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第13章 親衛隊候補生

1.親衛隊候補生

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 俺の『親衛隊候補生』としての生活が始まった。

 ……と言ったら華やかそうに聞こえるのだろうが、実際はそんなことは全くない。
 小ホール控え室程度の広さの地下室を練習所として与えられているだけで、その中は薄汚れ、天井にはクモの巣が張っている。
 この場所の掃除は候補生自身が行うそうだ。
 しかし男しかいないせいか行き届いていない。

 また、今のところ専属の教官すら居ず、基本「自分たちで切磋琢磨するように」との事だった。

 親衛隊候補生は俺を含め、全部で3人居た。
 金髪碧眼のキザな優男ブラディ。こいつは俺より4歳上。
 黒髪長髪のエキゾチックな美少年アッサム。こいつは俺より2歳年上。
 そして13歳の俺。

 しかし新入り歓迎会と称した候補生同士の模擬戦をして、俺はため息をついた。

 弱い。弱すぎる!!!
 こいつら顔だけだッ!!!!

 まあ、俺は幼い頃から次期王位継承者として一流の剣士や武術家に指導してもらってきた。
 チンピラごときが俺の相手になるものではない。
 1回り上までなら10才を過ぎては負け無しだし、負けた記憶があるのも正直言って2人の師匠と教育係のエドワード、それに父上ぐらいだ。

 もっともここしばらくはリオンを見て、
『あれ? 俺って意外とフツー? というか、弱い?』
 なんて思い始めていたが、こいつら程度なら2人まとめてでも軽く勝てる。

 リオンは俺が親衛隊に入ったら寂しくなるとずっとしょんぼりしていたが、今は珍しくはしゃいでアリシアと共に俺の応援をしてくれている。

 ああ、可愛いなぁ……。

 こうやって見てると本当に無邪気で年相応。まじ天使。
 兄の欲目を引いたとしても、めちゃくちゃ可愛い。

 でも、下種な他の候補生たちは弟の可愛いらしい応援がカンに障ったようだ。

「おい、お嬢ちゃん。お前、生意気なんだよ」

 1回戦で既に俺に負けて座っていたブラディが立ち上がり、リオンの襟首を掴む。

「や、やめて下さい!!」

 リオンが抗議の声を上げた。
 助けようと走り寄ると、同じく見物に来ていたアリシアが俺の服を引っ張った。

「やらせときゃいいのよ!! 影でこそこそやられた方が困るんだから!
 リオン、手加減はちゃんとエルに教わったのでしょ?
 そこのお馬鹿、やっちゃっていいわ。
 でも、この子たちはこれから同僚になるのだから、絶対殺しちゃ駄目だからねッ!!」

 アリシアの言葉を受けて、リオンは俺の許可を求めるように瞳を合わせてきた。

 まぁ、いいだろう。
 俺は無言で頷いた。

 確かにこっそりと影でリオンをいじめられると困る。
 ……命の保障が出来ない的な意味で。

 それなら俺の目がある時に、練習試合としてやりあったほうがいい。

 旅の間のリオンは、敵には全く容赦しなかった。
 上手くこっちでストップをかければ殺さずにおいてくれるのだが、止めるタイミングが合わなければ勝手に一撃で殺してしまう。
 そこでアリシアの勧めにしたがって、弟には手加減の方法を教えておいた。

 そっかー。
 そうだよな。

 俺は、『リオンを戦わせないこと』『守ること』その二つしか考えていなかった。
 しかし、こんなぶっそうな環境の中では、その2つはとても難しい。

 なら、根本からオカシイ、リオンの殺人術を修正するところから入れば良かったのだ。
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