107 / 437
第13章 親衛隊候補生
8.親衛隊候補生
しおりを挟む
撮影が一段落すると、俺たちは日常生活に戻ることができた。
朝から夕刻までが戦闘訓練。その後は皆でボロ机を寄せ合って、年相応の勉強などをして過ごす。
時々全員揃って城の庭園の草むしりや城内の掃除などにも駆り出されるが、そんなにしょっちゅうと言うほどでもない。
それを除けば故国の城にいた頃の生活にやや近く、懐かしささえ覚える。
今のところヤバイ命令などもなく、このまま穏やかに時が過ぎていってくれるのを願うばかりだ。
仲間となった連中とは最初、揉めた。
しかし彼らとの関係は予想していたよりは良いものとなった。
アリシアがあの後すぐ、彼らの懐柔にかかったのだ。
「昨日はごめんなさいネ♥」
容赦なくブラディを叩きのめした彼女は、次の日には手作りの差し入れなどを持ってきていた。その差し入れがまた美味い。
さすが料理上手な宿のおばさんの娘なだけはある。
大輪のバラのようなアリシアの微笑みにブラディは頬を染め、アッサムは放心したように見とれた。
馬鹿である。
これだから美人に免疫のない男は始末が悪い。
多分これはアリシアの仕掛けた罠なのに。
まず、喧嘩をふっかけてどちらの実力が上か体に教える。
次に歩み寄ったふりをして、優しく懐柔する。
こういう筋書きに違いない。
しかし馬鹿二人はものの見事に引っかかった。
男が美人に弱いというのはわかるけど、あの二人はもはやアリシアの奴隷と言っても過言ではない。
彼女が「喉が乾いちゃったわぁ」と言えば、二人競うように飲み物を持って行くし、時々アリシアの肩を揉ませていただいて、至福の表情を浮かべている。
アリシアの特技の一つに「雲を読んで天気を当てる」というものがあるのだが、当たるたびに、まるで女神のように崇めて褒めそやす。
アリシアと年の近いブラディはともかく、アッサムなんて彼女よりうんと年下なのに、どうしてああいうのがいいのだろうか?
常にデレデレしている。
凄く美人と言っても俺の母上ほどじゃないし、性格はキツイし、あと2年して20才を超えたらもうオバサンだ。
どう考えても純真可憐な優しい年下美少女の方がときめくと思うのだが、俺には彼らの考えがさっぱりわからない。
アリシアのおかげで俺たちへの当たりが柔らかくなったのは助かったが…………ブラディたちのような女に顎で使われる、情けない先輩にだけはなりたくないものだ。
リオンも彼らのことは常に白い目で見ている。
うんうん。
仲間と揉めるのはよろしくないが、ああいう奴らに感化されないのは結構な事だ。
これでリオンまで、
「アリシアお姉さまぁぁ~♥」
とか言い出して彼女の足とか揉みだしたら、俺は号泣する。
さて同僚のブラディは俺より4歳上。少年候補生の中では一番年上だ。
候補生歴も一番長い。
そのためリーダー役を任されている。
……が、ちょっと頼りない。
そのため今、実質仕切っているのはアリシアだ。
しかしブラディはアッサムと違って勉強だけは出来た。
話を聞いてみると、彼の親はブルボア王朝時代の貴族で、ほんの幼い頃に革命を経験し孤児となり、乳母に匿われながら成長したそうだ。
喋り方は全然貴族っぽくないが、見事な金髪と碧い瞳だけは確かに貴族っぽい。
次に、エキゾチックな雰囲気のアッサム。
彼はこの国の平民出身だ。
しかしブラディより2才年下のためか、ブルボア王国時代の記憶は全くないらしい。
チンピラとして暴れていたところを王にスカウトされ、昨年親衛隊候補生になったようだ。
彼は勉強はあまり出来ない。ていうか、全然出来ない。
ブラディに教えてもらいながら教科書を進めているが、スカウトされるまでは学校に通うことさえなかったというから驚きだ。
彼らが語るところによると、ラフレイムは治安の悪いひどい場所ではあるが、それでも革命当時よりはずいぶんマシになったらしい。
今は三大勢力と呼ばれるグループが仕切っており、ウチ以外は正真正銘のマフィアということだった。
それでも、数十のグループが争い競っていた無秩序時代に比べたらずいぶんマシになってきているのだという。
特にウチの『ガルーダ』が仕切る地区は、ああ見えて結構住みやすいらしい。
王城の内装は酷いものだったが、余力の全てを街の治安維持と産業の興隆に割いたという話だから仕方がなかったのだろう。
自分の贅沢より領民の事を考える王。
エルシオンでは当たり前だった事がこんな荒れた地で再現されている。
豊かな国々でさえ、中々出来ないことなのに。
頭のネジが少し外れているように思われた王だが、先輩たちの話を聞いているとそうでもないらしい。
部下たちにも、領地の人々にも彼は慕われているようだ。
逃げ込んできた他国の奴隷も王は差別しない。
ここでは奴隷も元犯罪者も秩序さえ守れば平等だ。
アリシアが言っていた『切れるリーダー』というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
もっとも王は聖人などではない。
俗な稼ぎ方が好きだし、スパイや明らかな反逆者が居れば俺には思いもつかないような方法であぶりだして処刑しているのも見た。
まっとうな国を望み、穏健な策をとりつつもあこぎな事もためらわずやる。それがアルフレッド王。
『どんなに強くてもずるさがなければ生きてはいけない』
アリシアのその言葉を聞いた時には、彼女がすごく歪んで見えた。
でも、『善の結界』の無い地ではそうやって我が身や大切な人を守るしかないのだ。
王もきっと、彼女と同じ思想で全ての事柄を実践しているのだろう。
朝から夕刻までが戦闘訓練。その後は皆でボロ机を寄せ合って、年相応の勉強などをして過ごす。
時々全員揃って城の庭園の草むしりや城内の掃除などにも駆り出されるが、そんなにしょっちゅうと言うほどでもない。
それを除けば故国の城にいた頃の生活にやや近く、懐かしささえ覚える。
今のところヤバイ命令などもなく、このまま穏やかに時が過ぎていってくれるのを願うばかりだ。
仲間となった連中とは最初、揉めた。
しかし彼らとの関係は予想していたよりは良いものとなった。
アリシアがあの後すぐ、彼らの懐柔にかかったのだ。
「昨日はごめんなさいネ♥」
容赦なくブラディを叩きのめした彼女は、次の日には手作りの差し入れなどを持ってきていた。その差し入れがまた美味い。
さすが料理上手な宿のおばさんの娘なだけはある。
大輪のバラのようなアリシアの微笑みにブラディは頬を染め、アッサムは放心したように見とれた。
馬鹿である。
これだから美人に免疫のない男は始末が悪い。
多分これはアリシアの仕掛けた罠なのに。
まず、喧嘩をふっかけてどちらの実力が上か体に教える。
次に歩み寄ったふりをして、優しく懐柔する。
こういう筋書きに違いない。
しかし馬鹿二人はものの見事に引っかかった。
男が美人に弱いというのはわかるけど、あの二人はもはやアリシアの奴隷と言っても過言ではない。
彼女が「喉が乾いちゃったわぁ」と言えば、二人競うように飲み物を持って行くし、時々アリシアの肩を揉ませていただいて、至福の表情を浮かべている。
アリシアの特技の一つに「雲を読んで天気を当てる」というものがあるのだが、当たるたびに、まるで女神のように崇めて褒めそやす。
アリシアと年の近いブラディはともかく、アッサムなんて彼女よりうんと年下なのに、どうしてああいうのがいいのだろうか?
常にデレデレしている。
凄く美人と言っても俺の母上ほどじゃないし、性格はキツイし、あと2年して20才を超えたらもうオバサンだ。
どう考えても純真可憐な優しい年下美少女の方がときめくと思うのだが、俺には彼らの考えがさっぱりわからない。
アリシアのおかげで俺たちへの当たりが柔らかくなったのは助かったが…………ブラディたちのような女に顎で使われる、情けない先輩にだけはなりたくないものだ。
リオンも彼らのことは常に白い目で見ている。
うんうん。
仲間と揉めるのはよろしくないが、ああいう奴らに感化されないのは結構な事だ。
これでリオンまで、
「アリシアお姉さまぁぁ~♥」
とか言い出して彼女の足とか揉みだしたら、俺は号泣する。
さて同僚のブラディは俺より4歳上。少年候補生の中では一番年上だ。
候補生歴も一番長い。
そのためリーダー役を任されている。
……が、ちょっと頼りない。
そのため今、実質仕切っているのはアリシアだ。
しかしブラディはアッサムと違って勉強だけは出来た。
話を聞いてみると、彼の親はブルボア王朝時代の貴族で、ほんの幼い頃に革命を経験し孤児となり、乳母に匿われながら成長したそうだ。
喋り方は全然貴族っぽくないが、見事な金髪と碧い瞳だけは確かに貴族っぽい。
次に、エキゾチックな雰囲気のアッサム。
彼はこの国の平民出身だ。
しかしブラディより2才年下のためか、ブルボア王国時代の記憶は全くないらしい。
チンピラとして暴れていたところを王にスカウトされ、昨年親衛隊候補生になったようだ。
彼は勉強はあまり出来ない。ていうか、全然出来ない。
ブラディに教えてもらいながら教科書を進めているが、スカウトされるまでは学校に通うことさえなかったというから驚きだ。
彼らが語るところによると、ラフレイムは治安の悪いひどい場所ではあるが、それでも革命当時よりはずいぶんマシになったらしい。
今は三大勢力と呼ばれるグループが仕切っており、ウチ以外は正真正銘のマフィアということだった。
それでも、数十のグループが争い競っていた無秩序時代に比べたらずいぶんマシになってきているのだという。
特にウチの『ガルーダ』が仕切る地区は、ああ見えて結構住みやすいらしい。
王城の内装は酷いものだったが、余力の全てを街の治安維持と産業の興隆に割いたという話だから仕方がなかったのだろう。
自分の贅沢より領民の事を考える王。
エルシオンでは当たり前だった事がこんな荒れた地で再現されている。
豊かな国々でさえ、中々出来ないことなのに。
頭のネジが少し外れているように思われた王だが、先輩たちの話を聞いているとそうでもないらしい。
部下たちにも、領地の人々にも彼は慕われているようだ。
逃げ込んできた他国の奴隷も王は差別しない。
ここでは奴隷も元犯罪者も秩序さえ守れば平等だ。
アリシアが言っていた『切れるリーダー』というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
もっとも王は聖人などではない。
俗な稼ぎ方が好きだし、スパイや明らかな反逆者が居れば俺には思いもつかないような方法であぶりだして処刑しているのも見た。
まっとうな国を望み、穏健な策をとりつつもあこぎな事もためらわずやる。それがアルフレッド王。
『どんなに強くてもずるさがなければ生きてはいけない』
アリシアのその言葉を聞いた時には、彼女がすごく歪んで見えた。
でも、『善の結界』の無い地ではそうやって我が身や大切な人を守るしかないのだ。
王もきっと、彼女と同じ思想で全ての事柄を実践しているのだろう。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。


皇帝陛下の深くてちょっと変な愛
ゴオルド
恋愛
皇帝陛下からプロポーズされてしまった神官ハルーティ。
求婚を回避するため、皇帝の幼馴染みを探すことにしたハルーティだったが、なぜか皇帝陛下が変装した姿であらわれて……。
「変装が雑すぎて正体バレバレなんですけど、どうしよう」
悪霊を退治したり、お葬式で儀式をしたり、布教対決をしたり、なんかいいムードになりかけたり、上司が素晴らしい投球(ナイスピッチング)を披露したり。
悪霊退治を得意とする神官ハルーティと
大陸諸国を統一して初代皇帝となったフレイズのちょっと変な溺愛ストーリーです。

サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜
たけのこ
ファンタジー
───────魔法使いは人ではない、魔物である。
この世界で唯一『魔力』を扱うことができる少数民族ガナン人。
彼らは自身の『価値あるもの』を対価に『魔法』を行使する。しかし魔に近い彼らは、只の人よりも容易くその身を魔物へと堕としやすいという負の面を持っていた。
人はそんな彼らを『魔法使い』と呼び、そしてその性質から迫害した。
四千年前の大戦に敗北し、帝国に完全に支配された魔法使い達。
そんな帝国の辺境にて、ガナン人の少年、クレル・シェパードはひっそりと生きていた。
身寄りのないクレルは、領主の娘であるアリシア・スカーレットと出逢う。
領主の屋敷の下働きとして過ごすクレルと、そんな彼の魔法を綺麗なものとして受け入れるアリシア……共に語らい、遊び、学びながら友情を育む二人であったが、ある日二人を引き裂く『魔物災害』が起こり――
アリシアはクレルを助けるために片腕を犠牲にし、クレルもアリシアを助けるために『アリシアとの思い出』を対価に捧げた。
――スカーレット家は没落。そして、事件の騒動が冷めやらぬうちにクレルは魔法使いの地下組織『奈落の底《アバドン》』に、アリシアは魔法使いを狩る皇帝直轄組織『特別対魔機関・バルバトス』に引きとられる。
記憶を失い、しかし想いだけが残ったクレル。
左腕を失い、再会の誓いを胸に抱くアリシア。
敵対し合う組織に身を置く事になった二人は、再び出逢い、笑い合う事が許されるのか……それはまだ誰にもわからない。
==========
この小説はダブル主人公であり序章では二人の幼少期を、それから一章ごとに視点を切り替えて話を進めます。
==========
タビスー女神の刻印を持つ者ー【また、私を見つけてね】
オオオカ エピ
ファンタジー
妻の記憶を持つ女性が現れた?
彼女は生まれ変わりだとでも言うの?どーしろって言うんだ、今更!?
■ ■ ■
一振りの剣があった。
負の感情が寄り集まって魔物と化し、人に取り憑く歪な世界で、唯一魔物を廃せる一振りの剣。
弱い心は魔物に魂を食べられてしまうから。
正しい行いをしていれば、魔物を廃する剣を携えたユリウスと名乗る美しい人が助けてくれる。
そんな御伽噺を幼い時分に聞いて育つ。
だが、所詮御伽噺。
何かの教訓話だとしても、真に受ける者がどれ程いようか。
月の女神を信仰する大国月星には、タビスという神官がいる。
女神の刻印をその身に持っち生まれ、女神の代弁者と云われつつも、声すら届かない女神を当代のタビスは信じていなかった。
だが、ユリウスのことは信じた。
実際に魔物と接触したタビスは、魔物を廃する御伽噺を辿り、ユリウスを探し出し、その剣を手にした。
月日が流れた。
巫覡を始祖とし、竜の加護を持つ竜護星。
その国主だった女王レイナは、三十六歳という若さで病いで逝ってしまった。
忘れ形見の娘マイヤは先祖返りの真正の巫覡だった。
巫覡たる娘の力を借りながら、タビスは再びユリウスを探している。
四歳歳下の妻レイナの死から二十五年。
タビスの姿は三十歳程度の姿のまま歳をとっていない。
人ならざるユリウスには、人の一生はあまりに短い。
剣を預けたことで、タビスに何かをさせたいユリウスは、約束を果たさせる為に彼の歳を停めたという。
今代のタビスの名はアトラス・ウル・ボレアデスといった。
月星前王アウルムの弟である。
■ ■ ■
※本作は小説家になろう様
カクヨム様に長編として投稿している作品の抜粋です。
十二章「鴉の思惑」の改訂版にあたります。

[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる