていてリオンの持ち服の中で一番上等であるのは間違いない。
しかし弟にはとても似合っていたその服を魔獣が着ると、何ともだらしなくサマにならない。
魔獣にとって弟の服はサイズが大きすぎるのだ。
遠目ではよくわからなかったが、魔獣に主人格を取られた状態で戻ってきたリオンの体は幾分縮んでいた。
ヴァティールはリオンの服をだぶだぶのまま平気で着ていたが、あまりにみっともないので俺がさっき袖とズボンの裾を折ってやった。
それでもまだ妙に違和感があるのは『気品の程』が弟とは格段に違うせいだろう。
まぁ、それもしばらくの間の我慢だ。
今はヴァティールが体を使っているが、リオンには大魔道士アースラから受け継いだ『魔縛術』がある。
多分前のように数日、もしくは数週間以内に戻ってくるだろう。
あのような『粗野な魔獣』に『可愛い弟の体』を使われるのは嫌でたまらないが、目の前で弟が何度も殺され続けるのを見るよりは……遥かにマシだ。
ここはぐっと我慢するしかない。
リオンが戻るまで『粗野な魔獣』がリオンの『可憐で高貴なイメージ』を破壊してしまわないよう、体を張って阻止するのが兄である俺の大切な役目。
現在も魔獣に城内をウロウロされ、城内の者たちに変な目で見られないよう上手く騙して貴賓室に連れてきて、一緒に食事を取っている。
「ふーん。前の時は変化が少なすぎて気付かなかったけど、糞アースラの『不死の術』ってこうなってるのかァ……」
伸びをするように腕を伸ばした魔獣は、誰に言うともなく呟いた。
「ワタシとしてはもう少し大きい体のほうが使いやすいのだが、一度死ぬと『術がかかった当時の状態』にリセットされて、また不自由な子供時代からやり直しか。
赤子に返らないだけマシだが、糞アースラらしい陰険な術だよなァ……
魔的制約がかかってるので直ちに成長させることも出来ないし、案外厄介な体だ」
魔獣は人間のようにグチグチとぼやいた。
まったく、……うっとうしい魔獣だ。
しかし、それでわかったこともある。
何故リオンの体が縮んだのかとても不思議だったが、呪いにより11歳当時の姿に戻ってしまったらしい。
弟は14歳にしては女の子のように可愛らしいままで、背も高い方ではなかった。
縮んだのは推定15セインチ程だ。
うん、まぁ、それはいいかな?
これはこれで素晴らしく可愛いし。
弟が大人になったなら俺から離れていってしまうかもしれないと、ずっと恐れていた。
でも3年分、子供時代に戻ったのなら……その分一緒に過ごせる時が長くなるのではという期待も持てる。
俺はちょっと嬉しくなってニンマリ笑った。
あとは『リオンの心』が、あの可愛らしい体に帰ってくるのを待つだけだ。
魔物の周りでは俺の他にも王、アリシア、ウルフが巻き添えとなって食事を取っていた。
何故かと言うと、ヴァティールが、
「飯は皆で食った方が美味いッ!! そう思うだろぉおおお!!」
と赤い瞳で凄んだからだ。
アリシアはともかく、忙しい王まで巻き添えになっているのはちょっと気の毒ではあるが、魔獣は約300年間地下神殿に閉じ込められていた。
外の世界に興味津々で、王にもアレコレ聞きたいようだ。
しかしリラックスしているのは魔獣だけで、王もアリシアも一口も料理に手をつけていない。
むしゃむしゃ食べているのはヴァティールだけだ。
「……その、ヴァティール殿、わが国の危機を救って下さってありがとうございました」
王が意を決したように、魔獣に声をかけた。
一見普通で平凡そうな外見のアルフレッド王だが、物心ついた頃から何度も暗殺されそうになってきたうえ、一国の再興を成し遂げたぐらいだから肝は据わっている。
また、俺達の素性までは明かしていないが、弟に取り付いた魔獣の事はあれからここにいる皆には話した。
ヴァティールの方にも俺たちの素性にかかわることについては高待遇と引き換えに口止めをしている。
王に礼を言われたヴァティールは、小さな胸を益々反らした。
「いや何、礼には及ばん。別にオマエラのためにやったわけではないからなァ。
ワタシの『美しい器』を壊すなど、非道にも程がある。
それにこの器は子供だぞ?
大人は子供にはやさしくするものだ。
まったく……信じられない悪魔どもだよ……」
ヴァティールはそう言って盛大にため息をついた。
もちろん奴以外の者が一斉に、
「オマエが言うかっ!?」
と視線で語ったが、口に出せる奴はいない。
「そう言えばエル、あれから何がどうなったんだァ?
あのクソ餓鬼、前にワタシに記憶を読まれたのがよほど悔しかったのか、がっちりシールドしたまま死にやがった。
事前に準備してないと『こう』まで入念には出来ない。
元々ワタシに体を獲られる覚悟はあったんだろうなァ。
魔縛が緩んでこの体の『瞳』と『表層意識』を共有出来たのは糞餓鬼が死ぬほんの2、3分前だから、何が何だかさっぱりわからんよ」
ヴァティールは相変わらずガツガツと料理を頬張りながら聞いた。
「……お前、さっぱり事情がわからないのに、アレス軍十数万を焼き殺したのか?
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