滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第18章 戦火

3.戦火

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 俺たち親衛隊は王を城に残し、最初から最前線で戦った。
 今度はリオンも異を唱えない。
 世の中の仕組みに疎いリオンにもハッキリわかるほどの危機が、我が国に迫っていた。

 普通に戦っても勝つことは難しいので奇策を用いるしかない。
 民衆と協力しながら街道に罠を仕掛け、地道に敵兵の数を減らしていく。

 それらはそもそも親衛隊の仕事ではないが『温存するべき兵力』など我が国には無い。
 最初から総力を上げて戦っても、全く足りないぐらいだ。
 敵が用意したのは奴隷兵などではなく……士気の高い自国の兵士のみだったのだから。

 ただ、夜目がきき、半径10キロルの音を聞き取れるリオンの存在は敵兵にとっては大変な驚異だった。

 アレス帝国は数を頼みに堂々と旗をなびかせ進軍してきたが、リオンは夜毎単身忍び込み、敵の兵糧を焼き払った。

 闇色の装束に再び身を包み、魔力も使って忍び寄る弟に対抗できるような人間は、アレス帝国側にはいない。
 たちまち兵糧を焼かれ、ついでにリオンは力の限り火炎術で敵兵の数も減らしていった。

 そうして力を使いすぎてグッタリする弟を近くで待機していた俺が抱え、馬を飛ばして安全な場所まで逃げ切る。
 土地感のない敵は闇の中、深追いすることは不可能だった。

 弟の身が心配でたまらなかったが、俺たちが生き残るための道は糸のように細い。
 『選ぶ』などという贅沢は、もはや許されない。

 でもそんな戦い方が通用したのも、最初の10日ばかりだった。
 アレス軍は多方面から一斉に侵攻してきた。

 当然、リオン一人の力では凌ぎきれない。
 いくらブルボアが小国といえど、一人でカバーできるほど狭いわけではないのだから。

 そうするうちに、消耗戦となっていった。
 敵兵の進行路と予想される場所にはそれなりの罠を仕掛けたし兵も置いたが、数で圧倒するアレス帝国がそれを突破するのに手間取るのはわずか数日。

 間に合えばリオンが駆けつけて兵糧を焼き払うが、間に合わねばそのまま市街に入られる。

 他の部隊も当然出て市民を守ったが、全てアレス帝国の大軍勢の前にアリのように踏み潰されていった。

 我が国に送られてきたのは何故か、士気の高い『生粋のアレス正規兵』のみ。
 おそらくエルシオンに駐在していたほとんどの兵を、こちらに寄越したのではないだろうか?

 いや、元々駐在していた兵がこんなに多いわけがない。
 宣戦布告前にはすでに相当数の正規兵が、エルシオン地区に集められていたと見るべきだ。

 兵士の数はこちらが想定していたそれの約6倍。
 最終的には十万を軽く超えていた。
 ブルボアのような小国を攻めるには、ありえないほどの大軍団だ。

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