84 / 437
第11章 暗転
6.暗転★
しおりを挟む女性の年は、多分20歳ぐらい。
服装はとても質素だが、長い栗色の髪と魅惑的なスタイルが印象的な、たいした美人だ。
鎖の美女を連れた男は、俺を見ると言った。
「おい小僧。この宿の主人を呼んできてくれ。
待ち望んだ商品が到着したと伝えれば、わかるはずだ」
俺は直感した。
この美しい人は、この安宿に売られてきたのだと。
他国には美しい女を使って、特別の方法で客をもてなす宿があると聞いたことがある。
あのクソ婆は、こんなか弱い女性すら商品にして稼ごうと企んでいたのだろう。
「……宿の主人は今日は不在なのです。俺が預かっている代金をお支払いしますので、その方をこちらにお渡し下さい」
俺がそう言うと、男はどうしたものかと戸惑いを見せた。
その間に、側に控えたリオンが音も無くエラジーを引き抜く。
俺はそれを止めるでもなく、ただ目の端に留めていた。
どうせこの男だって人買。
生きてたって、世の迷惑になるだけだ。
「ぐ……あぁ……」
一撃で殺すのが得意なリオンの手により、男はさして騒ぎもせずに絶命した。
女性の方に騒がれると少々まずいと思っていたが、女性はまったく騒がなかった。
「あら……? お金が貯まったと聞いたのだけど、足りなかったのかしら?」
女性は血まみれの男をちらっと見ただけで俺たちのほうに視線を戻し、落ち着いた様子でにっこりと微笑んだ。
何だか、これはこれでやりずらい。
「ああ、申し遅れましたが私はアリシアと申します。
とりあえず、手錠をはずしてくださいませんこと?」
アリシアと名乗った女性は、優雅に手を持ち上げた。
死んだ男のポケットから見つけ出した鍵で束縛を解いてやると、アリシアは少し赤くなった手首をさすりながら俺たちに言った。
「それで母さんはどこに出かけたのかしら?
やっと娘を買い戻せたのに、居ないって変よねえ?」
え……。
「母さんよ。ミランダ・シャーレット。この宿の女主人。あなた達新人?
まあこの辺では知れ渡っているでしょうけど、母さんは行く当ての無い孤児を拾って働かせてあげたばっかりに、タカリ屋に搾り取られて私を借金のカタに取られたの。
だけど『やっとお金が貯まったから一刻も早く買い戻したい』って連絡があったんで、売られていった先のお屋敷から連れて来られたのよ。
さ、主人の娘に道を開けなさい」
奴隷娘とも思われぬ堂々とした立ち振る舞いに、俺は思わず一歩下がった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。


主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる