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第18章 戦火

2.戦火

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 それでも戦いの火蓋は切られ、もはや俺たちに残されたのは自国の力だけで戦う『死出への道』だけだった。

 やはりリオンを連れて、逃げれば良かったのだろうか?
 そんな考えがチラリとかすめるが、もう遅い。

 国民を脱出させつつ、王や俺たちも他国に落ち延びるという手も検討されたが、それすらも今となっては不可能だ。

 盟約を破り捨てた国々は全て近隣国。
 その国々を通り抜けねば、落ち延びることは出来ない。

 しかしアレス帝国に目をつけられたくない諸王たちは、俺たちを見逃すことなど決してない。
 もし領内を黙って通過させたら『ブルボア王国に加担の意思有り』とアレス王にみなされ、滅ぼされるからだ。

 他国領土内で我が国の民が見つかれば当然捕らえられ、アレス帝国の機嫌を取るための供物として差し出されるだろう。

 他国を密かに抜けるのは、国民連れではあまりにも厳しい。
 かと言って国民を残して王や重臣だけで脱出すれば、国民は全て『敗者』としてアレス帝国の奴隷に堕とされる。
 厳しい選択を迫られた。

「私は残って戦うことにするよ」

 王が顔を上げていった。

「まあ、勝機はほとんどないがね。
 何一つ試しもせずに、王としての責務を放棄して脱出はできない」

 重苦しい空気が場を支配したが、その言葉に重臣たちも次々に頷いた。
 元々俺たちが来るずっと前から王に従っていた彼らだ。
 忠誠心は厚い。

 それに、どの道を選んでも助かる確率は極端に低い。

 王の親族が嫁いだ国でさえ盟約を一方的に破棄してきたのだ。
 自分の国が助かるためなら、他国の王たちはどんな事でもやるだろう。

 皆、そのことはよくわかっている。

 すぐに対策が検討された。
 これと言った良案はもちろん出なかったが、それでも方針はすぐに決まった。

 自国内でアレス軍を迎え撃つ。
 その一択しか俺たちには残されていなかった。
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