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第18章 戦火
1.戦火
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大国アレスに勝てるとしたら、奇襲しかあるまい。
本当は戦わせたくなどなかったが、こちらには魔道を使えるリオンがいる。
俺も、リオンほどではないにしても、それなりに腕に覚えはある。
親衛隊や一般兵たちは、組織間抗争でかなり腕を上げた。
それでも『勝つ』などということを考えてはダメだ。
王や幕僚たちの意見も同じだった。
アレス帝国は憎き国。
しかしブルボアごとき小国の力では到底歯が立たない。
何か出来るとしても、侵略を諦めさせるだけで精一杯だ。
それすらも内情を考えれば至難の技だが、俺たちが生き残る道はそれしかない。
まず王は、同盟国に支援を求めた。
どこもウチと規模の似た小国ばかりだが、団結すればそれなりの策がとれる。
早馬に乗った使者が、王の書簡を持って次々と駆けていった。
また、ブルボア王国から一番近い直轄領はかつての故国『エルシオン』なので、そこから奴隷兵士が送られてくるだろうと王や幕僚たちは予想を立てた。
奴隷……かつての我が国の民たちの今の呼称に体が冷えていく。
皆幸せに暮らしていたのに、俺が皆をこんな立場に追い込んだ。
王が予想した初手の奴隷兵士の数は、おそらく2~3万人。
うちのような小国を攻めるなら、今までの戦を見てもそのあたりが相場だろう。
しかし、奴隷兵士の士気は『アレス正規兵』に比べれば格段に低い。
自分の国を滅ぼしたアレス帝国に本心から忠誠を誓う者など、極々一握りにすぎないからだ。
そうだ。これは、エルシオンの民を助け出す絶好のチャンスだ。
ブルボア王国での『自由民としての権利』を保障し、奴隷兵士をこちら側へ取り込む。作戦はこう、まとまりかけている。
王はこういった交渉ごとは得意中の得意。成功する確率は高いだろう。
交渉が上手くいけば、奴隷とされていた民を救うと同時に、反撃の力とすることが出来る。それは厳しい状況に差し込んだ一筋の希望だった。
あとは地の利とリオンの耳を活かし、相手の兵糧を抑える。
補給線を絶てば、いかに大国といえど長期の侵攻は難しい。
空を見て翌日の天候を当てることの出来るアリシアの能力だって、うまく活用すれば様々な罠を仕掛けるときの助けとなるだろう。
どんな目をしているのか、彼女は一度として予報を外したことは無い。
徹夜に近い会議が開かれ、今後の方針が細かく示された。
しかし結果として、王や俺たちが立てた策は何の役にも立たなかった。
一筋の勝機が見えかけた瞬間、それは無残に打ち砕かれた。
まず同盟国が次々と盟約破棄を通達してきた。
これでは、援軍要請をすることすらままならない。
本来なら盟約は一方的に破棄できる性質のものではなく、今回の行いは明らかに暴挙と言える。
血が逆流するほど悔しいが、王は静かに言った。
「同盟が守られるのは『その国に価値があるから』だ。
今の我が国に『同盟に値する価値』はない。
すまない。私の不徳の致すところだ。考えが甘かった」
王が俺たちに頭を下げた。しかし王の徳などは関係ない。
他国はアレス帝国に逆らえなかった。
その『事実』があるのみだ。
俺とリオンの故国である『エルシオン』は、かつてアレス帝国よりも繁栄し、広大な領地を有していた。
諸外国もエルシオン王国の末永い存続を信じ、重んじてくれていた。
……にもかかわらず、我が故国はアレス帝国の前にあっけなく敗れた。
その記憶は、諸国にとってもまだ新しい。
だからなりふりかまわぬ醜態を晒してでも、アレス帝国を敵に回す事だけは避けたいのだろう。
俺たちの考えは、甘すぎたのだ。
本当は戦わせたくなどなかったが、こちらには魔道を使えるリオンがいる。
俺も、リオンほどではないにしても、それなりに腕に覚えはある。
親衛隊や一般兵たちは、組織間抗争でかなり腕を上げた。
それでも『勝つ』などということを考えてはダメだ。
王や幕僚たちの意見も同じだった。
アレス帝国は憎き国。
しかしブルボアごとき小国の力では到底歯が立たない。
何か出来るとしても、侵略を諦めさせるだけで精一杯だ。
それすらも内情を考えれば至難の技だが、俺たちが生き残る道はそれしかない。
まず王は、同盟国に支援を求めた。
どこもウチと規模の似た小国ばかりだが、団結すればそれなりの策がとれる。
早馬に乗った使者が、王の書簡を持って次々と駆けていった。
また、ブルボア王国から一番近い直轄領はかつての故国『エルシオン』なので、そこから奴隷兵士が送られてくるだろうと王や幕僚たちは予想を立てた。
奴隷……かつての我が国の民たちの今の呼称に体が冷えていく。
皆幸せに暮らしていたのに、俺が皆をこんな立場に追い込んだ。
王が予想した初手の奴隷兵士の数は、おそらく2~3万人。
うちのような小国を攻めるなら、今までの戦を見てもそのあたりが相場だろう。
しかし、奴隷兵士の士気は『アレス正規兵』に比べれば格段に低い。
自分の国を滅ぼしたアレス帝国に本心から忠誠を誓う者など、極々一握りにすぎないからだ。
そうだ。これは、エルシオンの民を助け出す絶好のチャンスだ。
ブルボア王国での『自由民としての権利』を保障し、奴隷兵士をこちら側へ取り込む。作戦はこう、まとまりかけている。
王はこういった交渉ごとは得意中の得意。成功する確率は高いだろう。
交渉が上手くいけば、奴隷とされていた民を救うと同時に、反撃の力とすることが出来る。それは厳しい状況に差し込んだ一筋の希望だった。
あとは地の利とリオンの耳を活かし、相手の兵糧を抑える。
補給線を絶てば、いかに大国といえど長期の侵攻は難しい。
空を見て翌日の天候を当てることの出来るアリシアの能力だって、うまく活用すれば様々な罠を仕掛けるときの助けとなるだろう。
どんな目をしているのか、彼女は一度として予報を外したことは無い。
徹夜に近い会議が開かれ、今後の方針が細かく示された。
しかし結果として、王や俺たちが立てた策は何の役にも立たなかった。
一筋の勝機が見えかけた瞬間、それは無残に打ち砕かれた。
まず同盟国が次々と盟約破棄を通達してきた。
これでは、援軍要請をすることすらままならない。
本来なら盟約は一方的に破棄できる性質のものではなく、今回の行いは明らかに暴挙と言える。
血が逆流するほど悔しいが、王は静かに言った。
「同盟が守られるのは『その国に価値があるから』だ。
今の我が国に『同盟に値する価値』はない。
すまない。私の不徳の致すところだ。考えが甘かった」
王が俺たちに頭を下げた。しかし王の徳などは関係ない。
他国はアレス帝国に逆らえなかった。
その『事実』があるのみだ。
俺とリオンの故国である『エルシオン』は、かつてアレス帝国よりも繁栄し、広大な領地を有していた。
諸外国もエルシオン王国の末永い存続を信じ、重んじてくれていた。
……にもかかわらず、我が故国はアレス帝国の前にあっけなく敗れた。
その記憶は、諸国にとってもまだ新しい。
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俺たちの考えは、甘すぎたのだ。
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