滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第14章 明日を歩く

3.明日を歩く

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 更に1年がたった。

 春の訪れはどこも平等なようで、領内いたるところでブラサムの花が見事に咲いていて美しい。

 俺たちの生活は相変わらずだ。
 1日の大半を闘技場で過ごしている。

 時々疑問符が頭に浮かぶが、ここでの暮らしは思ったより楽しい。
 粗末な闘技場で働くのも、もう慣れた。

 その頃には、よその国に行こうなんて気はすっかり無くなっていた。
 有能な誰かの下にいるということは、なんと気楽な事かと心底思う。

 俺は元々、世継ぎ王子の器量など持ち合わせていなかったのだろう。

 何かをしようとすれば、それに見合う犠牲がでる。
 もうそんなのに疲れてしまった。

 自分で判断していた頃は常に間違い、リオンにもつらい思いをさせた。
 でも今はそうじゃない。

 俺たちはこの国に来てから、一度も人を殺していない。
 誰かを激しく憎んだり、憎まれたりすることもない。

 ここにいれば生活にも困らないし、王はちょっと変わったタイプではあるが、有能だ。

 彼の言うまま一生懸命働けば、それなりの幸せが簡単に手に入る。


「兄様おかえりなさいっ!」

 1日のノルマを果たして自室に帰ると、リオンが満面の笑みで迎えてくれた。

 やっぱり可愛いなぁ……!
 春の花々にも勝るかわいらしい顔と声。
 毎日見ているのに、やはりそのかわゆさに改めて感動する。

 それと同時に『弟がどうして女の子ではないのか』と、まだ毎日煩悶する。

 リオンは弟。
 どんなに理想のタイプでも弟っ!! 弟、弟、弟っ!!! 血縁者!!!

 心の中で繰り返しブツブツと唱え、心を落ち着けるのも昔から続く俺の日課の一つだ。

 リオンは男女の区別さえ知らなかったぐらいだから、もしかしたら俺が『好き』と言いさえすれば両想いになれるかもしれない……。
 そうだ、俺たちは結婚の約束すらしたことがあるではないか。

 弟のあまりの可愛らしさに、そんな考えが一瞬、頭をかすめる。

 そうすればこの綺麗で愛しい存在を、これからだってずっと……俺だけが独り占め出来るようになるのだろうか?

 でも、そんな相手の無知を利用するようなやり方はフェアじゃない。
 いくらブラコンを極めた俺でも、世間的に許される事とそうでない事の区別ぐらいはつく。

 第一リオンもエルシオン王家の王子の一人。
 今は小さくて女の子みたいだけど、成長して男っぽくなれば……こんな思いもきっと消えていくに違いない。

「そ、そうだ。次の休みなんだけど、二人で少し遠くまで、ピクニックにでも行こうか……」

 苦し紛れにそう言うと、リオンの顔は小さい子供のように輝いた。

 そうだよな。リオンはまだ子供なんだ。

 うん。
 リオンが嬉しそうだから、俺はこれだけで満足しなければいけない。
 だって俺はリオンの兄なのだから。

 国を出るときに望んだのとは違う形ではあったが、これも一つの幸せの形なのだろう。

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