145 / 437
第19章 魔獣ヴァティール
1.魔獣ヴァティール
しおりを挟む
魔獣ヴァティール。
弟の姿をしたそいつは今、俺の前で飯を食っていた。
「うまい!!
人間の体なんぞに依らねばならぬのは最悪だが、飯だけは人間の体で食った方が絶対美味いよなァ。
あと、風呂!!
ココの王宮の風呂は中々気に入ったッ!!」
言いながら豪快に食事をかき込む魔獣の下品な姿を、俺は怒りを抑えつけながら見つめていた。
城門に大穴を明けてずかずかと城内に入り込んできたヴァティールは、勝手に風呂に入り、勝手にリオンの服をあさって着込んだ。
今着ているのはリオンが親衛隊員候補生だった頃の、儀式用の軍服だ。
この服は主に撮影時に使っていたため、それなりに装飾が施されていてリオンの持ち服の中で一番上等であるのは間違いない。
しかし弟にはとても似合っていたその服を魔獣が着ると、何ともだらしなくサマにならない。
魔獣にとって弟の服はサイズが大きすぎるのだ。
遠目ではよくわからなかったが、魔獣に主人格を取られた状態で戻ってきたリオンの体は幾分縮んでいた。
ヴァティールはリオンの服をだぶだぶのまま平気で着ていたが、あまりにみっともないので俺がさっき袖とズボンの裾を折ってやった。
それでもまだ妙に違和感があるのは『気品の程』が弟とは格段に違うせいだろう。
まぁ、それもしばらくの間の我慢だ。
今はヴァティールが体を使っているが、リオンには大魔道士アースラから受け継いだ『魔縛術』がある。
多分前のように数日、もしくは数週間以内に戻ってくるだろう。
あのような『粗野な魔獣』に『可愛い弟の体』を使われるのは嫌でたまらないが、目の前で弟が何度も殺され続けるのを見るよりは……遥かにマシだ。
ここはぐっと我慢するしかない。
リオンが戻るまで『粗野な魔獣』がリオンの『可憐で高貴なイメージ』を破壊してしまわないよう、体を張って阻止するのが兄である俺の大切な役目。
現在も魔獣に城内をウロウロされ、城内の者たちに変な目で見られないよう上手く騙して貴賓室に連れてきて、一緒に食事を取っている。
「ふーん。前の時は変化が少なすぎて気付かなかったけど、糞アースラの『不死の術』ってこうなってるのかァ……」
伸びをするように腕を伸ばした魔獣は、誰に言うともなく呟いた。
「ワタシとしてはもう少し大きい体のほうが使いやすいのだが、一度死ぬと『術がかかった当時の状態』にリセットされて、また不自由な子供時代からやり直しか。
赤子に返らないだけマシだが、糞アースラらしい陰険な術だよなァ……
魔的制約がかかってるので直ちに成長させることも出来ないし、案外厄介な体だ」
魔獣は人間のようにグチグチとぼやいた。
まったく、……うっとうしい魔獣だ。
しかし、それでわかったこともある。
何故リオンの体が縮んだのかとても不思議だったが、呪いにより11歳当時の姿に戻ってしまったらしい。
弟は14歳にしては女の子のように可愛らしいままで、背も高い方ではなかった。
縮んだのは推定15セインチ程だ。
うん、まぁ、それはいいかな?
これはこれで素晴らしく可愛いし。
弟が大人になったなら俺から離れていってしまうかもしれないと、ずっと恐れていた。
でも3年分、子供時代に戻ったのなら……その分一緒に過ごせる時が長くなるのではという期待も持てる。
俺はちょっと嬉しくなってニンマリ笑った。
あとは『リオンの心』が、あの可愛らしい体に帰ってくるのを待つだけだ。
魔物の周りでは俺の他にも王、アリシア、ウルフが巻き添えとなって食事を取っていた。
何故かと言うと、ヴァティールが、
「飯は皆で食った方が美味いッ!! そう思うだろぉおおお!!」
と赤い瞳で凄んだからだ。
アリシアはともかく、忙しい王まで巻き添えになっているのはちょっと気の毒ではあるが、魔獣は約300年間地下神殿に閉じ込められていた。
外の世界に興味津々で、王にもアレコレ聞きたいようだ。
しかしリラックスしているのは魔獣だけで、王もアリシアも一口も料理に手をつけていない。
むしゃむしゃ食べているのはヴァティールだけだ。
「……その、ヴァティール殿、わが国の危機を救って下さってありがとうございました」
王が意を決したように、魔獣に声をかけた。
一見普通で平凡そうな外見のアルフレッド王だが、物心ついた頃から何度も暗殺されそうになってきたうえ、一国の再興を成し遂げたぐらいだから肝は据わっている。
また、俺達の素性までは明かしていないが、弟に取り付いた魔獣の事はあれからここにいる皆には話した。
ヴァティールの方にも俺たちの素性にかかわることについては高待遇と引き換えに口止めをしている。
王に礼を言われたヴァティールは、小さな胸を益々反らした。
「いや何、礼には及ばん。別にオマエラのためにやったわけではないからなァ。
ワタシの『美しい器』を壊すなど、非道にも程がある。
それにこの器は子供だぞ?
大人は子供にはやさしくするものだ。
まったく……信じられない悪魔どもだよ……」
ヴァティールはそう言って盛大にため息をついた。
もちろん奴以外の者が一斉に、
「オマエが言うかっ!?」
と視線で語ったが、口に出せる奴はいない。
「そう言えばエル、あれから何がどうなったんだァ?
あのクソ餓鬼、前にワタシに記憶を読まれたのがよほど悔しかったのか、がっちりシールドしたまま死にやがった。
事前に準備してないと『こう』まで入念には出来ない。
元々ワタシに体を獲られる覚悟はあったんだろうなァ。
魔縛が緩んでこの体の『瞳』と『表層意識』を共有出来たのは糞餓鬼が死ぬほんの2、3分前だから、何が何だかさっぱりわからんよ」
ヴァティールは相変わらずガツガツと料理を頬張りながら聞いた。
「……お前、さっぱり事情がわからないのに、アレス軍十数万を焼き殺したのか?
いくらなんでもあれはやりすぎだ!!!
あそこまでしなくても、勝利を上げることはお前の能力ならできたはずだ!!」
そう言うとは奴はきょとんとした。
弟の姿をしたそいつは今、俺の前で飯を食っていた。
「うまい!!
人間の体なんぞに依らねばならぬのは最悪だが、飯だけは人間の体で食った方が絶対美味いよなァ。
あと、風呂!!
ココの王宮の風呂は中々気に入ったッ!!」
言いながら豪快に食事をかき込む魔獣の下品な姿を、俺は怒りを抑えつけながら見つめていた。
城門に大穴を明けてずかずかと城内に入り込んできたヴァティールは、勝手に風呂に入り、勝手にリオンの服をあさって着込んだ。
今着ているのはリオンが親衛隊員候補生だった頃の、儀式用の軍服だ。
この服は主に撮影時に使っていたため、それなりに装飾が施されていてリオンの持ち服の中で一番上等であるのは間違いない。
しかし弟にはとても似合っていたその服を魔獣が着ると、何ともだらしなくサマにならない。
魔獣にとって弟の服はサイズが大きすぎるのだ。
遠目ではよくわからなかったが、魔獣に主人格を取られた状態で戻ってきたリオンの体は幾分縮んでいた。
ヴァティールはリオンの服をだぶだぶのまま平気で着ていたが、あまりにみっともないので俺がさっき袖とズボンの裾を折ってやった。
それでもまだ妙に違和感があるのは『気品の程』が弟とは格段に違うせいだろう。
まぁ、それもしばらくの間の我慢だ。
今はヴァティールが体を使っているが、リオンには大魔道士アースラから受け継いだ『魔縛術』がある。
多分前のように数日、もしくは数週間以内に戻ってくるだろう。
あのような『粗野な魔獣』に『可愛い弟の体』を使われるのは嫌でたまらないが、目の前で弟が何度も殺され続けるのを見るよりは……遥かにマシだ。
ここはぐっと我慢するしかない。
リオンが戻るまで『粗野な魔獣』がリオンの『可憐で高貴なイメージ』を破壊してしまわないよう、体を張って阻止するのが兄である俺の大切な役目。
現在も魔獣に城内をウロウロされ、城内の者たちに変な目で見られないよう上手く騙して貴賓室に連れてきて、一緒に食事を取っている。
「ふーん。前の時は変化が少なすぎて気付かなかったけど、糞アースラの『不死の術』ってこうなってるのかァ……」
伸びをするように腕を伸ばした魔獣は、誰に言うともなく呟いた。
「ワタシとしてはもう少し大きい体のほうが使いやすいのだが、一度死ぬと『術がかかった当時の状態』にリセットされて、また不自由な子供時代からやり直しか。
赤子に返らないだけマシだが、糞アースラらしい陰険な術だよなァ……
魔的制約がかかってるので直ちに成長させることも出来ないし、案外厄介な体だ」
魔獣は人間のようにグチグチとぼやいた。
まったく、……うっとうしい魔獣だ。
しかし、それでわかったこともある。
何故リオンの体が縮んだのかとても不思議だったが、呪いにより11歳当時の姿に戻ってしまったらしい。
弟は14歳にしては女の子のように可愛らしいままで、背も高い方ではなかった。
縮んだのは推定15セインチ程だ。
うん、まぁ、それはいいかな?
これはこれで素晴らしく可愛いし。
弟が大人になったなら俺から離れていってしまうかもしれないと、ずっと恐れていた。
でも3年分、子供時代に戻ったのなら……その分一緒に過ごせる時が長くなるのではという期待も持てる。
俺はちょっと嬉しくなってニンマリ笑った。
あとは『リオンの心』が、あの可愛らしい体に帰ってくるのを待つだけだ。
魔物の周りでは俺の他にも王、アリシア、ウルフが巻き添えとなって食事を取っていた。
何故かと言うと、ヴァティールが、
「飯は皆で食った方が美味いッ!! そう思うだろぉおおお!!」
と赤い瞳で凄んだからだ。
アリシアはともかく、忙しい王まで巻き添えになっているのはちょっと気の毒ではあるが、魔獣は約300年間地下神殿に閉じ込められていた。
外の世界に興味津々で、王にもアレコレ聞きたいようだ。
しかしリラックスしているのは魔獣だけで、王もアリシアも一口も料理に手をつけていない。
むしゃむしゃ食べているのはヴァティールだけだ。
「……その、ヴァティール殿、わが国の危機を救って下さってありがとうございました」
王が意を決したように、魔獣に声をかけた。
一見普通で平凡そうな外見のアルフレッド王だが、物心ついた頃から何度も暗殺されそうになってきたうえ、一国の再興を成し遂げたぐらいだから肝は据わっている。
また、俺達の素性までは明かしていないが、弟に取り付いた魔獣の事はあれからここにいる皆には話した。
ヴァティールの方にも俺たちの素性にかかわることについては高待遇と引き換えに口止めをしている。
王に礼を言われたヴァティールは、小さな胸を益々反らした。
「いや何、礼には及ばん。別にオマエラのためにやったわけではないからなァ。
ワタシの『美しい器』を壊すなど、非道にも程がある。
それにこの器は子供だぞ?
大人は子供にはやさしくするものだ。
まったく……信じられない悪魔どもだよ……」
ヴァティールはそう言って盛大にため息をついた。
もちろん奴以外の者が一斉に、
「オマエが言うかっ!?」
と視線で語ったが、口に出せる奴はいない。
「そう言えばエル、あれから何がどうなったんだァ?
あのクソ餓鬼、前にワタシに記憶を読まれたのがよほど悔しかったのか、がっちりシールドしたまま死にやがった。
事前に準備してないと『こう』まで入念には出来ない。
元々ワタシに体を獲られる覚悟はあったんだろうなァ。
魔縛が緩んでこの体の『瞳』と『表層意識』を共有出来たのは糞餓鬼が死ぬほんの2、3分前だから、何が何だかさっぱりわからんよ」
ヴァティールは相変わらずガツガツと料理を頬張りながら聞いた。
「……お前、さっぱり事情がわからないのに、アレス軍十数万を焼き殺したのか?
いくらなんでもあれはやりすぎだ!!!
あそこまでしなくても、勝利を上げることはお前の能力ならできたはずだ!!」
そう言うとは奴はきょとんとした。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

兄弟がイケメンな件について。
どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。
「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。
イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる