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第15章 幸せの行方
2.幸せの行方
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王の表情を見ればその内容も察しがつくというものだ。
闘技場まで閉めると言うのだから、事態はかなり深刻と思って間違いない。
「出来れば組織同士の全面対決は避けたい。
全面対決だと双方による殺戮戦になる。相当の犠牲が出るし、勝算も薄い。
そこで……」
王は一旦言葉を区切り、俺の目を見つめた。
「私は暗殺隊を組織し、まずは『ヴァーユ』頭目の首を取ろうと思っている。
卑怯とそしられようと、かまうものか。
彼は明日視察のために『ガルーダ』勢力圏の近くの街まで来る。
チャンスはその時しかない。
あそこの頭目には息子が3人いるが、どれも父親と違ってボンクラだ。
頭目の死で混乱しているうちに『ヴァーユ』主要施設をいくつか落とせば停戦の交渉に応じるはず。
そうすれば『ロト』も大きくは動けない」
王から説明された現状は、想像以上に深刻なものだった。
そして、その事態を打開するなら、王のおっしゃる方法が一番良いのだろう。
『ガルーダ』だけでは、他の2大組織を相手にするにはあまりにも分が悪い。
ただ、俺はその後に続く『王の言葉』が予想できてしまった。
「君は年若いが、我が組織の中で1番腕が立つ。
申し訳ないが暗殺隊『ドゥルガー』の隊長を務めてくれなか?」
やっぱりな。
俺はため息を一つついた。
ここ2年以上、俺もリオンも血なまぐさいこととは無縁だった。
闘士として戦う日々は一見ハードであったが、自分がケガをすることも、挑戦者たちを傷つけることもほぼない。
リオンは俺がよく言い含めておいたので、魔道士であるということは隠している。
誰かにケガをさせる事もなく、今は可愛い売り子さんとして毎日一生懸命働いている。
忙しくはあったけど、俺たちがエルシオンを出てから一番楽しく充実していた日々だったのではあるまいか。
「…………わかりました。お引き受けします」
俺は言葉少なに了承の意を告げた。
本当は気が重かった。断りたかった。
いくら敵とはいえ、国を出た頃のように人を傷つけ命までも奪うのは、荒んでいた頃の俺に戻ってしまうようで苦しかった。
それでも引き受けたのは、リオンのため。
俺たちには『安心して過ごせる場所』が必要なのだ。
この国に来るまでの過酷な体験により、弟は俺以外には心を開かなくなってしまった。
親切にしてもらったあと手酷く裏切られる悲しみと苦しみは、元々師のクロスⅦに「外の世界は恐ろしい」と吹き込まれて育ってきたリオンの心を閉ざさせるのに、十分だった。
そうは言っても、アルフレッド王もアリシアもリオンにはわりと優しい。
売り子をやっている時はともかく、私生活では他人に声をかけられてもニコリともしないリオンだが、今年の誕生日にはたくさんのプレゼントを貰っていた。
俺はアルフレッド王やアリシアたちの心遣いが嬉しくてたまらなかった。
でももし……以前のように旅を続け、騙され続けたらリオンは壊れてしまうかもしれない。
あの子は俺と違ってまだまだ幼い。ほんの少しのことで壊れてしまう可能性がある。
血に濡れた手を広げ、笑っていたあの時の姿がチラリと脳裏に浮かんだ。
俺にしか懐かないリオンは本当に可愛くて癒されたが、それでも優先すべきはリオンを大切に思ってくれる人を増やすこと。
そのためには長く受け入れてもらえる優しい居場所が必要だ。
なら、その居場所を守るために俺が戦うのは当然だ。
「……ただし、リオンにはこの事を伏せておいてください。絶対心配しますから」
王は俺の言葉に頷いた。
「元々そのつもりだ。では詳細を説明する。
まず隊員は君を含めて10名。
どの男も元殺し屋か、腕利きの賞金稼ぎばかりだ。
明日もう1度同じ時間にこの部屋に集合してくれ。決行は深夜だ」
渡された計画書に目を通す。
馬車の手配や手引きする間者も揃っており、撤退するときのルートもこれならばと納得できるものだった。
危険は伴うが、やれないことはないだろう。
闘技場まで閉めると言うのだから、事態はかなり深刻と思って間違いない。
「出来れば組織同士の全面対決は避けたい。
全面対決だと双方による殺戮戦になる。相当の犠牲が出るし、勝算も薄い。
そこで……」
王は一旦言葉を区切り、俺の目を見つめた。
「私は暗殺隊を組織し、まずは『ヴァーユ』頭目の首を取ろうと思っている。
卑怯とそしられようと、かまうものか。
彼は明日視察のために『ガルーダ』勢力圏の近くの街まで来る。
チャンスはその時しかない。
あそこの頭目には息子が3人いるが、どれも父親と違ってボンクラだ。
頭目の死で混乱しているうちに『ヴァーユ』主要施設をいくつか落とせば停戦の交渉に応じるはず。
そうすれば『ロト』も大きくは動けない」
王から説明された現状は、想像以上に深刻なものだった。
そして、その事態を打開するなら、王のおっしゃる方法が一番良いのだろう。
『ガルーダ』だけでは、他の2大組織を相手にするにはあまりにも分が悪い。
ただ、俺はその後に続く『王の言葉』が予想できてしまった。
「君は年若いが、我が組織の中で1番腕が立つ。
申し訳ないが暗殺隊『ドゥルガー』の隊長を務めてくれなか?」
やっぱりな。
俺はため息を一つついた。
ここ2年以上、俺もリオンも血なまぐさいこととは無縁だった。
闘士として戦う日々は一見ハードであったが、自分がケガをすることも、挑戦者たちを傷つけることもほぼない。
リオンは俺がよく言い含めておいたので、魔道士であるということは隠している。
誰かにケガをさせる事もなく、今は可愛い売り子さんとして毎日一生懸命働いている。
忙しくはあったけど、俺たちがエルシオンを出てから一番楽しく充実していた日々だったのではあるまいか。
「…………わかりました。お引き受けします」
俺は言葉少なに了承の意を告げた。
本当は気が重かった。断りたかった。
いくら敵とはいえ、国を出た頃のように人を傷つけ命までも奪うのは、荒んでいた頃の俺に戻ってしまうようで苦しかった。
それでも引き受けたのは、リオンのため。
俺たちには『安心して過ごせる場所』が必要なのだ。
この国に来るまでの過酷な体験により、弟は俺以外には心を開かなくなってしまった。
親切にしてもらったあと手酷く裏切られる悲しみと苦しみは、元々師のクロスⅦに「外の世界は恐ろしい」と吹き込まれて育ってきたリオンの心を閉ざさせるのに、十分だった。
そうは言っても、アルフレッド王もアリシアもリオンにはわりと優しい。
売り子をやっている時はともかく、私生活では他人に声をかけられてもニコリともしないリオンだが、今年の誕生日にはたくさんのプレゼントを貰っていた。
俺はアルフレッド王やアリシアたちの心遣いが嬉しくてたまらなかった。
でももし……以前のように旅を続け、騙され続けたらリオンは壊れてしまうかもしれない。
あの子は俺と違ってまだまだ幼い。ほんの少しのことで壊れてしまう可能性がある。
血に濡れた手を広げ、笑っていたあの時の姿がチラリと脳裏に浮かんだ。
俺にしか懐かないリオンは本当に可愛くて癒されたが、それでも優先すべきはリオンを大切に思ってくれる人を増やすこと。
そのためには長く受け入れてもらえる優しい居場所が必要だ。
なら、その居場所を守るために俺が戦うのは当然だ。
「……ただし、リオンにはこの事を伏せておいてください。絶対心配しますから」
王は俺の言葉に頷いた。
「元々そのつもりだ。では詳細を説明する。
まず隊員は君を含めて10名。
どの男も元殺し屋か、腕利きの賞金稼ぎばかりだ。
明日もう1度同じ時間にこの部屋に集合してくれ。決行は深夜だ」
渡された計画書に目を通す。
馬車の手配や手引きする間者も揃っており、撤退するときのルートもこれならばと納得できるものだった。
危険は伴うが、やれないことはないだろう。
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