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第13章 親衛隊候補生

2.親衛隊候補生

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 でも実は2人の試合を前に、とてもドキドキしている。
 いろいろ教えはしたが、『手加減』をリオンが『人』に実践するのは初めてなのだ。

 リオンは幼い頃から『一撃必殺』だけを教え込まれてきたらしい。
 俺の言うことをよく聞いて手加減の練習をしてはいたが、あるときは人に見立てた木々を真っ二つに切り、あるときは防具に見立てた岩を砕き、あるときは……。

 う。だんだん不安になってきた。
 ちゃんと最後には上手く加減できるようになったのだが、今度の相手は動かない岩や木ではなく、人間。
 練習の通りできるのかは、疑わしい。

 リオンに渡したのは訓練用の模造刀だけど、食卓ナイフ一本で相手を仕留めることのできる弟にとっては十分すぎる武器となるだろう。

 いざ敵を前にすると、勝手に体が動いて殺してしまうのではないか?

 いや、兄である俺がリオンを信じなくてどうするっ!?
 リオンはやれば出来る子なのだ!!

 俺が手取り足取り教えてやって、リオンも頑張っていたじゃないか。
 そうとも、きっと大丈夫!!!

 大丈夫……なはず…………。

 うん……大丈夫だと…………いいなぁ…………。

 …………でも念のため……ずらかる準備もしておくか……。
 アリシアも『ずるさ』は重要と言っていたし。


 ドキドキハラハラする中、リオンはブラディと向き合った。 
 試合開始の笛が響き渡る。

 勝負は一瞬だった。

 リオンは以前俺が言ったいいつけを守って、魔剣を出しはしなかった。
 手加減もした。

 でも、ブラディの腕は変な方向に曲がってしまっている。
 肋骨も何本かヒビが入ったようだ。

 ……しかしこれなら命に別状ないだろう。
 練習中の怪我なら、城の専属治癒師が治すとアルフレッド王も言っていたし。

 アリシアに言われた通り、あらかじめリオンに手加減の方法を教えておいて良かった!!
 ちょっと想定より被害が出ているが、今までの戦い方を思えばたいした進歩だ。

「凄いじゃないかリオン、ちゃんと生かして倒せてるじゃないか!!」

 リオンは嬉しさを隠しきれない様子で、可愛らしく無邪気に笑った。

「兄様が『てかげん』というものを教えて下さったおかげです!
 ありがとうございます!!」

 お互い見つめ合い、感動のあまりひしっと抱き合う俺たちにアリシアが、

「ちょっとブラコン兄弟!! これのどこが手加減よ! 
 修練中のケガは城の治癒師が直してくれるったってやりすぎよ! 
 コイツら超弱いんだから、もっと加減させなさいよ!!」 

 アリシアの言葉に今度はアッサムが切れた。

「……誰が超弱いって?」

 彼は低く呟くとアリシアに向かって剣を向けた。

「ふうん。いいわ、相手をしてあげる。
 エル。剣を貸して頂戴。リオンに本当の手加減というものを見せてあげるわ」

 俺から剣を奪い取るように借りると、アリシアはソレをアッサムに向けた。

 結論から言うと、勝者はアリシアだった。
 しかも相手を傷つけもせず、あっという間に完勝した。

 あいつらどんだけ弱いんだ。
 というか、こんな奴らを本当に親衛隊にして良いのか?

 確かにその辺のならず者たちよりはかなりマシな腕のように思われるが……女子供に負けるようでは情けない。

 アリシアの方は息も乱さず勝ち誇っている。
 自己流と一目でわかる力業の剣だが、それでもこれなら並みの兵士の力量を軽く越しているだろう。

 少女時代に人買いに売られて、その後は奴隷侍女として過ごしていたはずなのに……と腑に落ちない顔で見ていたら、

「ふふん。3歳の時から宿の重い食器を運び、お屋敷勤めをしだしてからは人手が足りなくて、男2人で抱えるような大きな水瓶も1人で運んだわ。
 体力と力なら、その辺の男に負けはしないわよっ。 オホホホ!!!」

 と、高笑いした。
 恐るべし、アリシア。

 その一件以来、親衛隊候補生の中に、幼いリオンと女性のアリシアも入る事となった。

 
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