滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
134 / 437
第17章 約束

4.約束

しおりを挟む
 あの時俺は返事を返さなかったし、リオンを地下神殿に閉じ込める気なんて今も無い。

 俺にとっては済んだ出来事だった。

「前にもお話しましたが、僕にかけられた封印は、誕生日ごとに1つずつ外れます。そのため僕は正式な修行をせずに『力』だけを得てしまいました。
 それでも、これから地下神殿にこもって修行をすれば、いずれはクロスⅦのようにうまく力をコントロール出来るようになることでしょう。
 この国全土に『善の結界』を敷くことだって出来るはず。
 僕は兄様が住まうこの国を守りたいのです。小さくてもかまいません。どうか僕に地下神殿をお与え下さい」

 リオンがぺこりと頭を下げる。

 この弟はどこまで純粋で生真面目なのだろう。
 暗殺隊を率いる辛い日々からやっと開放されたというのに、更なる重荷を自ら背負おうとするなんて。

 身の内にヴァティールを封じているなら少しぐらいあの不真面目さが感染っていてもよさそうなものだが、性格は全く逆のままである。

 確かにリオンを再び地下に閉じ込め祈らせれば、この国は今より平和になる。
 故国エルシオンの再興という形ではないにしろ、アースラの亡霊が万一気に入れば、『呪い』が解ける可能性だってある。

 でも、俺はそれを選ばない。選びたくはない。

「兄さん……僕が神殿に篭っても毎日会いに来てくださいね。
 神官にとって私欲は悪ですが『弟』としてそれだけは望ませてください。
 お願い致します」

 真剣に俺の瞳をのぞき込むリオンに首を振った。

「地下神殿なんて造らない。
 お前は俺とこのままこの部屋で暮らすし、ずっと一緒に居てくれるって言ってたろ?」

「……僕だってそうしたいけど……」

 そう言ってリオンは俯いた。

「僕のせいで……兄さんまで皆に悪く言われるから……」

 魔物の兄。死神の兄。

 王やアリシアは俺たち兄弟に対して態度を変えることはなかったが、確かに影でそう囁く奴は大勢いる。

 でもそんなのはただの雑音だ。
 ロクに役にもたってないくせに『陰口』だけは一人前の恥ずかしい奴らなど、放っておけば良いのだ。

 ちまたでは弟は『死神』だなんて言われているが、こんなに優しくて愛らしいリオンのどこが『死神』なのだ。
 お前らの目は節穴か!! と、むしろ問い詰めたい気分でいっぱいだ。

 恥知らずにも小さな子供に戦闘を任せ、守って貰っておきながら、『魔物』だの『死神』だの、陰口ばかり。
 ホトホト呆れる。

 誰のおかげで無事暮らせているのか、考える脳すら無いのだろうか?
 愚民……なんて言葉は王族であった俺が軽々しく使って良いものではないが、どうしてもその二文字が頭に浮かぶ。

 でもまあ俺の仕事も、そのうち落ち着く。

 リオンには、それまで一人では部屋の外に出ないように言っておいた。
 あんな奴らに弟が冷たい目で見られるなんて我慢できないし、部屋で大人しく俺の帰りを待っていてくれる方が安心だ。

「ごめんなさい兄さん。僕が魔力を使って戦ったばかりに兄さんまで……」

 暗殺隊にいた頃よりずいぶん落ち着いたように見えた弟だったが、そうではなかった。
 耳の良いリオンは自分の陰口だけでなく、俺の悪口まで聞き取ってしまい深く傷ついていたようだ。

「そんなの気にするな! 誰が何と言っても俺はお前が一番大切だから!」

 いつものように抱きしめて、リオンが元気になるように言い続けた『お守りのようなセリフ』を今日も言う。

 しかし、リオンはそれ以来沈み込むようになった。
 そして王に許可を得て、使われていない地下の王族廟の一つを神殿に見立てて篭る事が多くなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...