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第13章 親衛隊候補生
8.親衛隊候補生
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撮影が一段落すると、俺たちは日常生活に戻ることができた。
朝から夕刻までが戦闘訓練。その後は皆でボロ机を寄せ合って、年相応の勉強などをして過ごす。
時々全員揃って城の庭園の草むしりや城内の掃除などにも駆り出されるが、そんなにしょっちゅうと言うほどでもない。
それを除けば故国の城にいた頃の生活にやや近く、懐かしささえ覚える。
今のところヤバイ命令などもなく、このまま穏やかに時が過ぎていってくれるのを願うばかりだ。
仲間となった連中とは最初、揉めた。
しかし彼らとの関係は予想していたよりは良いものとなった。
アリシアがあの後すぐ、彼らの懐柔にかかったのだ。
「昨日はごめんなさいネ♥」
容赦なくブラディを叩きのめした彼女は、次の日には手作りの差し入れなどを持ってきていた。その差し入れがまた美味い。
さすが料理上手な宿のおばさんの娘なだけはある。
大輪のバラのようなアリシアの微笑みにブラディは頬を染め、アッサムは放心したように見とれた。
馬鹿である。
これだから美人に免疫のない男は始末が悪い。
多分これはアリシアの仕掛けた罠なのに。
まず、喧嘩をふっかけてどちらの実力が上か体に教える。
次に歩み寄ったふりをして、優しく懐柔する。
こういう筋書きに違いない。
しかし馬鹿二人はものの見事に引っかかった。
男が美人に弱いというのはわかるけど、あの二人はもはやアリシアの奴隷と言っても過言ではない。
彼女が「喉が乾いちゃったわぁ」と言えば、二人競うように飲み物を持って行くし、時々アリシアの肩を揉ませていただいて、至福の表情を浮かべている。
アリシアの特技の一つに「雲を読んで天気を当てる」というものがあるのだが、当たるたびに、まるで女神のように崇めて褒めそやす。
アリシアと年の近いブラディはともかく、アッサムなんて彼女よりうんと年下なのに、どうしてああいうのがいいのだろうか?
常にデレデレしている。
凄く美人と言っても俺の母上ほどじゃないし、性格はキツイし、あと2年して20才を超えたらもうオバサンだ。
どう考えても純真可憐な優しい年下美少女の方がときめくと思うのだが、俺には彼らの考えがさっぱりわからない。
アリシアのおかげで俺たちへの当たりが柔らかくなったのは助かったが…………ブラディたちのような女に顎で使われる、情けない先輩にだけはなりたくないものだ。
リオンも彼らのことは常に白い目で見ている。
うんうん。
仲間と揉めるのはよろしくないが、ああいう奴らに感化されないのは結構な事だ。
これでリオンまで、
「アリシアお姉さまぁぁ~♥」
とか言い出して彼女の足とか揉みだしたら、俺は号泣する。
さて同僚のブラディは俺より4歳上。少年候補生の中では一番年上だ。
候補生歴も一番長い。
そのためリーダー役を任されている。
……が、ちょっと頼りない。
そのため今、実質仕切っているのはアリシアだ。
しかしブラディはアッサムと違って勉強だけは出来た。
話を聞いてみると、彼の親はブルボア王朝時代の貴族で、ほんの幼い頃に革命を経験し孤児となり、乳母に匿われながら成長したそうだ。
喋り方は全然貴族っぽくないが、見事な金髪と碧い瞳だけは確かに貴族っぽい。
次に、エキゾチックな雰囲気のアッサム。
彼はこの国の平民出身だ。
しかしブラディより2才年下のためか、ブルボア王国時代の記憶は全くないらしい。
チンピラとして暴れていたところを王にスカウトされ、昨年親衛隊候補生になったようだ。
彼は勉強はあまり出来ない。ていうか、全然出来ない。
ブラディに教えてもらいながら教科書を進めているが、スカウトされるまでは学校に通うことさえなかったというから驚きだ。
彼らが語るところによると、ラフレイムは治安の悪いひどい場所ではあるが、それでも革命当時よりはずいぶんマシになったらしい。
今は三大勢力と呼ばれるグループが仕切っており、ウチ以外は正真正銘のマフィアということだった。
それでも、数十のグループが争い競っていた無秩序時代に比べたらずいぶんマシになってきているのだという。
特にウチの『ガルーダ』が仕切る地区は、ああ見えて結構住みやすいらしい。
王城の内装は酷いものだったが、余力の全てを街の治安維持と産業の興隆に割いたという話だから仕方がなかったのだろう。
自分の贅沢より領民の事を考える王。
エルシオンでは当たり前だった事がこんな荒れた地で再現されている。
豊かな国々でさえ、中々出来ないことなのに。
頭のネジが少し外れているように思われた王だが、先輩たちの話を聞いているとそうでもないらしい。
部下たちにも、領地の人々にも彼は慕われているようだ。
逃げ込んできた他国の奴隷も王は差別しない。
ここでは奴隷も元犯罪者も秩序さえ守れば平等だ。
アリシアが言っていた『切れるリーダー』というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
もっとも王は聖人などではない。
俗な稼ぎ方が好きだし、スパイや明らかな反逆者が居れば俺には思いもつかないような方法であぶりだして処刑しているのも見た。
まっとうな国を望み、穏健な策をとりつつもあこぎな事もためらわずやる。それがアルフレッド王。
『どんなに強くてもずるさがなければ生きてはいけない』
アリシアのその言葉を聞いた時には、彼女がすごく歪んで見えた。
でも、『善の結界』の無い地ではそうやって我が身や大切な人を守るしかないのだ。
王もきっと、彼女と同じ思想で全ての事柄を実践しているのだろう。
朝から夕刻までが戦闘訓練。その後は皆でボロ机を寄せ合って、年相応の勉強などをして過ごす。
時々全員揃って城の庭園の草むしりや城内の掃除などにも駆り出されるが、そんなにしょっちゅうと言うほどでもない。
それを除けば故国の城にいた頃の生活にやや近く、懐かしささえ覚える。
今のところヤバイ命令などもなく、このまま穏やかに時が過ぎていってくれるのを願うばかりだ。
仲間となった連中とは最初、揉めた。
しかし彼らとの関係は予想していたよりは良いものとなった。
アリシアがあの後すぐ、彼らの懐柔にかかったのだ。
「昨日はごめんなさいネ♥」
容赦なくブラディを叩きのめした彼女は、次の日には手作りの差し入れなどを持ってきていた。その差し入れがまた美味い。
さすが料理上手な宿のおばさんの娘なだけはある。
大輪のバラのようなアリシアの微笑みにブラディは頬を染め、アッサムは放心したように見とれた。
馬鹿である。
これだから美人に免疫のない男は始末が悪い。
多分これはアリシアの仕掛けた罠なのに。
まず、喧嘩をふっかけてどちらの実力が上か体に教える。
次に歩み寄ったふりをして、優しく懐柔する。
こういう筋書きに違いない。
しかし馬鹿二人はものの見事に引っかかった。
男が美人に弱いというのはわかるけど、あの二人はもはやアリシアの奴隷と言っても過言ではない。
彼女が「喉が乾いちゃったわぁ」と言えば、二人競うように飲み物を持って行くし、時々アリシアの肩を揉ませていただいて、至福の表情を浮かべている。
アリシアの特技の一つに「雲を読んで天気を当てる」というものがあるのだが、当たるたびに、まるで女神のように崇めて褒めそやす。
アリシアと年の近いブラディはともかく、アッサムなんて彼女よりうんと年下なのに、どうしてああいうのがいいのだろうか?
常にデレデレしている。
凄く美人と言っても俺の母上ほどじゃないし、性格はキツイし、あと2年して20才を超えたらもうオバサンだ。
どう考えても純真可憐な優しい年下美少女の方がときめくと思うのだが、俺には彼らの考えがさっぱりわからない。
アリシアのおかげで俺たちへの当たりが柔らかくなったのは助かったが…………ブラディたちのような女に顎で使われる、情けない先輩にだけはなりたくないものだ。
リオンも彼らのことは常に白い目で見ている。
うんうん。
仲間と揉めるのはよろしくないが、ああいう奴らに感化されないのは結構な事だ。
これでリオンまで、
「アリシアお姉さまぁぁ~♥」
とか言い出して彼女の足とか揉みだしたら、俺は号泣する。
さて同僚のブラディは俺より4歳上。少年候補生の中では一番年上だ。
候補生歴も一番長い。
そのためリーダー役を任されている。
……が、ちょっと頼りない。
そのため今、実質仕切っているのはアリシアだ。
しかしブラディはアッサムと違って勉強だけは出来た。
話を聞いてみると、彼の親はブルボア王朝時代の貴族で、ほんの幼い頃に革命を経験し孤児となり、乳母に匿われながら成長したそうだ。
喋り方は全然貴族っぽくないが、見事な金髪と碧い瞳だけは確かに貴族っぽい。
次に、エキゾチックな雰囲気のアッサム。
彼はこの国の平民出身だ。
しかしブラディより2才年下のためか、ブルボア王国時代の記憶は全くないらしい。
チンピラとして暴れていたところを王にスカウトされ、昨年親衛隊候補生になったようだ。
彼は勉強はあまり出来ない。ていうか、全然出来ない。
ブラディに教えてもらいながら教科書を進めているが、スカウトされるまでは学校に通うことさえなかったというから驚きだ。
彼らが語るところによると、ラフレイムは治安の悪いひどい場所ではあるが、それでも革命当時よりはずいぶんマシになったらしい。
今は三大勢力と呼ばれるグループが仕切っており、ウチ以外は正真正銘のマフィアということだった。
それでも、数十のグループが争い競っていた無秩序時代に比べたらずいぶんマシになってきているのだという。
特にウチの『ガルーダ』が仕切る地区は、ああ見えて結構住みやすいらしい。
王城の内装は酷いものだったが、余力の全てを街の治安維持と産業の興隆に割いたという話だから仕方がなかったのだろう。
自分の贅沢より領民の事を考える王。
エルシオンでは当たり前だった事がこんな荒れた地で再現されている。
豊かな国々でさえ、中々出来ないことなのに。
頭のネジが少し外れているように思われた王だが、先輩たちの話を聞いているとそうでもないらしい。
部下たちにも、領地の人々にも彼は慕われているようだ。
逃げ込んできた他国の奴隷も王は差別しない。
ここでは奴隷も元犯罪者も秩序さえ守れば平等だ。
アリシアが言っていた『切れるリーダー』というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
もっとも王は聖人などではない。
俗な稼ぎ方が好きだし、スパイや明らかな反逆者が居れば俺には思いもつかないような方法であぶりだして処刑しているのも見た。
まっとうな国を望み、穏健な策をとりつつもあこぎな事もためらわずやる。それがアルフレッド王。
『どんなに強くてもずるさがなければ生きてはいけない』
アリシアのその言葉を聞いた時には、彼女がすごく歪んで見えた。
でも、『善の結界』の無い地ではそうやって我が身や大切な人を守るしかないのだ。
王もきっと、彼女と同じ思想で全ての事柄を実践しているのだろう。
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