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第12章 転機
1.転機
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「行くなら、『ラフレイム帝国』でしょうね……」
馬車の隣の席からアリシアが口を挟んだ。
この女性は元奴隷なのだが、そういう陰りは全く見えない。
いや、見せない。
キャブリオレと呼ばれる俺たちの乗った簡素な馬車は軽量軽装で、座席は前を向いて並んで座るように作られている。
そのうちひとつは御者用だ。
王子の俺が御者席というのも何だが、リオンや女性にさせるわけにはいかないので自然と俺が御者ということになる。
本来2人がけのところを3人で座るため、少しキツイが話をするには大型のキャリッジ馬車より便利でいい。
アリシアが口を挟んだのは、丁度リオンと次の行く先について話し合っているときだった。
本当は今まで通り、2人で旅するつもりだったのだが、
「この馬車は私が乗ってきたんだから。それに私は役にたつわよ!」
と言って当たり前のようにくっついてきたアリシアを捨てていくわけにもいかず、俺たちはしばらくの間 一緒に旅をすることとなった。
実際アリシアは何をするにつけても手際が良く、正直言って感嘆を禁じえない。
持ち込んだ食料の調理もうまいし、女性ながら馬の調整もプロ並みだ。
天気なども雲を読んで当ててしまうし、俺が全く知らないような雑学もよく知っている。
「ねぇ、リオン君って魔剣士でしょう? 普通の国には住みづらいんじゃない?
エル君も魔力ありそうだし……治癒師とかならともかく、戦闘系の魔道士は結構風当たり強いわよ?
ちょっと遠いけど『ラフレイム帝国』なら戦闘系魔道士への差別も少ないし、いいんじゃない?」
う~ん、そう言われてみればそうかも。
戦闘系魔道士は忌まれる。そんな話はたまに聞いていた。
とはいえ俺は魔道士の居ない(とされている)国・エルシオン育ち。
魔力があろうとなかろうと、そういうのには縁の無い生活をしてきた。
そして始祖王と共に国を作り上げた『最後の魔道士』アースラは、崇拝の対象だった。
だからその手の差別の話を聞いても、
「へ~、そうなんだ~。ふ~ん?」
ぐらいの感想しかもったことはない。
魔剣士が忌まれるとしても、俺とリオンがまっとうな職に就いて、まっとうに暮らしていく限りバレることなんかあるはずもないし、問題は一切ないと考えていた。
しかし、豊かで暮らしやすいと言われる『シリウス王国』でさえ故国とは比べ物にならないほど物騒だった。
そしてリオンは手が早い。
俺のピンチには後先考えず魔剣を出す可能性が、とても高い。
う~ん、ここはよく考えて結論を出さないと。
悩む俺の脳裏に、
俺ピンチになる → リオンそいつを魔剣で殺す → 民衆にバレて悪魔扱い → 取り囲まれ、石を投げられる → 怒ったリオンが町民全てを皆殺し。
という悪夢のような連想ゲームがパタパタと展開されていった。
だめだ……確かに普通の町に行くのはヤバイっ!!
「じゃ、『ラフレイム帝国』にでも行くか? リオン!」
「はぁ……まぁ……僕はそういうのはよくわかりません。
でも、兄様の行かれるところでしたら、どこまでも一緒に参ります」
リオンは少し不安そうな表情だったが、それは『ラフレイム帝国』以外の国に行くことになっても同じだろう。
外の世界のことをほとんど知らないのだから。
「よし、決まりだな!!」
リオンは黙って頷いたけど、アリシアの同行に対してはかなり不満なようだった。
彼女とはろくに口もきかない。
そして警戒の色を全く隠さない。
確かにアリシアは、俺の母上のような善良で優しい人間ではない。
それでも色々話をしてみると、そんなに悪い奴ではなさそうなんだけどなぁ。
しかし外の世界に出てから今まで、散々酷い目にあってきたリオンだ。
ま……仕方がないのかな?
あんなに慕っていた彼女の母親に騙され、奴隷に売られたばかりなのだ。
無理やり仲良くさせても、今のリオンには辛いだけだろう。
「しかし、ラフレイム帝国……なんてあったっけ?」
馬車の隣の席からアリシアが口を挟んだ。
この女性は元奴隷なのだが、そういう陰りは全く見えない。
いや、見せない。
キャブリオレと呼ばれる俺たちの乗った簡素な馬車は軽量軽装で、座席は前を向いて並んで座るように作られている。
そのうちひとつは御者用だ。
王子の俺が御者席というのも何だが、リオンや女性にさせるわけにはいかないので自然と俺が御者ということになる。
本来2人がけのところを3人で座るため、少しキツイが話をするには大型のキャリッジ馬車より便利でいい。
アリシアが口を挟んだのは、丁度リオンと次の行く先について話し合っているときだった。
本当は今まで通り、2人で旅するつもりだったのだが、
「この馬車は私が乗ってきたんだから。それに私は役にたつわよ!」
と言って当たり前のようにくっついてきたアリシアを捨てていくわけにもいかず、俺たちはしばらくの間 一緒に旅をすることとなった。
実際アリシアは何をするにつけても手際が良く、正直言って感嘆を禁じえない。
持ち込んだ食料の調理もうまいし、女性ながら馬の調整もプロ並みだ。
天気なども雲を読んで当ててしまうし、俺が全く知らないような雑学もよく知っている。
「ねぇ、リオン君って魔剣士でしょう? 普通の国には住みづらいんじゃない?
エル君も魔力ありそうだし……治癒師とかならともかく、戦闘系の魔道士は結構風当たり強いわよ?
ちょっと遠いけど『ラフレイム帝国』なら戦闘系魔道士への差別も少ないし、いいんじゃない?」
う~ん、そう言われてみればそうかも。
戦闘系魔道士は忌まれる。そんな話はたまに聞いていた。
とはいえ俺は魔道士の居ない(とされている)国・エルシオン育ち。
魔力があろうとなかろうと、そういうのには縁の無い生活をしてきた。
そして始祖王と共に国を作り上げた『最後の魔道士』アースラは、崇拝の対象だった。
だからその手の差別の話を聞いても、
「へ~、そうなんだ~。ふ~ん?」
ぐらいの感想しかもったことはない。
魔剣士が忌まれるとしても、俺とリオンがまっとうな職に就いて、まっとうに暮らしていく限りバレることなんかあるはずもないし、問題は一切ないと考えていた。
しかし、豊かで暮らしやすいと言われる『シリウス王国』でさえ故国とは比べ物にならないほど物騒だった。
そしてリオンは手が早い。
俺のピンチには後先考えず魔剣を出す可能性が、とても高い。
う~ん、ここはよく考えて結論を出さないと。
悩む俺の脳裏に、
俺ピンチになる → リオンそいつを魔剣で殺す → 民衆にバレて悪魔扱い → 取り囲まれ、石を投げられる → 怒ったリオンが町民全てを皆殺し。
という悪夢のような連想ゲームがパタパタと展開されていった。
だめだ……確かに普通の町に行くのはヤバイっ!!
「じゃ、『ラフレイム帝国』にでも行くか? リオン!」
「はぁ……まぁ……僕はそういうのはよくわかりません。
でも、兄様の行かれるところでしたら、どこまでも一緒に参ります」
リオンは少し不安そうな表情だったが、それは『ラフレイム帝国』以外の国に行くことになっても同じだろう。
外の世界のことをほとんど知らないのだから。
「よし、決まりだな!!」
リオンは黙って頷いたけど、アリシアの同行に対してはかなり不満なようだった。
彼女とはろくに口もきかない。
そして警戒の色を全く隠さない。
確かにアリシアは、俺の母上のような善良で優しい人間ではない。
それでも色々話をしてみると、そんなに悪い奴ではなさそうなんだけどなぁ。
しかし外の世界に出てから今まで、散々酷い目にあってきたリオンだ。
ま……仕方がないのかな?
あんなに慕っていた彼女の母親に騙され、奴隷に売られたばかりなのだ。
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「しかし、ラフレイム帝国……なんてあったっけ?」
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