滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
119 / 437
第15章 幸せの行方

4.幸せの行方

しおりを挟む
 次の日の深夜、俺は響きわたる爆音で目を覚ました。

 手の指は紅茶カップに引っ掛けたままだ。
 どうやらリオンと部屋でお茶を飲んでいて、何故かそのまま眠ってしまったらしい。

 ……まずい!!
 王との約束の時間はとっくに過ぎている。
 それにさっきの爆音はいったい……。

 もしや先手をとって他の組織が奇襲をしかけてきたのだろうか?
 爆音に続いて何かが焦げる、嫌な臭いがこのあたりにまで漂ってきた。

「エル、大変!! すぐアルフレッド王の部屋に来て!!」

 血相を変えて飛び込んできたのはアリシアだった。
 俺は慌てて階段を駆け上がった。

 黒煙が王の部屋から漂い出ていた。
 中に入ると火はもう鎮火されていたが、アルフレッド王が呆然と目の前に空けられた巨大な穴を見ていた。

 その穴はどう見ても爆発物で吹っ飛ばされてできたもので、夜空がぽっかりと見えている。
 穴の下方の床には、同じ暗殺隊に選ばれた男たちが血を流して倒れていた。

 間もなく救護隊が駆け込んできて、倒れた男たちを担架に乗せて運んでいった。
 一応全員息はあるようだ。
 城には治癒師がいるから、きっと助かるだろう。

「アルフレッド王、いったい何が……!!」

 尋ねる俺に王は答えず、人払いをした。

「……アレは、いったい何なのだ……」

 信じがたいモノを見たらしく、王はまだ呆然としている。

 アレとはいったい何のことだろう。

 アルフレッド王は何を見たというのだろう。

「お前の弟は……リオンはいったい何なのだ……?」

 呻くように出た言葉はそれだった。

 空けられた大穴から一陣の風が舞い込み肌を刺す。
 王の居室の壁に大穴を開け、暗殺隊を一瞬で倒したのはリオンのようだった。

 確認はまだとっていないが、そうとしか考えられない。

 この国にはリオンの他にも戦闘系魔道士は多少いる。
 俺たちが開催していた闘技の挑戦者にもわずかだがいた。

 しかしその力はリオンの足元にも届かない、極々弱いものだった。
 だから俺もそこまで危険な存在だとは思わなかった。

 実際ここ、ラフレイムでは魔道士は特に忌まれる対象となっているわけではない。
 王が間者として使っている者のうちいく人かは、戦闘魔道士だという話も聞いたことがある。

 しかしリオンの魔力と技量はラフレイム内でさえ明らかに異質だ。
 バレれば多分、忌まれる対象となる。

 リオンが戦う姿を初めて見た時、俺はリオンに向かって酷いことを口にした。
 あまりにも人間離れしたその戦いぶりに、恐怖を抱いたのだ。

 実の兄でさえあの時はそう思ったのだから、赤の他人ならなおさらそう思うだろう。
 だだしリオンは化け物なんかじゃない。

 むしろ純粋で優しくて、自分のことより俺のことばかり考える、綺麗な心の持ち主だ。
 そんな優しいリオンに幸せになって欲しかった。

 人並みの幸福をあげたかった。

 だから俺はリオンに魔力も魔剣も使うことを禁じた。
 アリシアにもウルフにも堅く口止めをした。

 知られれば、王はリオンを排除しようとしたかもしれない。
 強すぎる魔力は偏見と恐怖を呼ぶ。

 排除されなくとも、王やその周りはリオンの強大な魔力を利用しようとしたかもしれない。

 もう弟に血なまぐさいことをして欲しくなかった。
 ただ普通の子供として、幸せに笑っていて欲しかった。

 それなのに何故こんな事を?
 俺にはわからない。

「……リオンは……君が暗殺隊の隊長になることを知っていた。
 エル、君が喋ったのかい?」

 王の問いに頭を振って答える。

 でも、王の一言でリオンの行動理由がわかった。

 ……俺は忘れていた。

 リオンは魔獣の力を使って、半径10キロルメルトル以内の音なら、どんな小さな音でも拾うことが出来るということを。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...