滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
116 / 437
第15章 幸せの行方

1.幸せの行方

しおりを挟む
 俺の生活パターンは単純だ。

 季節により多少変わるが、日暮れまでの間に休憩を挟みつつ十数試合こなし、その後リオンと合流する。
 仲良く二人で城に帰って、一緒に夕食を取る。
 この繰り返しだ。

 時には1日15試合もこなすこともあり多く感じるかもしれないが、俺が真面目にやれば数秒で済むような相手がほとんどだ。
 だから過重労働というほどでもない。

 もちろん、数秒で終えてしまっては次から挑戦者がつかない。観客も喜ばない。
 荒くれ者相手の時はなるべく苦戦しているふりをしながら、20分程度かけて試合を消化する。

 女性剣士相手の時は当然ハンデ有りで戦うが、たまに観客からは見えないように視線を合わせ、にっこり微笑む。
 そうすると、たとえ負けても高確率で再チャレンジしてくれるのだ。

 俺としては、女性からまでも高い参加料をむしり取るのは心が痛むのだが、ここらへんの営業指導に関して王は物凄くドライで、

「明日の勤労意欲の糧となるはずだから、女性でも問題無し!!」

 との事だった。

 こんな事ばかり言ってるから、王はいい年して独身なんだよ……。
 大丈夫なのだろうか?

 それでもこの頃は新人も加わり、実態のアコギさとは裏腹に中々の華やかさだった。


 全ての試合が終われば、俺はリオンを連れてさっさと城に帰る。
 昔は闘技場の片付けをしてから帰っていたが、今は専任のスタッフがいるので試合さえきちんとこなせば後はお任せだ。

 城に帰ったら夕食を部屋に届けてもらい、リオンとゆっくり話しながら食べる。
 基本夕食は城の食堂で食べることになっているが、少しお金を払えば部屋まで届けてくれるサービスがあるため、最近はそっちを使うことが多い。

 食堂だと賑やか過ぎて落ち着かないし、サービス職なのでファンの女の子が寄ってきても無下には出来ない。
 でも俺はファンの子に囲まれるより、可愛いリオンと二人でゆっくり過ごしたいのだ。

 風呂を済ませたら、就寝までは一緒に勉強や盤を使ったゲームなどをして過ごす。
 お互い仕事があるので、一緒に過ごす時間はとても貴重だ。

 そうやっていつものように過ごしていたある夜、俺たちの部屋をノックする者があった。

 夜間にまで仕事が入ることはめったにない。
 アリシアかウルフだろうと思ってドアを開けると、王の使いが立っていた。

 俺に用があるらしい。

「ええっ!
 兄さん行っちゃうのですか?
 これから一緒にチェスタをするって約束してたのに……」

 相変わらずこぼれそうなほど大きな金の瞳を潤ませて、リオンが抗議の声を上げた。

 今、リオンは『兄様』ではなく『兄さん』と俺のことを呼ぶ。

 もう13歳をとっくに過ぎたし『兄様』なんて呼び方は目立ってしょうがない。
 惜しかったが変えさせた。

「悪いリオン。先に寝ててくれるか?
 こんな夜に俺を呼ぶってことは、それなりに緊急性があるのだと思うよ?」

 弟のふわふわの髪を優しく撫でてから身をひるがえし、使いの者に続く。
 本当はリオンとの約束を優先してやりたいが、勤め人であるからには公務を優先させねばならない。
 そのぐらいのわきまえは、俺にだってある。

 ……王はまた新しい企画でも立てたのだろうか?

 先日発売した『親衛隊抱き枕』の売れ行きは絶好調のようだが、出来たらもう少しまともな企画でありますように……。
 俺はそう念じながら、王の部屋のドアをノックした。

「やあ。こんな遅い時間に呼び立ててすまなかったね」

 相変わらずの喋り方で、アルフレッド王が俺を迎え入れる。

「今度は何を発売するのですか?
 言っておきますけど、リオンだけは外してくださいよ。
 もう十分儲っているのでしょう?」

 俺の必死の努力で『リオン抱き枕』の発売は差し止めた。
 いくらアガリが大きいと言っても、可愛い弟をほかの奴らの抱き枕にするわけにはいかない。

「いや、今回はそういった類の話ではない」

 いつも何気にテンションの高いアルフレッド王だが、今夜は違った。

「闘技場は明日から当分閉める。
 他の組織に潜り込ませていた部下から報告があった。
 我が組織を潰すため、『ヴァーユ』と『ロト』が手を組んだ」

 それを聞いてドクンと心臓が跳ねる。

『ヴァーユ』『ロト』は、ラフレイムの3大組織のうちの2つだ。
 ウチと違って麻薬や女を使った稼ぎを主としている。

 つまり正真正銘のマフィアということだ。

 とはいえ、そこそこ住み分けが出来ているため、普段は小競り合い程度の争いしかない。

 アルフレッド王が言葉を続ける。

「我が組織『ガルーダ』は、ここ1年で急速に力を付けた。
 他の組織が我らを危険視するのは当然だ。
 こちらからは、両組織に間者を潜ませて『ヴァーユ』と『ロト』を争わせるよう工作していたが……まぁ、そう上手くはいかないね。
 そこで君に頼みがある」

 アルフレッド王は一呼吸置いて話を続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『親衛隊抱き枕』は半分以上むさい男どもが買い、負けた腹いせのサンドバックとして使ってたりします。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...